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第161話「本当に高校生なんですか?」

「神崎さんたちって本当に高校生なんですか?」

 教室に戻っている最中、隣を歩く九条君が唐突に変な事を言い始めた。


「どうしてそう思うのかな? 俺はどこからどう見ても、高校生だよ?」

「いやいや、どこの高校生があんな言葉の応酬で腹の探り合いをするんですか。挙句の果てに、賭けとか……。ほら、クラスのグループチャットも大騒ぎですよ」

 九条君はそう言うと、俺にスマホを見せてきた。

 彼の言う通り、次から次へとクラスメイトたちが食堂の一件についてチャットに書き込んでおり、画面が激しく動いていた。


 ただ――。


「俺、このクラスのグループチャットの存在、初めて知ったんだけど……」

「…………」

 俺の一言に、九条君はスマホを見た後、気まずそうに目を逸らした。


 うん、これは完全に一人だけ()け者にされていた奴だな……。


「あ、あれですよ! みんな神崎さんの連絡先知らなくて、だから誘えてなかっただけですよ!」

「そ、そっか」

 慌ててフォローしてくれる九条君に、俺は笑顔を返した。

 若干笑顔がひきつってしまったかもしれないが。


「そ、それよりも、あれですね。意外な内容で賭けをするんですね」

 この気まずい空気を変えようとしたのか、九条君は別の話題を振ってきた。

「どうしてそう思うのかな?」

「えっと、漫画などのこういう時の勝負事って手の込んだギャンブルゲームとかってイメージがあったので……クラスメイトたちに認められるって内容が、どうも単純すぎるような気がしました」


 九条君、その違和感に気が付いたのか。

 彼の言う通り、今回の賭けの内容は単純すぎる――いや、正確に言うと、あっけない内容だ。


 ここが、俺とアリスさんの策の分岐点。

 

 アリスさんは、この勝負でもっと入り組んだ内容にする事を想定していたと思う。

 あの人なら、アリアが絶対にクラスメイトたちと仲良くしようとする勝負内容にする。

 そして賭けの要求内容では、俺が負けた場合は学園内で収まる範囲での言う事を一つ聞き、勝った場合でも、アリアに同じレベルで言う事を一つ聞かせるといったような要求内容で賭けをしていただろう。


 そうすれば、アリアが勝った時は自分を毛嫌いするクラスメイトたちと仲良くする方法を掴めたという事になり、その中であいつと本当に仲良く出来る生徒が現れれば儲けものだった。


 逆に俺が勝ったとしたら、今後クラスメイトたちと仲良くするように命令をしていた。

 最初はアリアも反発するだろうが、残り約一年半を一緒に過ごす事で、仲間だけは大切にするアリアの考えを利用して、時間をかけて考えの根本を変えさせるという事が出来たと思う。


 それが、アリスさんの策だ。


 だが、俺はあえて勝負内容を仲良くする事じゃなく、認められる事にした。

 そして、アリア自身のリスクをなくし、俺のリスクを跳ね上げる形であいつが絶対に勝負を受けるよう仕向けた。


 

 俺とアリスさんにとって、どちらのやり方でもこの賭けは過程でしかない。

 違いは、どこで決着をつけたいかだ。

 

 卒業までを見越しているアリスさんと違って、俺はすぐにでも決着をつけたい。

 

 だから俺は、これからアリアにストレスをかけまくる。

 そのために勝負内容をあえて当初より簡単にし、そしてアリアが絶対にクリア出来ない内容にした。


 仲良くする事よりも、ただクラスメイトの一員として認められるだけのほうが、簡単だろうからな。

 だがあいつは、絶対に全員を認めさせる事は出来ない。


 その確信が俺にはある。


 それにあいつのようなタイプは、意外にも勝負内容を単純にしたほうが利く。

 今もなお、アリアは単純すぎるこの勝負について考え続けているだろう。

 

 何か、隠された裏があるんじゃないかと。


 あるはずもない裏を探して、あいつの視野は狭くなる。

 そして、その先にある俺の本当の目的には気付けない。


 勝負内容を単純化したのは、そういう意味もあった。

 

