第188話「優しい笑みと膝枕」
最新作「現実主義者な俺、迷子になっていた美少女留学生の妹を助けたらなぜか人生バラ色に」を投稿しました!
あるきっかけから、段々と距離が縮まっていく二人の物語です(*´▽`*)
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「ん……?」
「目、覚めた?」
うっすらと目を開けると、優しい笑みを浮かべるアリスさんが俺の顔を覗き込んでいた。
頭の下には、とても柔らかいものが引かれている事が感触でわかる。
俺とアリスさんの体勢から察するに、どうやらまたアリスさんが膝枕をしてくれているようだ。
そしてアリスさんは、優しく丁寧に俺の頭も撫でてくれている。
「はい……」
俺は膝枕をされている恥ずかしさよりも先に、申し訳なさが込み上げてきた。
正直自分が情けなくて仕方がない。
自分から訓練を頼んだにもかかわらず、何も出来なかった挙句気絶してしまったのだ。
場を整えてくれたアリスさんにどう顔向けしたらいいのかもわからない。
アリスさんの顔が見えなくなった俺は、体勢を変えてアリスさんから顔を背ける事にする。
その際にズキっと全身に痛みが走り、思わず声が出そうになった。
しかし、そんな痛みが気にならなくなるほど、体勢を変えた事に後悔した。
アリスさんから顔を背けた瞬間――プニッと、柔らかいものが頬に当たったのだ。
……そう、アリスさんの柔らかい、ふとももが。
急激に自分の体温が上昇しているのがわかる。
さすがにまずいと思った俺は、慌てて体勢を元に戻す。
「――んっ……。カイ……。あまり動くと……くすぐったい……」
元の体勢に戻した瞬間、アリスさんが少しだけ艶めかしい声を出した。
なんだかいけない事をしている気分になってしまう。
「す、すみません。頭避けますね」
「いい……。疲れてるんだから……このまま休んで……」
体を起こそうとすると、アリスに額を抑えられてしまった。
ひんやりとした手が凄く気持ちいい。
でも、このままでいるのはどうかと思うんだが……。
アリスさんはこの体勢を気に入ってるのか、嬉しそうな笑みを浮かべている。
出会った頃は無表情な女の子だと思っていたのに、最近俺といる時は笑顔を浮かべてくれる事が多い。
同級生たちに見せない笑顔を俺には見せてくれるのは、それだけ彼女が気を許してくれているという事なのだろう。
そうじゃないと、こんな膝枕もしてもらえないと思う。
この人の信頼だけは絶対に裏切りたくない。
だから、こんなところで寝ている暇もないんだ。
俺は痛む体を無理矢理起こそうとする。
しかし――
「だから……だめ……」
――再び、アリスさんに寝かされてしまった。
「訓練の時間は短くても……カイの疲労は……ピークに達してる……。まだ休んでないと……だめ……」
「でも、マリアさんを待たせているんじゃ……」
「ママもすぐに戻ってこない事は……わかってるから……焦らなくていい……」
「だけど、時間が……」
「大丈夫だから……。ね……? いい子だから……言う事聞いて……」
まるで我が儘を言う子供をあやすかのように、優しい声でアリスさんは言って頭を撫でてきた。
同級生に子供扱いされているにもかかわらず、恥ずかしさはあれど不思議と嫌ではなかった。
俺は黙ってアリスさんの行為を受け入れる。
すると、更にアリスさんの機嫌がよくなったのがわかる。
無意識か意識的かはわからないが、鼻歌まで歌い始めた。
耳障りのいい歌で、気持ちが安らぐ。
この一時がずっと続けばいいのに――。
あまりの居心地の良さに、そう思いさえした。
しかし、当然終わりの時間はやってくる。
「――もうそろそろ……戻ろうか……?」
どれくらい時間が経ったのかわからないが、アリスさんが名残り惜しそうに切り出してきた。
俺のほうはといえば、まだ体に痛みは残っていたが、動けないほどではない。
アリスさんの太ももからゆっくりと顔を上げ、まっすぐアリスさんの目を見つめる。
「ありがとうございます、アリスさん。今度はしっかりと頑張ります」
「うん……。頑張って……」
俺の言葉にアリスさんは頷いてくれたのだが、なぜか顔を背けられた。
気のせいだろうか?
若干、顔も赤い気がする。
もしかして――。
「アリスさん、熱ありますか?」
「…………カイの……ばか……」
体調を心配すると、なぜか更にプイっと顔を背けられてしまった。
おかしい。
どうして、熱があるか聞いただけでばかと言われないといけないのか……。
先程まで優しかったアリスさんはどこに行った……。
「――カイ……」
少し沈黙の時間があった後、顔を背けていたアリスさんが俺の顔を見てきた。
「はい、なんでしょうか?」
「暴力を振るえとは……言わない……。でも……やると決めたなら……やり通す必要がある……。中途半端は……一番……だめ……」
アリスさんの言葉に、俺は息を呑む。
先程の訓練で俺が本気を出せていなかったのを見抜かれている。
俺はマリアさんを殴る事を躊躇してしまった。
そのせいで手加減してもらっていたのにもかかわらず、防戦一方になってしまい何も出来なかったのだ。
アリスさんはその事を注意してきている。
暴力については反対だけど、自分が戦うと決めたのなら、きちんとやり通せ。
そう言いたいのだろう。
「すみません。もう同じ轍は踏まないようにします」
「きっと……カイには……無理……」
「え?」
「カイは……優しいから……。でもこのままだと……アリアには勝てない……。だから……殴らなくても勝てる技を……ママが教えてくれる……」
「……そんな事が可能なんですか?」
俺はあえて、アリスさんの考えを否定しなかった。
正直、またマリアさんを相手にしたとして、思いっ切り殴りかかれるかと聞かれたら頷ける自信がなかったのだ。
その事までアリスさんには見抜かれている。
「ママが教えてくれる技は……やる気はもちろん……センスが問われる……。神経も……すり減らす事になる……。でも……カイにとっては……一番いい道……。だから……がんばって……」
「はい、ありがとうございます!」
アリスさんにエールをもらった俺は、元気よく頷いた。
情けない姿を見せても、まだ俺の事を信じてくれている。
その事が凄く嬉しかった。
「うん……。じゃあ……また後で……」
「え、アリスさんどこかに行くんですか?」
「人を……待たせてるから……。でも……モニターで様子は見ておくから……無理は……許さない……」
「あ、はい……」
最後に釘を刺された俺は、反射的に頷いてしまった。
一体誰に会いに行くのかは気になったが、誰と会おうとアリスさんの自由だ。
そこを詮索するのはよくないだろう。
俺はアリスさんを見送ると、再びトレーニングルームへと向かうのだった。