第12話「墜ちた義姉」
どうして……どうしてこうなったの……?
「こら! 黙っとらんで、答えないか!」
「違うんです! 私はやってません!」
「じゃあ、これはなんなんだ! お前の鞄から店の商品が出てきたんだ! 言い逃れなんて出来ないぞ!」
そう言って、このお店の店長らしき人が、袋に入ったままのボールペンを私に見せつけてくる。
それは、私の鞄から出てきたものだった。
私は今、この人に連れられ、お店の奥に閉じ込められていた。
そして――私は触ってもいないのに、どういうわけかお店の商品が私の鞄から出てきた。
現在、私は万引きの容疑で捕まっているのだ。
「正直に話さないのなら、警察を呼ぶしかないな」
「ま、待って下さい! 本当にとってないんです! お願いします、信じてください!」
「証拠の品があるんだ! そんな嘘が通ると思うな!」
「本当なんです!」
駄目……全然信じてくれない……。
このままじゃあ、本当に警察に突き出されてしまう……。
「――はいは~い、そこまで~。店長さん、この子の事許してあげてよ」
「え……?」
突如聞こえてきたのは、この雰囲気に相応しくない陽気な声。
私は声のした方を見る。
西条さん……?
なんで、彼女がここに……?
「誰だね、君は?」
「う~ん、私? 私は西条財閥の者だよ?」
彼女の言葉に、店長の顔色が変わった。
ここのスーパーも西条財閥の系列に入ってるお店だったはずだから、それで顔色が変わったんだと思う。
「ね、店長さん。そのボールペン私が買うから、この子の事――許して、く、れ、る、よ、ね?」
そう言って、西条さんはニコッと店長に笑いかけた。
そして店長は――
「も、もちろんです!」
と、頭を下げたのだった――。
2
その後、西条さんに助けられた私は、彼女と一緒にお店の外に出ていた。
しかし、私は嫌な予感しかしない。
なぜ彼女があの場に、あんなタイミングで現れたのか――それはすぐに、彼女の言葉で明らかになる。
「ねね、桃井ちゃん。これな~んだ?」
「そ、それは……」
彼女が私に見せてきたのは、先程私が万引き犯として問いただされている時の写真だった。
あの時、コッソリと盗撮してたのね……。
「ふふ、まさかあの桃井ちゃんが万引き犯だなんてね~? 学校の皆が聞いたら驚くだろうな~」
西条さんは楽し気に、私の方を見てくる。
私はそんな彼女にすぐに反論した。
「違う! 私はしてないわ!」
だけど、彼女は笑いながら首を横に振る。
「でも~残念ながら、ここにその時の写真があるんだよね~。これがある限り、みんなは桃井ちゃんの事を、万引き犯としか見ないだろうね~?」
私は血の気が引くのを感じた。
やられた……これは、彼女に嵌められたんだ……。
「何が目的なの?」
私はせめてもの抵抗として、彼女の事を睨んだ。
だけど――
「次、反抗的な態度とったら、すぐに今日の事言い触らすから」
彼女は先程笑っていたのが嘘だったかの様に、冷たい表情で言ってきた。
「……」
私は何も言い返せない。
彼女の機嫌を損ねて学校に万引き犯だと報告されれば、私が今まで積み上げてきたものが全て崩れ去ってしまう……。
その事は絶対に避けたかった。
私が黙り込んだ事に気分を良くした彼女は、また笑顔でこちらを見てきた。
そして――
「じゃあ、明日からよろしくね~、も、も、い、ちゃ、ん」
と、私の耳元で囁いてきたのだった。
3
それからの日々は地獄だった。
最初の方はまだよかった。
あの万引き犯として捕まった次の日に命令されたのは、肩揉みや飲み物を買ってくるという内容だった。
それが日に日にエスカレートしていき、ついにはHなポーズを要求される様になった……。
でも、万引き犯として学校に報告されるくらいなら、服装はそのままで良かったことから、私は言う通りにしてしまった……。
それは――決してしてはいけない事だった。
ポーズをとっている時には気づかなかったけど……ポーズを撮った後に見せられた私の姿は、正直かなり卑猥だった……。
これを見た人は、私をそういう職業の人だと思ってしまうだろう。
こんな写真が出回れば、私の学校での評判はすぐに地に落ちてしまう。
それどころか、あの怖い男達が群がってくる姿しか想像が出来ない……。
そのせいで今日――
「桃井ちゃん、これ着てよ」
「え……? こ、こんなの着れない!」
私が渡されたのは、猫のコスプレ衣装だった。
こんな恥ずかしい物を着られるはずがない。
「ふ~ん……逆らうんだ~……。じゃあ、万引きの事学校に報告しちゃおっかな~? それにこの写真、男子達にあげたら喜ぶだろうな~?」
「ひっ――!」
彼女はとても楽しげに私の方を見ていた。
しかしその目は冷たく――『言う事を聞かないと絶対に許さない』っと、私に告げていた。
「おねがい……します……。もう……やめて……ください……」
私はそう言って、頭を下げた。
これ以上こんな辱めに耐えられなかった。
「あははは、や~だ! ねぇ、早く着替えないと、本当にバラまくよ?」
「や、やめて……」
「じゃあ、さっさとしろ」
「……は……ぃ……」
私は泣きそうになるのを我慢して、猫のコスプレ服を着る。
すると――
「お~、流石学校一のモテ女だね~。凄く可愛いよ~」
「わ~本当だね~。如何わしい店で働いてそうな感じだね~」
「いっそ働かせちゃう? な~んてね~」
そう言って彼女達三人は、私の事をスマホで撮りながら、そう笑っていた。
なんで……私がこんな目に遭わないといけないの……?