 だが、それらを九条君に教える必要はない。 


「別に大した意味はないから、気にしなくていいよ」

「大した意味ないんですか……。賭けの要求内容に対しても、()に落ちないんですけどね……」


 九条君はそう呟くと、俺の顔を観察するような目で見る。

 その後、小さく溜息をついた。


「ま、今回の勝負……神崎さんが負ける事は百パーセントないですからね。だって賭けを持ち込んだ神崎さんは除いたとしても、クラス全員って事は西条さんにも平等院妹は認められる必要があるんですよね? それって、無理ゲーですよ」


「それは違うよ」


「え?」

「これ、見てみなよ」


 俺はスマホで撮った契約書の写真を九条君に見せた。


「これって……」

「そう、俺だけじゃなく、雲母も対象外だよ」


 契約書には、アリアがクラス全員に認められるかどうかを賭けの勝負内容として書かれている。

 だがそこには、『ただし、神崎海斗と西条雲母は除くものとする』と書かれていた。


 あの紗里奈と呼ばれた女の子は、ちゃっかり雲母を賭けの対象から排除しておいたのだ。


「なんで神崎さん、異を唱えなかったんですか? これ、あの場の話に出ていなかったのに、勝手に追加されたものじゃないですか」

 アリア側が勝手に追加したルール。

 それを黙認した俺の考えがわからないといった感じか。


「いいんだよ、これで。例え異を唱えたとしても、今度は勝負を受けないとアリアは言い出すさ。俺が勝負を受けさせたい事はあいつが一番理解してるし、むしろ素直に勝負を受けてくれただけまだマシなほうだよ」

 俺がハイリスイクを用い、アリアにリスクがなかったからこそ成り立った賭けだ。

 アリスさんの策よりこっちの策で唯一楽だったのは、アリアと賭けを成立させる事だっただろうな。

 あっちの策では、アリアに賭けを引き受けさせる事に苦労させられそうだったから。

 

「……もう一度聞きますけど、神崎さんたちって本当に高校生ですか?」

 九条君は凄く(いぶか)しむ表情で、俺の顔を見てきた。


「だから高校生だってば……」

 俺は少し呆れた声で九条君に答えた。

 

 なぜ俺はこれ程までに歳を疑われているのだろうか。

 普通にどこからどう見ても高校生だろ……?


 まぁそれはともかく、雲母をこの勝負内容から除外したのは、アリア側の致命的なミスだ。

 あいつらは、雲母の事を見誤った。


 今回の勝負、実を言うとアリアが認めさせるのは雲母一人でよかった。

 雲母が認めてしまえば、クラスメイトたちはどれだけ嫌う相手でも認めるしかないのだ。


 それは、俺の存在を見ていてわかる。


 雲母が俺を庇っただけで、クラスメイトたちの態度は一変(いっぺん)した。

 あいつはそれ程までにあのクラスで影響力がある。


 雲母の意思は、あのクラス全員の意思となるのだ。


 アリアもその事を少なからず理解していたはずだ。

 だが、個人的な感情から雲母を除外してしまった。

 

 除外していなければ、『クラス全員に認められる必要があるから』という言い訳で、雲母攻略に望めただろうに。


 紗里奈という女の子が雲母を除いたのは、雲母がアリアを恨んでいると思っているからだろう。

 アリアが雲母の人生を壊した、張本人だからな。


 だが、雲母は優しくて懐が深い奴だ。


 それは、自分も一度道を踏み外したからか、それとも元々それ程器が大きい人間だったからかなのかはわからない。

 一つわかるのは、雲母がアリアに対してもう憎しみを持っていないという事だ。

 あいつは、あいつなりにアリアの事を受けいれようとしていた。


 アリアが少し態度を改善するだけで、すぐにでも認めていただろう。


 それなのに、アリアは雲母から目を背けた。

 逃げ道を選んだ今、あいつにはもう勝ち目がない。


 ただ、アリア側も一応策は講じているみたいだ。

 今回俺が条件を出した内容を、契約書に記載する際に少しだけ変えている。


『お金を直接渡すやりとりを禁止とする』


 契約書には、こう書かれていた。 

 俺は、お金を今回の賭けに用いる事自体を禁止したつもりだったんだがな。

 この契約書に従うなら、物での買収はありになる。

 女子ならスイーツや、服。

 男子ならゲームか、同じく服などで買収できるという考えだろう。

 

