第183話「嫌ですぅうううううううううううう!」
「会いたかったです、桜ちゃんのお兄ちゃん……!」
そんな嬉しい事を言ってくれるのは、猫耳型の銀髪を持つ凄く可愛らしい後輩。
全身から殺気を放っている、カミラちゃんだ。
ちなみに、顔は笑っていない。
「そ、そうか。それは光栄だね」
俺は少しずつ後退しながら、笑顔で答える。
なるべく、カミラちゃんの神経を逆撫でしないように気を付けた。
……もう、手遅れかもしれないけど……。
さて、この場合の俺の運命はどうなる?
十中八九カミラちゃんが持つ薙刀型の木刀が、俺を狙ってくるだろうな。
気が付けば、さっきまで俺と話していた後輩二人の姿がいつの間にか消えている。
おそらく巻き添えをくらわないようにさっさと逃げたのだろう。
クラスメイトなら、カミラちゃんの危険性もよく知っているはずだからな。
本気で走ればカミラちゃんから逃げるのは容易いだろうけど……この先、鉢合わせするたびに狙われるのは避けたい。
どうやって怒りを鎮めようか……?
「カミラちゃん、めっ! だよ?」
俺とカミラちゃんが視線だけで敬遠しあっていると、間に小さな女の子が割り込んだ。
もう言わなくてもわかる通り、先程カミラちゃんと一緒に現れた桜ちゃんだ。
桜ちゃんは凄く優しく、カミラちゃんを咎めていた。
「暴力は振ったらだめだよ?」
「でもでも!」
「また、青木先生に怒られちゃうよ?」
「うぅ……」
カミラちゃんも青木先生は怖いのか、桜ちゃんのその一言で思い留まったみたいだ。
まぁ俺もあの人は怖いから、カミラちゃんの気持ちがよくわかる。
とても優しくて上品な先生という事で生徒から評判がいい青木先生だが、あの人は絶対隠れドSだ。
「お兄ちゃん、ごめんね?」
二人のやりとりを眺めていると、桜ちゃんがテクテクと近寄ってきて謝ってきた。
別に桜ちゃんが謝る事でもないとは思うが……。
「いや、いいよ。別に何かあったわけでもないしさ」
「うん、ありがと! やっぱりお兄ちゃんは優しいね! ほら、カミラちゃんも」
桜ちゃんは自分の後ろにいるカミラちゃんを、俺へと差し出してくる。
背中を押されたカミラちゃんは、ジーっと俺の顔を見上げていた。
その目は、桜ちゃんから見えないのをいい事に、明らかに睨んできている。
俺としては仲良くしたいのだが、やはり道は遠そうだ。
「ごめんなさいです」
目では睨みながらも、口ではちゃんと謝ってきた。
誠意がこもってない謝罪というのはこういうのだろうな。
まぁ相手は年下だし、若干慣れつつもあるからいいけど……。
「いいよ。でも、桜ちゃんが言ったように、暴力はだめだよ?」
カミラちゃんの今後を考え、優しく注意した。
……桜ちゃんの目の前で散々暴力を振るった事がある俺が言うと、説得力がないかもしれないが……。
カミラちゃんはプイっとソッポを向いてしまったし。
どうやら聞く耳を持つ気は無いらしい。
まだ幼く見えるから許されるかもしれないが、本当にこの子の今後が心配になってくるな……。
「――ご心配なく、後でしっかりとお説教をしておきますので」
「「ひっ!」」
突如俺の背後からした声に驚いて、俺とカミラちゃんの声が重なった。
ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには素敵な笑みを浮かべる青木先生が立っていた。
「――さて、行きますよ、カミラさん」
「嫌ですぅうううううううううううう!」
逃げようとしたカミラちゃんを即座に青木先生が捕まえ、抱きかかえられたカミラちゃんの叫び声が廊下に響くのだった。
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