第193話「面白い提案」
――今私は、ホームルームで先生の話を聞きながら溜め息が出そうだった。
理由は単純。
予定していたテスト勝負が、つまらない展開になったからよ。
先程青柳から聞かされたんだけど――桃井咲姫ったら、今日学園を休んだそうなの。
普通ありえる?
今日、大事なテスト勝負があったのよ?
わざわざカイの事を餌にまでして勝負を成立させたのに、あの子にとってカイはその程度だったの?
いったいどうしてくれるつもりよ。
おかげで私の計画は初っぱなから躓いてしまったじゃない。
折角、テストで不動の一位を築いている桃井姉を叩き潰して、私の有能さを全生徒に見せ付けてやるつもりだったのに。
挙げ句、カイも休みってどういうわけ?
二人して敵前逃亡?
はたまた学園を休んでいちゃついてでもいるの?
予定が狂った私は、イライラが収まらなかった。
気分転換に、お姉ちゃんのほうをチラッと見てみる。
するとお姉ちゃんは、つまらなさそうにポツンと一人椅子に座っていた。
どこか寂しそうにも見える。
ここ最近は笑顔が増えていたのに、今は見る影もないほどの無表情。
――気に入らない。
お姉ちゃんがこんなふうになっているのも、今日カイが休んでいるからなの。
なぜかはわからないけど、お姉ちゃんはあの男を気に入っている。
私の邪魔をして、私を辱しめた男なのに、どうしてお姉ちゃんはあんな男の事を気に入っているのだろう。
あの子の面影をカイに重ねているのだとしたら、例えお姉ちゃんでも許せない。
いくらなんでも、それはあの子が可哀想だから。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
私がお姉ちゃんの事を見つめていると、金髪を左側に結んでいる女の子――西条雲母が話し掛けてきた。
どうやら知らない間にホームルームは終わっていたみたい。
さて、雲母はいったいなんの用かしら。
「何?」
「別のところで話がしたいんだけど」
「……わかった」
少し考えた後、私は雲母のお願いを聞いてあげた。
別に彼女の言う事を聞く必要はないんだけど、今日はなんだか気が削がれているからいがみ合うのもめんどくさい。
それにわざわざ雲母から話し掛けてきた事にも興味がある。
普段はカイに何か言われてるのかわからないけど、率先して私に話し掛けてこようとはしない。
そんな彼女が、自分から話し掛けてきた。
少なくとも無駄話にならない確証が私にはある。
「咲姫の事は知ってるんだよね?」
「……まぁ、ね。ほんと終始人を馬鹿にした子よね、あの子は」
「あはは……本人に悪気はないんだけどね……」
桃井姉の事に対して愚痴をこぼすと、雲母が苦笑しながらフォローを入れる。
正直傍から見ると、桃井姉と雲母は水と油のように見える。
それなのに、意外とこの二人は仲が良かった。
この学園にいる生徒の様子を観察するに、どうやら仲良くなったのは最近ぽいけどね。
なんせ、みんながみんな桃井姉と雲母の事を戸惑った表情で見ているのだから。
……そういえば、元々雲母も桃井姉のような――うぅん、もっと上品で大和撫子みたいな女の子だったから、素で気が合うのかもしれないわね。
「それで、本題は何?」
「これは勝手な話だけど――」
桃井姉が不在となってしまった中、雲母は面白い提案を私にしてくるのだった。
いつも読んで頂き、ありがとうございます(*´▽`*)
そして、『ボチオタ』2巻表紙絵とアリスさんのキャラデザを活動報告であげましたので、是非とも見て頂けると嬉しいです(/・ω・)/