第185話「特訓」
「なんで……既に疲れてるの……?」
待ち合わせ場所に着くと、凄く怪訝な表情でアリスさんに迎えられた。
「いえ……気にしないでください……」
とりあえず、誤魔化しておく。
正直疲れているのは、桜ちゃんを説得するのに苦戦したからだ。
あの子、俺の心が読めるんじゃないかってくらい、嘘が通じない。
誤魔化そうとすると、すぐに見破られてしまうんだ。
おかげで全て白状させられてしまった。
……おかしいな?
俺の事を信じてくれているって言ったのに、なんで疑われたんだろう?
そんなに嘘っぽいかな、俺……?
自分の言葉を妹が全然信じてくれなかった事に、不安になってくる。
「カイ……何を首傾げて悩んでるの……? 早くおいで……」
気付けば、アリスさんが一人先に進んでいた。
俺も慌てて後を追う。
今俺たちは二人は、平等院財閥が所有するトレーニング場を訪れていた。
ここで今日から一ヵ月の間、俺はある人に鍛えてもらう約束になっている。
アリスさんしかいないという事は、その人は中で待っているのだろう。
……アリスさんが迎えに来たのはなんでだ?
普通、逆の気もするが……。
「カイ……一ついい……?」
考え事をしていると、隣を歩くアリスさんが俺の顔を見上げていた。
「はい、なんでしょうか?」
「絶対……無理はしないで……。体を壊して……ほしくないから……」
アリスさんにしては珍しい、不安そうな表情で俺の事を心配してくれていた。
納得はしていても、未だに本心では反対なのだろう。
何を考えているのかわからない事も多いが、やっぱり優しい人だと思った。
「えぇ、わかってますよ。無理はしないので心配しないでください」
出来るだけ安心させられるように、俺は笑顔で答える。
桜ちゃん以上に、この人には嘘が通じない。
きっと、俺が今ついた嘘も見透かされているだろう。
「うん……約束……」
――だけど、アリスさんは俺の嘘を見逃してくれた。
嘘だとわかっていても、俺の事を信じてくれている。
この信頼を、俺は裏切るわけにいかない。
「はい、約束です」
俺が頷くと、アリスさんはそれ以上何も言ってこなかった。
二人とも喋らないせいで沈黙の時間になってしまうが、別に気まずいという事はない。
むしろ、落ち着くくらいだ。
――それから少しして、目的の部屋へと着く。
アリスさんは先に入ってしまったが、俺は足を止めて一度深呼吸をした。
部屋に入る前に気を引き締めておきたかったのだ。
生半可な気持ちで臨めば、大怪我をしかねない。
今からするのは、武術を極めているアリアに負けないための特訓なんだから。
しかも鍛えてくれるのは、アリア以上に武術の達人――青木先生だ。
ドSなあの人の特訓を受けるんだから、覚悟しておかないとすぐに脱落しかねない。
――うん、大丈夫だ。
気持ちを作る事が出来た俺は、ゆっくりと部屋のドアを開ける。
ドアを開けると待っていたのは――
「久しぶりだ、カイ」
――なぜか、アメリカにいるはずのマリアさんだった。
話が面白い、キャラが可愛いと思って頂けましたら、感想を頂けると嬉しいです(*´▽`*)