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第189話「突き付けられる選択肢」

「来たか……」


 トレーニングルームに入ると、マリアさんが俺に視線を向けてきた。

 視線を向けられただけで、身がすくみそうになる。

 たった一時間で体がマリアさんの恐怖を覚えてしまったようだ。


 俺は息を吐いて気持ちを整え直す。

 このままでは先程よりもみっともない姿を晒しそうだったからだ。


「こっちにこい、カイ」

「はい」


 マリアさんに呼ばれ、彼女の元へと向かう。

 目の前まで歩いていくと、真剣な瞳で見据えられた。

 黙って俺はマリアさんの次の言葉を待つ。


「いいか、これからカイにある武術を教える。自分から相手を殴らなくても勝てる武術だ」

「そんなものが……?」

「ある。ただし、一つ肝に銘じておけ。今現在この武術を使えるのは、私と(まな)だけだ。その武術をカイがアリアに使う。それが何を意味するかカイにはわかるな?」

「……その武術を使う事によって、アリスさんの関与がアリアにバレる……でしょうか?」


 今の会話でアリスさんの名前は出ていない。

 しかし、今から教えてもらう武術をマリアさんか青木先生しか使えないのなら、俺が使える時点でアリアはアリスさんの関与を疑うだろう。

 青木先生の性格上、俺なんかの頼みを聞くとは思わないからだ。


「なぁ、カイ。お前は本当にこれでいいのか? 手段と目的が入れ替わってるんじゃないのか?」


 マリアさんは俺の言葉をスルーしたが、遠回しに肯定されているのがわかる。

 手段と目的……。

 どこまでをマリアさんが知っているのかはわからないが、確かにこれでは逆になってしまっている。


 俺はアリアをまともな人間に戻そうとしている。

 それは妹の事をずっと気にかけている、優しい姉のためだ。

 優しい姉――アリスさんのために、俺はアリアの得意とする武術で勝つ事によって、俺の事をアリアに認めさせようと考えている。

 さすがにあのアリアでも、認めた相手の言葉は聞くだろうから。


 結局それらは、アリスさんの望む未来を実現させるためのものだ。

 あの人は、まともになったアリアとずっと仲良く生きていきたいと思っている。

 アリアに武術で勝つというのは、その未来を実現させるための一つの手段でしかないんだ。


 もし今回マリアさんと青木先生しか使えない武術を俺が使って、アリアに勝ったとしよう。

 それはアリアに武術で勝つという事が叶った事になる。


 しかし――その引き換えに、アリアはアリスさんの事を裏切り者だと罵るようになるだろう。

 いくら慕っているとはいえ――いや、慕っているからこそ、アリスさんの裏切りをアリアは許せないはずだ。

 そしてそれは、平等院姉妹の仲に決定的な亀裂が入ってしまう事を意味する。

 だからマリアさんは先程こう俺に問い掛けてきたのだ。


『アリアに勝って認めさせるという手段で、アリアをまともな人間に戻してアリスの望みを叶えるという目的だったはず。それなのに、今はアリアに勝つ事が目的となっており、その手段として用いるものは当初の目的を破綻させるものなんじゃないか?』と。


「よくは……ないですね……。これでは何をしているのかわかりません……」

「……そうか。だったらどうする? アリスは例えアリアと決別する事になろうと、お前を勝たせるつもりでいる。だからこの武術をカイに教えるよう頼んできた。カイはいったい、どちらを選ぶんだ?」


 どちらを選ぶ、か……。


 多分、アリスさんの厚意に甘えて武術を習うのか、それとも別の手段を考えるのかという事だろう。

 アリスさんの厚意に甘えると、アリアに勝てる可能性はかなり上がるはずだ。

 しかしそれは、取り返しのつかない結末に向かうかもしれない。


 逆に別の手段を考えるとすれば、多分、現状アリアに勝つのは厳しいんだと思う。

 いくら嫌いだとはいえ、本当にアリアを殴れるかと聞かれれば躊躇してしまうだろうからだ。

 それは、俺の求める結末へと向かわない可能性が高い事を意味する。

 

 どちらをとっても、よくない結末が待っている可能性が高い。

 要はどちらのリスクを取るかといったところだ。


 ――だが、こんなの迷う事ではない。

 どちらを選ぶべきか。

 そんなの最初から決まっているだろ。


「俺は――」


 自分がどうしたいのかをマリアさんに伝えると、彼女との訓練が再び始まるのだった。

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