「ねぇ、桃井ちゃん、今から猫のポーズとって、『にゃ~ん』って言ってよ」
西条さんは、そんな恥ずかしい事を言ってきた。
「い、いや!」
当然私は拒否をする。
そんな恥ずかしい事はもう嫌なの……。
でも――
「や、れ」
彼女はとても冷たい眼で、私に命令してきた。
本当に泣きそうになってしまう……。
でも、ここで泣いてしまったら彼女達の思うつぼだった。
だから私は泣きそうになるのを我慢して、彼女の命令に従う。
膝を折り曲げて地面に着け、右手を自分の顔の横に持って来て、手を丸める。
そして――
「にゃ、にゃ~ん……」
――と、猫のものまねをした。
あぁ……もう……死にたい……。
なんで、こんな事を……。
「あ~ダメダメ! もっと笑顔でしてくれないと、今日のノルマ終わらないよ?」
「そ、そんな……」
こんな酷い辱めを受けていて、笑顔でなんて出来るはずがない……。
でも、彼女達はそれを許してくれなかった。
――結局、何回もやり直しを命じられ、写真をとられ続けたのだった。
4
夕食を食べて部屋に戻った私は、今日の事を思い出し、涙が出てきた。
家族に気付かれない様に、皆が居る所では気を張っていたけど、一人になるともう我慢が出来なかった。
私は底なし沼にハマってしまった。
これから先、要求を断れば、今までの写真を全てバラまかれてしまう……。
でも、要求に従えば従うほど、恥ずかしい写真が増えていく。
もう私にはどうしようも出来なかった……。
私は先程届いたメッセージを見る。
そこには――
『明日は水着撮影だよ~♡ 逃げたら、わかってるよね?♡』
と、書かれていた。
誰か……誰か助けてよ……。
――だけど、私の願いは誰にも届かない。
だって……誰にも相談出来てないもの……。
それに、誰に相談したら良いのかもわからなかった。
もう、海君ともやり取りをしていない。
Hなポーズをとらされる様になった頃から、私は彼に何も送れていなかった。
彼と連絡をとっていると、全てを話してしまいそうになってしまったから……。
あのまま続けてたら、きっと私は彼に全てを話してしまっていた。
でもそんな事をしても、ただ彼に心配をかけてしまうだけで、何も解決しない事は理解してた。
彼は、今どこに住んでいるのかもわからない相手。
そして、私も自分の住んでいる街などについて一切話していなかった。
だから、彼に助けに来てもらう事も出来ない。
でも彼は私が返信しなくても、何度かメッセージをくれていた。
今はもう、彼のメッセージも届かなくなってしまったけど……。
返信をしない私に呆れてしまったのかもしれない……。
お父さんにも、お母さんにも、桜にも相談出来ない……。
海君にも見捨てられてしまった。
私に味方はもういなかった。
一瞬、彼――神崎君の顔が頭に浮かんだけど……ここ最近、彼は部屋からほとんど出てきていなかった。
何をしてるのかわからないけど、ご飯も自分の部屋で食べているらしい。
私がこんな目に遭っているというのに、彼はラノベでも読み漁っているのだろう。
本当、いい身分なものね……。
3
「あはは、エッロ~。いいね、桃井ちゃん! そのまま校庭にでも出てみる?」
「そ、それだけは……お願いです……許してください……」
上機嫌で私の方を見ている西条さんに、私は頭を下げて懇願する。
「いや~、あの桃井が言いなりだなんて、良い気分だね、雲母ちゃん」
「ねぇねぇ、もっとやらせようよ~」
西条さんの取り巻きの二人が、そう言って西条さんをあおる。
「そうねぇ……じゃあ、桃井ちゃん。次はM字開脚しよっか?」
「は……い……」
私は言う通りに、水着姿のまま股を開き、M字開脚をする。
――もう、私に抵抗する意思はなかった。
そもそも、私はいつも冷徹女という仮面をつけているだけで、本当はそんなものを付けないと自分を守る事すら出来ない、弱い女。
そんな私が、こんな地獄に耐えれるはずもなく、抵抗するよりも諦めた方が楽だと思ってしまった。
「わ~、すんなりしちゃったよ~」
そう言って、西条さんの左側に居る女子が私の写真を撮り始める。
「ふふ、そろそろ頃合いみたいだね~。桃井ちゃん、明日は下着撮影しよっか?」
「――っ!」
そ……そんな……。
断りたい……でも、声が喉から出てこなかった。
それに彼女の目が『拒否する事を許さない』っと、告げている。
私はもう、西条さんに逆らえなかった――。
「それにしても……最近、写真や動画を一杯とったせいか、スマホの動作が遅いのよね~」
そう言って、西条さんが不満そうにスマホを振っていた。
「あ、じゃあ良いアプリ教えてあげるよ! この前たまたま手に入れたんだけど、スマホ内のデータを全てアプリが取り込んで、何か色々して動作を早くするんだよ~。私使ってみたんだけど、驚くほど速度が速くなるの! これ、パソコンにも使えるらしいから、雲母ちゃん使ってよ! それに、みゆちゃんも!」
西条さんの左側に居た女子が、私の事を忘れたかのように、二人にスマホを見せる。
「お~、それはいいね~、私もすぐ使おうっと。家のパソコンにも桃井ちゃんの写真や動画保存しちゃってるから、有難いよ」
「そうだね、私も使うよ」
私は彼女達のそんなやり取りを、ただボーっと見ていた。
もう、何も考えられなかった。
明日……私は下着姿を撮影されてしまうんだ……。
そして、ここまで来たらもうわかってしまった。
その先にさせられる行為が、なんなのかが――。