第162話「独占欲」
活動報告のほうに、おもおもも先生に描いて頂いた表紙絵の背景付きバージョンを載せてます!
凄く素敵なイラストなので、是非とも見て頂きたいです!(*´▽`*)
「ま、まさか、授業一つ丸々潰すくらい怒られるとは……」
やっとこさ解放され、教室の机に突っ伏した俺はグッタリしていた。
「よしよし」
そんな俺に対してアリスさんが頭を撫でてきた。
それだけでクラス内が凄くざわつく。
もう一々クラスメイトに反応するのもめんどくさいし、アリスさんに撫でられるのは気持ちよかったため、俺は顔を上げずにアリスさんの行為を受け入れた。
というか、ここで顔を上げて雲母やアリアと目を合わせるのが怖い。
あいつら、絶対に俺の事を睨んでるだろうから。
「ドジっ子はね……カイの事を……心配してるんだよ……」
机に突っ伏していると、耳元でアリスさんの優しい声が聞こえた。
吐息が耳にかかって、少しくすぐったくもある。
というか、ドジっ子って……。
話の流れ的にポンコツ教師の事だろうけど、『子』なのか?
いや、まぁ、身長低いし、童顔だから確かに高校生にも見えるけど……。
一応大学を出てるから、俺たちよりまぁまぁ歳上なんだよな。
「カイはね……ドジっ子に感謝しないといけない……」
「えっ?」
アリスさんの意外な言葉に、俺は思わず顔をあげてしまった。
「カイが今……これだけで済んでるのは……ドジっ子のおかげだから……。あの子が他の教師から……カイを庇って……くれてる……。ニコニコ毒舌が……そう言ってた……。だから……親にも連絡されてないし……怒りにくるのも……ドジっ子だけ……」
「まさか、あの如月先生が……?」
信じられない。
なんせ、やらかす事しかしない人だぞ?
そりゃあ、咲姫と雲母がもめた時に仲裁してくれたのは感謝してるけど……。
俺の顔を見て、アリスさんがクスっと笑った。
「信じられないって……顔だね……。あの子は……カイが思ってる以上に……頑張ってるよ……。ただ……その努力を……見えないようにしてるだけで……。だからあの人たちの……友達でいられるんだろうね……」
『あの人たち』、その言葉が誰を指しているか普通ならわからないはずなのに、俺はこの時誰の事を指しているのかわかった。
おそらく、紫之宮さんたちの事だ。
前に如月先生の友達だと言っていたし、アリスさんがある程度同格と見ていそうな人だから。
如月先生たちの親しさから見て、もしかしたら青木先生も含まれてるのかもしれない。
あの人もあの人で、普通じゃないからな。
そんな人たちと友達でいられるくらいの何かが、あのポンコツ教師にあるというわけか……。
というか、迷惑をかけた上に庇ってもらっていたとか……今までポンコツ呼ばわりしていた俺は、どの面下げてあの人に顔合わせたらいいんだよ……。
「そんなに気にしなくても……いつもどおりで……いいよ……。カイも……よくあの子のために……頑張ってるから……」
「……いや、あの、表情で人の考え読むのやめてください。というか、本当に表情で読めてるんですか? しかも、俺と如月先生の絡み、あなた知らないはずですよね?」
色々と腑に落ちない事に対して、俺はアリスさんに聞いてみる。
だがアリスさんは、ニコッと笑ってごまかした。
いつも無表情なくせに、こういう時だけ素敵な笑顔を浮かべて誤魔化すなんて、ずるすぎるだろ……。
「カイ……。それよりも……アリアを追ったほうが……いい……」
「え?」
「もう行動に……移してるよ……」
アリスさんの言葉に、アリスさんと反対方向の隣の席を見ると、確かにアリアはいなかった。
てっきり、俺とアリスさんのやりとりを睨んでいるものだと思っていたのに。
「あいつ、どこに行ったんですか?」
「多分……桃井の子の……所……」
「そう来ましたか……」
俺はすぐに席を立つ。
アリアがどうして咲姫の元に向かったかなんて、あいつの性格を考えれば明白だ。
おそらく、来週のテストについて宣戦布告するつもりなのだろう。
テストで宣戦布告とか、『お前は漫画でよくいる万年二位のガリ勉君か』と言いたくなるが、この宣戦布告は自分に注目を集めるためにするんだと思う。
良くも悪くも、咲姫に宣戦布告というのは目立つからな。
そして、絶対に勝つ自信があるからこその行動だ。
全く……賭けが成立してから次の休み時間に行動を移すとか、せっかちにも程があるだろ……。
アリスさんの言葉を信じて咲姫のクラスを目指すと、丁度アリアが咲姫のクラスに入ろうとしていた。
「やっぱり来たのね。どれだけ過保護なのかしら?」
俺が追い掛けてくると予想していたアリアは、ドアに手を掛けたまま俺の顔を見てきた。
「心配するな、別に邪魔をする気はないから」
「へぇ……? 私の目的に気が付いてるみたいなのにその発言という事は、随分とお姉さんの事を信頼してるのね?」
こいつ、わざと咲姫の事を姉呼ばわりしたな……。
俺にしか聞こえない声量で言ったとはいえ、周りには多くの生徒がいる。
それに俺とアリアが一緒にいるせいで、注目の的にもなっていた。
耳がいいやつなら一人くらいは聞こえていてもおかしくない。
こいつは隙あらば俺に攻撃というか、嫌がらせをしてくるな……。
「あいつのほうが、お前より上だと思ってるからな」
俺は挑発ぎみにアリアに告げた。
ただ、これは嘘ではない。
俺は本当に咲姫のほうがアリアより上だと思っている。
結構馬鹿な発言や、理解不能な発言をするが、咲姫の学力は凄く高い。
少なくとも、アリアに遅れを取らないと信じてる。
「ま、いいわ。あなたがいたほうが話が成立しやすいからね」
アリアはそう言うと、教室のドアを開いた。
「桃井咲姫って子に話があるんだけど」
「え? 何かな?」
アリアの呼び掛けに対して咲姫の声が返ってきた。
それは、家で俺にだけ見せていた話し方と声色である。
本当に、みんなの前で素を出してるんだという事に、俺はなぜか残念な気持ちが沸き上がってきた。
もしかしたら、この女の子らしい咲姫は俺だけが知っておきたかったのかもしれない。
俺って、女々しいな……。
独占欲が沸き上がってきた俺は、自分の考えに嫌気をさしながらも、アリアの後ろから教室を覗いた。
「私、あなたに話が――」
「あっ――海君だ! 休み時間なのにわざわざ会いに来てくれたの!?」
俺がいる事に気が付いた咲姫は、先程の昼休みの一件があるからか、凄く嬉しそうに俺に駆け寄ってきた。
――そう、俺の目の前に立つ、アリアを押し退けて。
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