第196話「義理の姉弟は、結婚出来るんだから」
ネコクロ新作『ボッチのオタクである俺が、クーデレな天才美少女になぜか甘やかされる件について』を載せました!
なんと、ヒロインはアリスさんです!
この作品の後書きの下にあるタイトル名をクリックして頂ければ飛べますので、是非とも読んで頂けると嬉しいです!
本当はあったかもしれないもう一つの物語。
砂糖多めの甘い作品にするつもりなので、どうぞよろしくお願いいたします!
――薄い霧がかかった景色の中、私は一人ポツンと立っていた。
いったいここは何処……?
海君、いないのかな……?
全く身に覚えのない景色に、私は途端に不安に駆られた。
だから、一番頼りになる人を探してみたのだけど、生憎姿は見えない。
海君がいないとわかると、途端に不安な気持ちが大きくなる。
『――まぁ当時は二人とも幼かったからね』
あれ、お母さんの声が聞こえる……?
寂しさのせいで目に涙が浮かんでくると、姿は見えないのにお母さんの声が聞こえてきた。
そして、続いて海君の声も聞こえてくる。
声は聞こえるのに、どうして二人の姿は見えないの……。
私は周囲を見回してみるけど、やはりお母さんの姿も海君の姿も見えない。
二人はどこで話しているの……?
二人は私の気持ちなんて知らずに話を進めていく。
私は除け者にされているような気がして余計に寂しくなったけど、二人の会話を聞いていて気になる事が出てきた。
それは――海君と、私が昔に会っているという事。
私は昔、広島県に住んでいた。
当時はお父さんが生きていて何不自由なく暮らしていたんだけど、中学二年生の頃にお父さんは亡くなってしまった。
そのまま一年間は暮らし続けたけど、お母さんの限界がきてしまったのと、私のある問題でお母さんの実家がある埼玉に引っ越してきたの。
だけど海君のお父さんの実家が岡山県にあるという事は知ってるけど、彼が広島に住んでいたって話は聞いていない。
それなのにどうして昔に会ってるんだろう?
私はそのまま二人の会話を黙って聞き続ける。
すると、段々と記憶が鮮明になってきた。
確かに私は昔、お母さんから離れたくなくて仕事に行くお母さんに付いて歩いていた。
というよりも、当時はお母さんが桜ばかり面倒を見ていたから、桜のいないお母さんが仕事に行くタイミングしか甘える時がなかったんだ。
だから、わがままを言って付いていっていた。
でも、病院に着くと決まって子供預り所に預けられていたから、寂しくて泣いていたの。
施設の人は優しく抱っこしてくれたり、頭を撫でてあやしてくれたけど、『ママじゃないとやだ!』って駄々をこねたのを覚えている。
そんな時に、あの子が話し掛けてきたんだ。
――私が昔の事を思い出すと、まるで連動しているかのように霧の風景が変わり始めた。
先程までは霧しかなかった風景には、なぜか真っ白な建物が映っている。
これは、私が預けられていた病院の中だ。
ふと見れば、大泣きをしながら施設の人を困らせる小さな女の子がいた。
その子は幼いにもかかわらず、女の子らしいとてもかわいい容姿をしている。
うん、間違いない。
あれは幼い時の私だ。
――何やら無粋なツッコミが何処からか聞こえてくる気がするけど、きっと空耳ね。
でも、あんなに泣いてたかな?
もっと上品に泣いてたと思うけど……。
あまりにも大泣きをして駄々をこねる昔の自分を見て、ちょっと記憶がおかしいと思った。
そのまま眺めていると、小さな男の子がテクテクと幼い私を目掛けて歩き始めた。
その姿は、前にお祖母ちゃんに見せてもらった幼い時の海君ソックリだ。
写真に関しては一枚だけもらっているから、後で確かめてみればはっきりとする。
だけどこのちっちゃい海君は、二人の会話を聞いて今の私が勝手に想像したものなのか、それとも本当にこの記憶があったのかはわからない。
ただ……なんとなく、後者の気がする。
とりあえずこの光景を見ていたいと思った私は、黙って小さな海君を見つめる事にした。
「わぁああああああん!」
「咲姫ちゃん、おねがい……! もう泣きやんで……!」
「かして」
「海斗君……? 貸してって、もしかして咲姫ちゃんを抱っこするつもり……?」
服をクイクイっと引っ張られた施設の人が訝しげに尋ねると、小さな海君はコクリっと頷いた。
どうしよう。
見ててめちゃくちゃかわいい。
今すぐギューってしたい。
私は思わず海君を抱き締めに行こうとするのだけど、なぜかその場から動けなかった。
何これ!?
