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第177話「久しぶりのやり取り」

「――さて、話はこれで終わりという事でいいのかな?」

 俺が知らないアリスさんの過去を聞かせてもらった後、少し雑談をしてから西条社長が話を切り上げにきた。


「はい、今日はお忙しい中お時間を取って頂き、ありがとうございました」 

 俺はソファから立ち上がり、頭を下げてお礼を言った。


 彼の話を聞いていて思ったのは、やはりアリスさんは凄いという事だ。

 俺はまだ、あの人の足元にも及ばない。


 そして、同時に思った。


 あの人は、あの小さな体でどれだけのものを背負っているのか。

 色々、抱え込み過ぎている気がする。

 龍がアリスさんの事を心配して俺に助言をしてきた理由がよくわかった。


「おっと、そうだ。一応、契約書にサインだけは頂けるかな?」

「あぁ、そうですね。しかし、サインはアリアとの決着がついてからにして頂きたいです。賭けに負ける気はありませんが、一応あいつが勝った場合の要求が、平等院システムズに入社する事なので」

 今回アリアと交わした賭けに対しても既にアリスさんから聞いているらしく、俺は今契約を交わすわけにはいかない理由を話した。


「いや、サインだけ先にしてもらって、契約が成立するのは決着がついてからという事でいいよ」


 西条社長はそう言いつつ、一枚の紙とペンを渡してきた。

 いいと言うのなら、ここではサインをしておくべきか。

 この人への信頼に繋がるし、物的証拠が残る事になるからな。


「わかりました」

 俺は西条社長から契約書を受け取り、目を通す事にする。


 さて――――え?


 契約書の内容を見た俺は、思わず固まってしまった。

 何度か(まばた)きをしたり、目をゴシゴシと手で擦ってみても、書かれている内容は変わらない。


 契約書――いや、この紙に書かれている一番最初の文字には、なぜか『婚姻届』と書かれている。


 しかも、『夫になる人』のほうには何も書かれていないが、『妻になる人』のほうには『西条 雲母』と書かれていた。


「あ、あの……西条社長、これは……?」

 俺は押し上がってくる感情を殺しながら、それでも震えた声で西条社長に聞いてみる。


「何、契約書だよ」

 ニコッと笑顔で言う西条社長。


 あぁ、そうだな。

 確かにこれもある意味契約書だよな。


 だが――おかしいだろ!

 業務的契約を結ぶにあたって、婚約届を渡される経験なんて多分日本人の中で初めてしたぞ!

 さすがに外国はわからないけどさ!


「あなたはそれでいいんですか……?」

 どうツッコんだものか悩んだが、とりあえず当たり障りのない言葉を選んだ。


「ははは、冗談だよ。ほら、こっちが本物の契約書さ」

 なんだ、やっぱり冗談か。

 まぁさすがに、愛娘を勝手に結婚させたりするわけがないよな。


 ――うん、今度のはちゃんと『契約書』と書かれいる。

 俺は契約書と書かれている事を確認して、サインしようとするが――また、内容を目にして固まってしまった。


 今度のはきちんとお互いの条件を呑む事について書かれていたのだが、最後に小さくこう書いてあった。

(なお)、乙は西条雲母との婚約に同意したものとする』と。


 この場合の乙は、俺の事だ。


「おいっ……!」

 俺は思わず心の底から声が出てしまった。


「おや、気が付いたか」

「当たり前です! 人をおちょくっているのですか!?」

「私としては結構本気なんだがね……仕方ない、今度こそ本物の契約書だよ」


 悪く思うどころか、残念そうな態度で西条社長が再度紙を渡してきた。

 この人は意外とふざけた人なのかもしれない。

 そういえば、少し前の雲母もこういう感じだったな。

 西条家の血がこうなのか?


 頭を抱えたくなる思いに駆られながら、しっかりと契約書に目を通す。

 やはり何事においても契約書はよく読んでおかないと、何が書かれているかわかったものじゃない。 

 それを、身を(もっ)て思い知らされた。


 三度目の正直という事なのか、今度こそは変な内容が書かれていないものだった。

 俺は契約書にサインをし、西条社長に渡した。


 その後は、西条社長に呼ばれたメイドさんがコピーを作ってくれたため、俺はいつも持ち歩いてるポーチに入れて、今度こそ帰る準備をする。


「さて、帰りますね」

「あぁ、家の者に送らせるよ」

「いえ、大丈夫ですよ。それでは失礼します」


 ペコっと頭を下げ、俺は部屋を出る事にする。


「――あら、お帰りになるのですね」

 ドアを開けると、雲母のお母さんが立っていた。

 もしかしてずっとここにいたのだろうか?