 一応、俺が口にした条件には反していない。 

 これはルールの裏をつく感じに近いな。


 俺が見逃したのも、この部分だ。

 あいつらがこういう事をしてくるのは、俺にとって好都合だったからな。


「――ちょっと待ってよ、今更無理だって!」

「そんな事ない……。いつまで……出来ないふりをするつもりなの……?」

 

 クラスの近くまで来ると、なんだか雲母とアリスさんが話をしていた。

 雲母の声は大きくて聞き取れるが、アリスさんの声は小さすぎて聞き取れない。


「神崎さん、あれって……」

「ん? まぁ、話をしてるだけだと思うよ。それよりも俺お腹空いてるから、時間もないし早くクラスに戻ろう」

 本当は二人がなんの話をしているのか気になったが、俺がいない所でしているという事は、俺に聞かれたくない話なのかもしれない。

 それに、あの二人が二人だけで話しているのも珍しい。


 俺はあの二人にも仲良くしてもらいたい。

 俺にとって、どちらも大切な友達だから。


 ……アリスさんは、若干友達とは違うかもしれないが……。


 まぁそういった理由で、二人で話したりする仲になれているのなら、俺としては歓迎だ。


「それと九条君、クラスのグループチャットで今回の賭けの内容を嘘偽りなく、流してもらえるかな? 噂になってるって事は、変な情報が混ざってるかもしれないから」

「あ、わかりました! それに、裏切り者が出ないようにキツく言っておく必要もありますしね!」


「いや、それはいいよ。俺が賭けに負けた場合、支払う内容についても触れなくていい。各々(おのおの)、雲母や俺の事は関係なしに、アリア自身と向き合ってほしい、と俺が頼んでいたと伝えてほしい」


「えぇ!? なんでそんな敵に塩を送るような真似を!?」

「これでいいんだよ」


「わかりました……」

 俺の言葉に九条君は首を傾げながらも、言う通りにグループチャットに書き込んでくれた。

 

 これでいい。

 アリアに対して全員があからさまに敵対の意思を見せれば、俺が手を回しているから無駄だとアリアは捉える。

 そうなれば、あいつにリスクがない以上、この勝負を投げかねない。


 だが、全員とはいかなくとも、アリアに対して好意的な姿勢を見せる子たちがいれば、アリアも向き合おうと思うはずだ。

 一応、うちのクラスにも優しそうな生徒はいるしな。


 俺は事が思い通りに運んでいる事に満足し、クラスのドアを開けた。


「――やぁ、海斗ちゃん。元気そうで何よりだよ」


 するとそこに立っていたのは、笑顔を浮かべるポンコツ教師だった。

 だが、なぜか目の端っこに涙が溜まってる。


「どうしました、先生……?」

「ふふ、ちょっと私、海斗ちゃんとお話がしたいな~」

「お、お話ですか?」

 いつもと違う雰囲気に、俺は少しだけ後ずさる。

 逆にポンコツ教師は、俺に詰め寄ってきた。


「うん、そうだよ。そんなに怖がらなくていいから、ちょ~っと、おいで~」


「あ、後じゃだめですか?」


「うん、だ、め。――(まな)ちゃ~ん、おねが~い」

「へっ? ――うぐっ!」

 ポンコツ教師が両手を重ねて自分の頬に当て、首を傾げた瞬間に俺の襟元が誰かに掴み上げられた。


「神崎さん、申し訳ございませんが、少しだけお付き合いください」

 そう言ってきたのは、アリスさんの護衛兼教師でもある、青木先生だった。


 ……まじかよ。

 この人、今度は俺を拉致するのか……。

 俺は逃げられない事を察し、抵抗を諦めて空き教室へと連れて行かれるのだった。


 ――この後、食堂の一件でめちゃくちゃ怒られた。

『ボチオタ』をいつも読んで頂き、ありがとうございます!


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