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第11話「動き出す影」

「いい加減にしてくれないかしら?」

 私達が楽しい昼食タイムを屋上でしていたら、目の前に不機嫌そうな顔をした女が現れた。


 学校一モテる事で有名な、桃井だ。


「いやいや、そっちこそいい加減にしてくれないかな? あんたどんだけしつこいのよ」

 私は肩を竦め、桃井を馬鹿にした態度をとる。


「本当だよね~、マジ桃井ってしつこい」

「そうそう、うちらはただ楽しく話しながら、ご飯食べてるだけなのにね?」

 私の言葉に同調するように、他の子達も桃井に対して文句を言う。


 今私達は、よく遊ぶメンバー六人で屋上に来て、弁当を食べていた。

 そこに、ここ数週間昼休みの度に現れる様になった、桃井が来たのだ。


「毎回毎回何度同じ事を言わせるの? あなた達は馬鹿なの? 屋上に入ってはいけない事は、生徒手帳に書いてある校則に載っているでしょ? それとも、文字が読めないのかしら?」

 桃井が私達を見下した目で見てくる。

 この女は自分が有能なせいか、私達を下に見ているんだと思う。

 

 確かにこの女は人気者だ。

 凄く美人で、全国模試で常に上位に入るくらい勉強も出来、運動でも平均的な男子に負けていない。 

 完璧美少女とは、こういう女を言うのだろう。


 テストの度にいつもビリ争いをしていて、運動を苦手とする私とは真逆の存在。

 そんな桃井だから、性格が悪くてもみんなに人気がある。


 ……一部の人間には、その性格が喜ばれているけど……。


 私はこいつの事が嫌いだ。 

 でもそれは、別に桃井が自分と違ってなんでも出来るからとか、そういう(ひが)みみたいな理由じゃない。


 こいつのせいで私は――!


「でもでも、屋上は鍵掛かってなかったよ? もし本当に屋上に入るのが駄目なら、学校側も鍵をかけるんじゃないかな?」

 そう言って、私のグループの1人である久山(くやま)美紀が、かわいらしく首を傾げる。


「それはあなた達が、毎回毎回鍵を壊して侵入するせいで、そんな費用を掛けられなくなったのよ!」

 桃井は凄い剣幕で私達に怒鳴ってくる。


 うん、その通り。

 元々はこの屋上にカギがかけられていた。

 でも、私達はその鍵を壊して屋上で昼ご飯を食べているの。


 その事がバレたのが二ヵ月くらい前だって、最初は屋上の鍵を変えられるだけだった。

 だから、私達はその度に鍵を壊して侵入してたところ、三週間前くらいから桃井が注意しに来るようになった。

 でも、注意に来るのはこの桃井だけ。


 何故他の生徒会役員や教師陣が何も言ってこないのか?

 それは単純な理由だった。


 この私、西条雲母(きらら)を――ううん、西条財閥を敵に回したくないからだ。


 正直、桃井には感心する。

 私の家である西条財閥は、日本三大財閥の一つと呼ばれ――紫之宮財閥、平等院財閥に並んで称されている。

 そんな家の人間を敵に回すという事は、将来を(おびや)かされる危険を持つという事。

 だから、普通の人間は私に何も言ってこない。


 だけどこの桃井だけは、私に面と向かって言ってくる。


 正直、そういう人間は嫌いじゃない。

 けれどムカつくものはムカつくし、私の為にこいつには消えてもらう必要がある。


「あぁはいはい、わかったわかった。みんなもう行こ」

 私は弁当箱を片付けて、未だに桃井と言い合いをしてるメンバーに声を掛ける。


 みんなは桃井に嫌な顔を向けながら、私の言葉に素直に従ってくれた。

 逆らう人間は誰一人いない。

 だって彼女達は、私の言いなりだもの――。





「じゃあ、行こっか?」

 桃井が生徒会を終えて、帰路についた事を確認し、私は隣に居る西村葵に声を掛ける。


「はいはーい」

 彼女は私の呼びかけに、陽気(ようき)な声で返事をした。

 葵は私と一年生の時から同じクラスで、いつも私の傍に居る。


 もう一人清水みゆと言う子も、いつも傍に居るのだけど――今はいない。

 みゆは今、バイトに行っているの。


「今日こそは、あそこに行ってくれるかな?」

 ちょっと疲れた様な感じで、葵が体をダラ~っとさせながら、私の方を見ていた。


「流石にそろそろ行くんじゃないかな?」

「だといいけど……。毎日これは流石に疲れたよ~」

 そう言って、葵がプクーっと頬を膨らませる。

 私達は二週間前から、桃井が帰宅する後をつけていた。


 と言っても、家に帰る所まで尾行するんじゃなく、ある目的の店に入るかどうかを見ているだけ。

 だからいつも、その店に続く道から外れた時点で尾行はやめていた。


「バイトシフトの時はお金も入って良いけど、尾行だとお金入らないし~」


 バイトシフトとは、尾行側じゃなく、お店で働いている方の役割って事だった。

 彼女とみゆの二人は、毎日交代でその役目を担っている。

 理由は単純、一人の人間が毎日同じ店でバイトするのは無理があるから。


 めんどくさいってふてているのかと思ったら……バイトの時は良いんだね……。

 そこまでお金がほしいのかな?


 正直、私にその感覚はわからない。

 だけど、お金で機嫌が直るのなら、私としても有難い。


「はいはい、ちゃんとやってくれたら後で二人に一杯お金あげるから」

「本当!? わぁ~い、雲母(きらら)ちゃん、だ~い好き!」

 そう言って、葵は急にヤル気を出す。


 本当、現金な子……。


 私の周りに居る子は、こんな子ばかり。

 でも、それで問題なかった。

 こういう人間が、一番扱いやすいから。


「あ、雲母ちゃん! 桃井が店に入っていったよ!」

 私がそんな事を考えていると、葵が大きい声でそう言ってきた。


「ばか、桃井に聞こえたらどうするのよ」

「あ……ごめん……」

 

 私が注意すると、葵はシュンっとした。

 この子は言う事を素直に聞くけど、おバカなとこが問題だ。


 でも、何気に付き合いは長いし、こう見えて意外と口は堅いから、私は今回この子とみゆの二人に役目を任せた。


「じゃあ、予定通りにね」

 私は葵にそう告げて、彼女と離れた位置にいく。


 そして、従業員の動きに目を配る。

 その中にみゆを見つけた。


 私の存在に気付いたみゆがコクリと頷き、他の従業員に声を掛け、桃井の姿が見えるとこから離れさせる。


 私は監視カメラの位置を予め把握しておいた。

 そして桃井が監視カメラの映らないとこに移動し、従業員が近くに居なくなった所で葵に合図をおくる。


 桃井は今、真剣にスイーツを眺めていた。

 

 意外と女の子っぽいところもあるんだね……。

 正直、桃井がスイーツを喜んで食べる姿は想像できないけど、心なしか目がキラキラしているように見える。

 

 だから、桃井はコッソリと近づいている葵に気付かない。

 そんな葵は一番忍ばせやすいボールペンを手に持ち、ソッと桃井の鞄を少しだけ開け――忍ばせた。


 私はそれを確認した後、みゆに合図を送るのだった――。 

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