 いや、そんな事をするくらいなら部屋の中に入ってきているだろうし、用事を済ませて丁度戻ってきたところって感じか。


「今日はありがとうございました」

「いえいえ、またいつでも来てくださいね」

「ありがとうございます」


 社交辞令とはいえ優しい笑顔で言ってくれたため、なんだか凄く嬉しかった。

 こんな優しい人が母親だなんて、雲母が羨ましいとも思った。

 俺は、母親に会う事なんて二度と出来ないしな。


 ――ん?


「どうかなさいました?」

「あ、いえ……なんでもないです」


 一瞬人の気配みたいなものを感じたが、この家には多くの使用人がいるため、気にするほどでもないだろう。


「それでは失礼します」

 俺はそれだけ言って、西条家を後にした。


 結構疲れたなぁ……。

 今日はもうゆっくりとしたい。

 明日からは更に大変になるし、休められる時には休んでおかないと身が持たないだろう。


 電車に乗ってからはする事がないため、スマホを取り出した。

 すると、SNSサイトから通知が来ていた。


 相手はもちろん、花姫ちゃんだ。

 少し前まではよくやりとりをしていたのに、最近は全然出来ていない。

 一番の友達だけに、少し寂しかった。


『海君海君、今何してるの?(/・ω・)/』

 このメッセージは数時間前にきていた。

 西条社長と話をしていたから通知には気が付かなかったけど、今更ではあるが返信はしておこう。

 

『返信遅くなってごめん! 今は電車で帰ってる所だよ』

 

 メッセージを返すと、意外にも早く返信がきた。

 

『ふ~ん、どこかに遊びに行ってたの?(*´▽`*)』

『うぅん、用事があって出かけてただけだよ』

『用事って、女の子?(*^_^*)』


 ん?

 なんでこんな事聞くんだろう?

 

 俺は不思議に思いながらも、メッセージを返す。


『女の子といえば、女の子になるのかな? まぁでも、本当に用事があって出かけていただけで、女の子と遊んでたとかじゃないよ』

 一応自己満とはいえ、雲母のために行動をしていたので正直に書いた。


 ……実際は、見栄を張ってみたというのが大きな理由だった。

 こう書けば、嘘はついてないけど向こうには俺がリア充に感じられるだろう。

 花姫ちゃんは最近リア充を満喫しているみたいだし、これくらいの見栄は張っていいはずだ。


 別に、最近相手をしてもらえなかったからって、意趣返しじゃないからな?


『ふ~ん、そうなんだ』


 ……あれ?

 なんか怒ってる?


 いつも絶対顔文字を使う花姫ちゃんが、顔文字を使っていない事になんだかそう思ってしまった。

 これが普段から顔文字を使わない人なら気にしないんだが……。


『えっと、気を悪くした?』

『うぅん、ぜ~んぜん気を悪くしてないよ(^_^)ニコ』


 ……なんでだろう?

 今度は顔文字が付いたけど、逆にそれが怖いんだけど?

 なんだか、怒った時の桜ちゃんを相手にしている感じだ。


『えっと、どうしたの?』

『なんでもないよ~(´▽`) あぁ~、早く弟帰ってこないかなぁ(^^♪』


 どうしてここで弟が出てきたんだ?

 まぁただ、なんだか気を悪くさせたみたいだし、話題を変えられて丁度いいか。


『弟さん、帰ってきてないの?』

『うん、何処かに遊びに行ってるの(*´▽`*) きっと、女の子と遊んでるんだろうね(*‘ω‘ *)』

『へぇ、弟さん彼女いるの?』

『うぅん、いないよ~(^^)/』

『じゃあ、モテるんだ?』

『うん、モテるよ(#^^#) 本当、いらないくらいに』


 おっと……なんだか、今日の花姫ちゃんは怖いな。

 もしかして機嫌が悪いのは俺じゃなくて、弟さんのせい?


 あれか?

 弟が女の子と遊んでいてヤキモチを焼いているのか?

 確か花姫ちゃんの弟は血が繋がっていないはずだから――もしかして、花姫ちゃんはその弟の事が好きなのだろうか?


 ――って、そんな事聞けるわけがないしな。

 でも、俺とあまりやり取りをしなくなったのって花姫ちゃんに弟が出来てから数か月経ってからだし、なくはないよな?

 

 ……なんだか、数少ない友達を盗られた気分だ。

 

 俺は家に着くまでの間、モヤモヤした気持ちを抱えながら花姫ちゃんとやり取りをするのだった。


 しかし、家に帰った直後その気持ちは一気になくなる。

 なぜなら――まだ暑い季節なのに、真冬かと勘違いするような冷気を纏って玄関に立っている、咲姫がいたからだ。

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― 新着の感想 ―
しゃっちょさんなかなか冗談がキツイっすよ学園卒業後に入社する契約書が婚姻届けとか(草)しかも真面な契約書と見せかけて娘との婚約をこっそりといれてるなんて、マジ本気ですね! お茶目な一面を見せてくれた社…
[一言] 部屋に入った時雲母のお母さんも一緒にいませんでした?
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