第10話「磁石の様な二人」
「きりーつ、きをつけー、れーい!」
日直の挨拶と共に、クラスの全員が挨拶をする。
ホームルームが終わったから、もう後は帰るだけだ。
しかし――
「授業内容が全く頭に入らなかった……」
俺は一人、そう呟いてしまう。
昨日の桃井の行動が、頭から離れなかった。
なんであいつ、あの本を嬉しそうに持って行ったんだ……?
エロゲーに興味があるのか?
……いや、それは流石にないと思うが……。
だとしたら、なんであいつはあの本を選んだんだろう?
あー……さっきから、同じ考えばかりが、頭をめぐっている。
全く、あいつはどれだけ俺の事を悩ませたら気が済むんだ……。
「おい、これから何処行くよ?」
「ゲーセン行こうぜ~!」
「ねぇねぇ、これからケーキ食べにいこうよ!」
「え~……最近、ちょっと体重が……」
「大丈夫大丈夫! まだまだ細いよ! という事で、レッツゴー!」
「あ、ちょっと~!」
クラスメイト達の声にそちらを見れば、みんな、それぞれのグループで固まって放課後の予定を話し合っていた。
クラスに一人で居るのは、俺くらいなものだろう……。
クラスメイト達に混ざりたいとは思うが、俺は彼らに話しかける勇気がなかった。
はぁ……桜ちゃんを待たせるわけにはいかないし、行くか……。
「ねぇ、ちょっといい?」
俺が席を立とうとすると、女子が話しかけてきた。
「な、なに?」
俺は彼女から目を背け、問いかけた。
「ちょっとー、こっち見て話せないわけ?」
「ご、ごめん……」
「はぁ……ま、いいわ。先生が教壇の上にある資料を資料室に返しといてくれって言ってたから、返しといてね」
そう言って、その女子は俺に背を向けて歩き出した。
はぁ、またパシリか……。
クラスメイトが教員から頼まれた仕事は、大抵俺に回ってくる。
だから、こういう事は珍しくなかった。
俺は桜ちゃんに、少しだけ遅れる事を連絡する。
「ねぇ、あいつマジでキモくない?」
「わかるわかる、なんていうの? オタクって奴かな? まじ、目障りだよね」
「ねぇ、雲母ちゃん、あいつ雲母ちゃんの力でどうにかできないの~?」
「出来なくないけど、気持ち悪いから関わりたくないのよ。それに、今はやることがあるでしょ?」
「あ、確かにそうだね」
――そんな会話が、俺の耳に届く。
先ほど俺に頼み事をしてきた女子が、西条さんのグループに合流して俺の悪口を言っていたのだ。
この光景も珍しくない。
根暗な俺は、クラスで嫌われ者だった。
ドアの前で彼女達が話しているため、俺は彼女達がいなくなるのを待つ事にする。
窓から外の景色を見ると――桃井の姿が見えた。
彼女は、校舎裏の方を目掛けて歩いて行っている。
また告白の為に、男子から呼び出されたのだろう。
俺とあいつの学校での立ち位置は、対極なんだよな……。
そんな俺達がいずれ磁石の様に引かれ合うだなんて――この時の俺には、思いもよらなかったのだった。
ついに日間恋愛ランキング1位になりましたヾ(≧▽≦)ノ
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