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第176話「知らない彼女の行動」

「『なぜ西条財閥の社長と、ライバル企業である平等院財閥のご息女が繋がっているんだ?』といった顔だね」

 俺の表情から考えている事を察した西条社長が、言葉を代弁する。


「はい……」

 偽る事をせず、正直に頷く。

 ここで嘘を言っても意味がないし、何より知りたかった。


 どうして、アリスさんの名前が出てきたのかを。


「私はあの子がとても優秀だという事を知っているんだ。昔、アリスさんが幼かった時に平等院社長から自慢をされたからね。いや、自慢というよりも私にプレッシャーを掛けたつもりなのだろう。雲母とアリスさんは同じ年齢だったからね」

「次世代の差を見せつけたかったと?」

「あぁ、そうさ」


 質問に対して、すんなりと西条社長は頷いた。

 実に馬鹿らしいと思えるが、平等院社長に一体なんの意図があったのか……。

 その立場にいない俺にはわからない事だ。


 もしかしたら――子供思いの西条社長にだからこそ、そうしたのか?

 圧倒的な才能を目にすれば、その世代にいる子供の事を西条社長なら気に掛けると思う。

 今後もし取引をする事があった場合、平等院社長はアリスさんと雲母の未来を持ち出し、話を優位に進める事が出来るようにしていたのかもしれない。


 正直俺の目から見ても、雲母がアリスさんの上にいけるとは思えない。

 というか、俺もあの人には勝てる気がしない。

 あの人はもう、天才というよりも化け物の領域だ。

 オタクふうにいうなら、チート級だ。

 あの人と比べられる人間はたまったものじゃない。


 ――アリアは、そんな化け物とずっと比べ続けられたんだよな……。

 

 ふと、前にアリスさんから聞いた事を思い出してしまった。

 アリアが(いだ)き続けた劣等感はきっと、俺の想像も及ばないものなんだろう。

 少しだけ、同情した。


 まぁ同情なんかすれば、きっとあいつは鬼のように怒るだろうが。


「ですが、知ったのは幼い時だとしても、関わっていたのはそれだけではないですよね?」

 もし幼い時だけなら、俺の事をアリスさんから知るのは不可能だ。

 なんせ俺とアリスさんが知り合ったのは、中三の時なのだから。


「私は二度、彼女と大きく関わっているんだ。一度目は、雲母とアリアさんの一件があった時だよ」

「アリスさんがアリアの事を謝罪に来たという事ですか?」

「少し違うね。彼女が来た理由は二つあるんだけど、私が雲母に下した処分を(とが)めにきたのが一つ」


 ア、アリスさん……。

 あなた妹の事を棚に上げて、西条社長を怒りに行ったんですか……。

 確かに雲母を突き放した西条社長のやり方は間違っていますが、度胸据わり過ぎでしょ……。


 アリアのせいで恨まれているであろう相手に堂々と文句を言いに行ったアリスさんに、俺は汗が出てきた。


「もう一つは、提案をしに来てくれたんだ」

「提案、ですか?」

「そうだよ。雲母の事を彼女に一任してほしいとの事だった。その条件を呑めば、もうこれ以上アリアさんが、雲母に手を出す事はないようにするとね」

「また、大胆な案を提案したんですね……」

 

 裏を返せば、これは脅しでもある。

 この案を呑まなければ、アリアが更に雲母を追い詰めるという……な。


 今思えば、雲母を本気で潰すつもりだったのなら、家を追い出された時が最大のチャンスだった。

 心が完全に死にかけた時に追い打ちをかければ、きっとあいつはもう立ち直れていなかっただろうから。

 アリアがそのチャンスをみすみす逃したのはおかしいと考えるべきだった。

 あいつはそれほど甘くない。


 それなのに雲母に追い打ちをかけなかったのは、アリスさんがストップをかけていたのだろう。

 つまり、西条社長は条件を呑んだというわけだ。


「よく、アリスさんの条件を呑みましたね。裏切られる事だって十分に考えられたのに」

「これでも人を見る目には自信がある。アリスさんが争いを好まない事は理解していたし、何より彼女との繋がりは大切にしたかったからね」

「どうしてそこまで?」

「彼女と繋がりがある限り、雲母が最悪の事態に追い込まれる事はないと判断したからだよ」

 

 最悪の事態――それはきっと、雲母の人生が終わらせられるという事だろうな。

 この人は随分とアリスさんを高く買っているようだ。

 そしてその判断は間違っていない。

 

 あの人は、絶対に人を見捨てない優しい人だから。


 ……ん?

 ちょっと待てよ。


「アリスさんが争いを好まないと理解しているのなら、どうして僕の脅しに焦った表情をされたのですか?」

「あぁ、あれは演技だよ」

「なっ――!?」


 え、演技!?

 あの焦った表情や流れていた汗は偽物だったのか!?


「君の考えが知りたくて、乗ったフリをしたんだよ。相手を観察するのは交渉の基本だが、目に見えているものが全てではない。演技に()けた俳優がいるように、鍛えれば迫真の演技をする事は可能なんだ」

「な、なるほど……」


 どうやら、西条社長のほうが何枚も上手だったようだ。

 試されていたからよかったものの、これが本当の取引だったらとんでもない失態だった。

 やはり日本を代表する財閥を率いるトップだけあって、格の違いを見せつけられた気分だ。


「とはいえ、君の歳でここまで出来たのは本当に素晴らしいと思うよ。だからこれからは雲母の力になってほしい」

「は、はい……」

 

 くそ、素直に喜べない。

 やっぱり俺は、アリスさんや龍に比べてまだまだだ……。


「では話を戻させてもらうよ。アリスさんは私からしても無下に扱える相手ではない。だからこそ、彼女のとんでもない頼みを聞いた」

「その頼みとは……?」


「直接会って頼まれたわけではなかったが――『平等院システムズを潰す手伝いをしてほしい』と、頼まれた」


 その言葉を皮切りに、ゆっくりと西条社長は昔の事を話してくれた。

 俺の事を死んだ事にする根回しも彼が関わっているらしい。

 ただ、その時はてっきり俺はもう引退したものだと思っていたらしいが……。


 ――ここから俺は、自分が知らないアリスさんの裏の行動を色々と知る事になるのだった。

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