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第198話「教えてあげる」

 次の日学園へと行った俺は、一つの違和感を覚える。

 最低でも文句を言ってくると思っていたアリアが、咲姫の欠席について何一つ文句を言ってこないのだ。


 テスト勝負が成立しなくなってこいつの思惑は崩れてしまったはず。

 それなのに、どうして楽しそうに笑っているのか。


 ――その理由は、訓練の休憩中にアリスさんが教えてくれた。


「はぁ!? 雲母がアリアにテスト勝負を挑んだ!?」


 アリスさんから告げられたのは、テスト初日の朝に、咲姫の代わりで雲母がアリアにテスト勝負を挑んだという事。

 学力では到底敵うはずがないのに、どうしてこんな無謀な事をしたのか。

 そもそも、咲姫の代わりを雲母がするメリットすら見えない。


 アリアにまだ憎しみを抱いていて、思わず突っかかった?


 ――いや、雲母はそんな子供じゃない。

 あいつは出会った頃と変わっているし、無謀に突っ走るような事はしない奴だ。


 考えられるのは、この人が雲母に何か吹っ掛けたという事だが――。


 俺はチラッとアリスさんの顔を見る。

 するとアリスさんは、ニコッと優しい笑みを浮かべた。

 それはまるで、俺が心の中で出した結論が正しいと言うかのように。


 この人は人の考えを容易に見抜くくらいずば抜けた洞察力を持っているのだが、たまに本当に化けものだと思う。


「もしかして、あなたはこの訓練以外にも何か裏でしているのですか? そしてそれには、桜ちゃんも関わっている?」

「少ないヒントだけで……答えにたどり着ける君も……大概人間離れ……していると思うけど……。ちびっこ天使はおまけ……というのと……少しばかりの……発破材……」

「発破材? つまり、雲母に対するという事ですか?」


 俺の質問に、アリスさんはコクリと頷く。


 なるほどな……色々と、見えてきた。

 アリスさんは雲母と桜ちゃんに勉強を教えているのだ。

 狙いは定かではないが、咲姫の病気を予知していた――という事はさすがにありえない。

 いくらアリスさんが化けもの染みているとは、神ではないのだから他人の体調を一週間以上も前から予知する事は出来ない。


 ……当日の体調不良くらいなら、一瞬で見抜きそうな気はするが……。


 まぁだから、何か別の理由があったのだろう。

 考えられるのは、もしもの場合を考えての保険という事だ。

 学力では底辺を這う雲母とはいえ、アリスさんなら学園程度のテストなら満点を取れるくらいには鍛えれそうだし。

 それに、アリアに一位を取らせなければ別に咲姫が一番になる必要はないからな。


「君は……アリスを買いかぶりすぎ……。アリスに出来るのは……才能を正しい方向に……導いてあげる事だけで……ない才能を……育てる事は出来ない……」


 なんだかもう、この人には言葉が必要ない気がしてきた。

 まぁ正確に伝えるにはちゃんと言葉にしないと駄目だけど。


「無理なら、どうして雲母に勉強を教えたり、アリアにぶつけたりしたのですか? あなたが無駄な事をするわけがありませんよね?」


 俺は彼女に真意を尋ねる。


 彼女が無理と言うなら、本当に雲母をアリアに勝たせるのは無理なのだろう。

 それなら、雲母に勉強を教えていた時間は無駄だという事だ。

 いったいどういう考えがあるのか知りたい。


「君は……まだ見落としがある……。先入観を持つのは大事だけど……気にし過ぎれば……簡単な矛盾も……見落とす……。それに……勝つ事が全てじゃない……。漫画などでも……よく出る言葉だけど……それとは別の意味を……教えてあげる……。これもまた……お勉強……」


 どうやら俺は何か思い違いをしているようだ。

 しかし、それが何かまではわからない。

 わざと言葉を省いている事から、多分聞いても教えてくれないだろう。

 それなら、もう一つの言葉の意味を考えよう。


 漫画などでよくあるのは、『負けて学べる事がある』や『勝ちにこだわりすぎて大切なものを忘れている』などだろう。

 それとは違う意味という事か。


 お勉強と言ったのは、アリスさんがやろうとしている事で何が起きるのかを、しっかり学べという意味だろう。

 この人はまだ俺を育ててくれようとしている。


「いつ教えてくださるのですか?」

「テストの順位発表が出れば……(じき)にわかる……。そろそろ……休憩終わりだね……」


 音も立てずにトレーニングルームに戻ってきたマリアさんをチラッと見て、アリスさんは立ち去ってしまった。


 俺はマリアさんが戻ってきた事にも気付かなかったのに、本当アリスさんは化けものだと思う。


「――ほら、アリスに見とれている暇はないぞ。気を抜けば、怪我じゃすまないんだからな?」


 いつの間にか俺の前まで来て構えをとっていたマリアさんが、とてつもないプレッシャーをかけてきた。


 ――俺は今、反射神経を極限にまで高める訓練をしている。


 マリアさん曰く、身の危険を感じる事が一番反射神経を鍛えられるらしく、俺は急所を狙ってくる彼女の攻撃をかわさないといけない。

 マリアさんは最初こそかなり手を抜いてくれていたが、段々と速度や力は上がってきており、今では七割くらいの力で攻撃をしてきていた。


 七割と聞けば甘く聞こえるかもしれないが、彼女の七割は普通の人間と違って岩をも砕く。

 急所にくらえば、病院送り待ったなしだろう。


「すみません、大丈夫です」


 俺はアリスさんの狙いが気になるものの、訓練へと意識を切り替えるのだった。

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