なんで動けないの!?
意味がわからない事態に私は腹が立って頬を膨らませる。
そんな私をよそに、過去のやりとりは進んでいた。
「海斗君には無理だよ」
「できるよ……! だって、おにいちゃんだもん……!」
海君がお兄ちゃん?
いつから海君はお兄ちゃんになったんだろう?
海君は私の弟なのに。
……でも、今なら海君がお兄ちゃんになってもいいと思う。
そしたら、桜みたいに可愛がってもらえるんじゃないかな。
……うん、今度話す時に『お兄ちゃん』って呼んでみよ。
海君、どんな反応するかな?
喜んでくれるかな?
妹好きの海君だもん、絶対喜んでくれるよね。
私はデレデレの海君が頭に浮かび、甘えるのが楽しみになった。
まぁそれはそれとして、ねぇちっちゃい海君。
さすがに君には幼い私を抱っこするのは無理だと思うな?
体勢が違うから正確にはわからないけど、多分君と幼い私は同じくらいの大きさだよ?
「いいから、かして!」
「あぁ、もう……。なんでこんなにわがままな子が多いの……。落としたら駄目だよ……」
海君の相手がめんどくさくなったのか、施設の人が幼い私を渡そうとする。
うん、この後どうなるか思い出しちゃった。
「――うみゅっ」
私を抱っこしようと両手を広げたちっちゃい海君は、見事に幼い私に押しつぶされちゃった。
そりゃあ身長の高さが同じだったらそうなるよね、うん……。
「「わぁあああああああああん!」」
幼い私に押しつぶされた海君と、抱き留めてもらえなかった幼い私は、二人して大泣きを始めてしまった。
そして二人が泣くものだから、まるで蛙の合唱のように、他の幼い子どもたちも泣き始めるという共鳴が施設内に起こった。
もう軽くカオスな状態だね……。
施設の人たちに同情するよ。
……元はといえば、私のせいだけど。
――それから少しして、ちっちゃい海君が一番最初に泣きやんだ。
そして、未だに泣く幼い私へと手を差し出す。
「え……?」
「おてて、つなご?」
「どう、して……?」
「このまえうまれたばかりのいもうとが、てをつないであげるとなきやむんだ。だから、おててつなご」
妹……?
海君に妹なんて、いなかったよね……?
あ、もしかして、凛ちゃんの事を言ってるのかな?
年齢的にはちょうど合うもんね。
「こう……?」
「うん、そう。ね? あんしんするでしょ?」
「あ……うん……。これ、すき……」
ちっちゃい海君と手を繋いだ幼い私は、本当に泣きやんでしまった。
あの時どう思っていたのかな……?
うまく思いだせないけど、確かにちっちゃい海君が言ったように、手を繋いで安心したのを覚えてる。
――そっか。
だから私は手を繋ぐのが好きなんだ。
私はいつもチャンスとみれば、何かと海君と手を繋ごうとしてる。
桜や雲母は抱き着いてるんだから普通なら抱きついてもいいのに、どうしてか手を繋いじゃってたんだけど、その理由はこれなんだ。
……うん、決して、胸がちっちゃくて二人と比べられたくないから――というわけじゃないからね!
女の子は胸の大きさが全てじゃないもん!
むしろ小さいほうが好きって人もいるんだから!
誰に対してかはわからないけど、私はなぜかそう叫びたくなった。
……それにしても、こんなにも小さい頃から私と海君は出会っていたんだ。
それも、今住んでる埼玉から遠く離れた場所で。
幼い頃に出会っていて、離れている間にもネットで友達になり、最後には家族にまでなっている。
これはもう運命だよね?
異論は認めないよ。
だって――義理の姉弟は、結婚出来るんだから。
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