第178話「悪いお兄ちゃんにはおしおきが必要」
「さ、咲姫……? いったいどうしたんだ……?」
家に帰ってみると、一瞬雪女が立っているのかと思ってしまった。
もちろんこんな現実世界に雪女みたいな妖怪がいるはずもなく、玄関に立っていたのは咲姫だったのだが。
どうして雪女並みの冷気を発しているのかがわからない。
ここ最近、怒らせる事は一切していないはずだ。
「おかえり、海君。こんな遅くまで何処に行ってたのかな?」
咲姫は俺の質問に答えず、逆に質問をしてきた。
抑揚のない声が、凄く怖い。
チラッと腕時計を見てみると、確かに結構遅い時間にはなっていた。
ただでさえ遠い雲母の家に行ってたのに、結構話しこんでしまったからそれも仕方ないと思う。
これは夜遅くまで遊び歩いていたと思われていて、怒っている感じか?
「用事があったんだよ。遅くなったのは悪いと思うけど……仕方ないんだ」
「ふ~ん……? 用事ってどうせ女の子なんでしょ?」
た、確かに雲母の件ではあったから女の子ではあるのだけど……どうして、決めつけられている?
今回の事については桜ちゃんにも話していないため、咲姫が知ってるはずがないんだけどな……。
だから、思い込みで言ってるだけだろう。
ここで女の子と答えれば更に怒るのはなんとなくわかったため、適当に誤魔化す事にする。
「いや、取引先と顔合わせをしていただけだよ」
決して嘘ではない。
西条社長も取引先には違いないのだから。
「次嘘ついたら、お父さんたちに報告する」
「なんで!?」
おかしい!
どうして誤魔化した事がバレたんだ!?
後、嘘ではないからな!?
それに父さんに報告されるのはまずい!
あの人意外と厳しいところがあるから、黙って働いていた事がバレたらどれだけ怒られる事か!
下手すると、ラノベや漫画を全て没収されかねない!
それどころか咲姫がエロゲーの事まで打ち明けてしまえば、エロゲーも没収されるだけじゃなくて、とんでもなく怒られる事になる!
ここはどうやってでも咲姫の怒りを鎮めなければならない!
「えっと、どうしてそんなに怒ってるんだ?」
「海君が嘘をつくから」
「いや、その前から怒ってたよな……?」
だって、家に入った瞬間から異様な雰囲気を放ってたし。
「海君がテスト前に女の子とデートに行くのが悪い」
「えぇ……」
いつの間にか、用事が女の子とのデートにされているし……。
この様子では、何を言っても信じてもらえそうにない。
というか、あまり正直に話すわけにもいかないし。
仕方ない、ここは天使を召喚しよう。
「桜ちゃん、ちょっと来てくれ!」
咲姫の怒りを手っ取り早く鎮める事が出来る、妹を呼ぶ事にした。
あの子が居ると居ないとでは、咲姫の怒りは結構変わるのだ。
「桜なら今、お風呂に入ってるけど?」
――どうやら、タイミング悪くも天使は出てこれないようだった。
これは悪手にもほどがある。
桜ちゃんを呼べば咲姫の機嫌が悪くなる事は想定していたが、それも桜ちゃんがここに現れるまでの数十秒の間だと思っていた。
しかし、桜ちゃんがここに来る事が出来ない今、俺が指した手はただ咲姫の機嫌を更に悪くしただけだ。
「ふふ、困ったからって妹に頼ろうとする悪いお兄ちゃんには、おしおきが必要よね?」
まるでアニメに出てくる、ドSな先輩のような笑顔を浮かべる咲姫。
なんだか家族になったばかりの頃の咲姫に戻っている気がした。
――この後、桜ちゃんがお風呂から出てくるまでの数十分の間、俺は咲姫から説教され続けた。
最後には俺の部屋にあるものを好きに使っていいという事で、許して貰うのだった。
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