第159話「賭けの内容」
『ボチオタ』の表紙絵、活動報告から画像が見える所に飛べるようにしてます!
おもおもも先生がイラストを担当して下さり、とても素晴らしく可愛いものになっておりますので、是非とも見て頂けると嬉しいです(*´▽`*)
「賭け、ですって?」
俺の言葉を聞いたアリアは、怪訝そうに顔をしかめる。
それもそうだろう。
こいつは、俺に避けられていると思っていたはずだ。
まず、勝負事や賭け事などをしようとしても、乗ってくるはずがない。
そう思っていた相手が、いきなり賭け事を吹っ掛けてきた。
疑うのが当然の反応だろう。
アリアのお付きの生徒たちも、俺を見据える目付きが鋭いものとなった。
一言一句、俺の言葉を聞き逃さない体勢をとっているのがわかる。
…………一人を除いて。
俺が現れた時から一人テンパってる女の子は、相変わらずキョドった態度を見せている。
本当に毒気が抜かれるから、どっかに連れていってくれ……。
……その為にわざわざアリアはこの子を連れてきたのか?
なんだか一人だけ場違いな態度をとり続ける女の子を見て、俺は変に深読みしてしまう。
ただ、ここで集中を切らせるわけにはいかないため、キョドる女の子が視界に入らないよう意識をし、一度深呼吸をして頭を切り替えた。
今は、他に気を回している余裕はないのだ。
おそらく自分の土俵でしか勝負を受けないであろう、この女とこの賭けを成立させるためには。
「そうだ。とは言っても、何もぶっそうな賭けをするつもりはない」
「へぇ……。じゃあ、どのような賭けをするつもりなのかしら?」
「内容は簡単だ。この九月が終わるまでの一ヶ月の間に、お前が俺たちのクラスメイト全員にクラスの一員として認められるかどうかって事で賭けをしよう」
「……ふ、ふふふ――はははは!」
賭けの内容を聞き、突然アリアが笑いだした。
一般生徒たちはギョッとした表情でアリアを見る。
逆にアリアのお付きの生徒たちは、アリアと同じようにおかしそうに口元に手を当てて笑っていた。
俺は黙ってその光景を見つめ、アリアの次の言葉を待つ。
「何を言い出すかと思えば、賭けの内容があのクラスメイトたちに、一ヶ月でクラスの一員として認められるかどうかですって? 私、どうやらあなたを買いかぶり過ぎていたみたいね。そんな賭け乗るわけないでしょ?」
「へぇ、逃げるのか?」
「逃げる? これは逃げるとは言わないわ。だって、賭けにすらなってないもの。雲母が手中に納めるクラスってだけでもめんどくさいのに、あなたがわざわざその賭け事を持ってくるって事は、既に根回しが済んでいると考えるのが当然。こんな賭けに乗る人間がいるとしたらまぬけか馬鹿くらいよ。あからさまに自分に有利な状況を作れば、相手は誘いに乗って来ない。そんな事もわからないの?」
まぁわかっていた事とはいえ、凄く馬鹿にされている。
アリアのお付きたちも同じ考えなのだろう。
テンパってる一人以外、みんなコクコクと頷いていた。
この状況は、ほぼ思い描いていた通りだ。
さて、話を進めるか。
「確かにお前の言う通りだな。しかし、賭けるものを聞かずに早合点するのは早計なんじゃないか?」
「いくら賭け金を積まれようと――」
「お前が勝てば、一つだけ、なんでもお前の命令を聞いてやるよ」
「――っ!?」
先程まで馬鹿にした態度をとっていたアリアが、驚いたように俺の顔を見てきた。
この言葉が指す意味を一瞬で理解したのだろう。
例え一つの命令だろうと、内容によっては多くのものを得られる言葉。
そして、俺が――というより、KAIがその言葉を言ったのは、こいつにとって大きいはずだ。
確証を持っていなくても、こいつは俺の事をKAIだと信じているし、その事を認めさせる事も出来る。
俺が認めてしまえば、雲母とアリアの勝負の結果をひっくり返す事さえも出来る。
まぁこいつが、そんなチッポケな内容の命令をするとは到底思えないが。
「それで、私が負けたらあなたは何を要求するのよ?」
先程までとは打って変わって、アリアは話を聞く姿勢を見せてきた。
賭けとして支払う内容によっては、受ける気になったのだろう。
「お前が負けたとしても、俺は何も要求しない。つまり、お前は何も対価を支払う必要はない」
「はぁ!? あなた本当に馬鹿なの!?」
勝負に負ければ俺はアリアの言う事を聞き、勝っても何も要求しない。
賭けなのに片方はハイリスクに対して、もう片方はノーリスク。
しかも、賭けを持ち込んだ側がハイリスクを背負うだけという内容。
その事実に、アリアどころか、全生徒が驚きを隠せないでいた。
「お前がどう捉えようと勝手だ。ただし、これにも条件がある」
「その条件とは?」
「まず一つ目、負けた際にはなんでも言う事を聞くと言ったが、それはあくまで常識の範囲内でだ。さすがに死ねなどの命令は聞けないからな。ただし、ある程度は譲歩するつもりでもある」
「えぇ、それに関しては問題ないわ。まぁ、結構譲歩してもらう事にはなるけど」
どうやらアリアは、もう既に俺に対してする命令を決めているみたいだ。
それならば、話を進めよう。
「二つ目、今回の勝負でクラスメイトたちにお金で取り入ったり、脅迫まがいの行為、誰かを傷付ける行為などは全て抜きだ」
「要は、正々堂々向き合えって事ね?」
「あぁ、そうだ。そして三つ目。これから卒業するまでの間、誰一人として陥れたり、傷つけようとするな」
今言った事は、先程と内容が被るように聞こえるかもしれない。
だがこれは、今回の勝負に関係ない生徒たちの事を指しているのだ。
それは咲姫や白兎といった、アリアが目をつけそうな対象を守るための条件となる。
「それが目的なわけ?」
どうやらアリアは、俺がわざわざこの賭けをしようとしているのは他の人間に手を出されたくないからだと読み取ったみたいだ。
この話を聞いていて、俺のメリットがそこにしかないからだろう。
悪いが、その予想は外れだ。
だが、アリアならそう読み取ると思っていたし、俺にとっても都合がいいからこれに乗らせてもらう。
「あぁ、その通りだ。どうせお前はまた裏で何かしようとしてるんだろ? 一々目の届かない場所で何かされるよりも、こっちのほうが俺的には楽なんだよ」
俺の言葉を聞いて、アリアは黙りこんで目を細めた。
この反応で俺は確信する。
こいつが、何か企んでいたという事を。
やはり行動に移して正解だったと思う。
行動を起こさず、アリアの裏での行動に気付く事も出来なければ、最悪な事だって起きたかもしれない。
それだけは絶対に避けなければならなかった。
「それで、負けた場合あなたはどうするの? いくら私に勝負を受けさせたいからって、賭け金としては大きすぎるんじゃないかしら?」
これは別に俺の事を心配してるわけじゃない。
返事から、俺の思惑を読み取ろうとしているのだ。
まだ腑に落ちてない部分があるのだろう。
……ここが、ターニングポイントだな。
俺はいっそう、アリアの表情や動作に意識を集中させる。
やりすぎれば、それで詰みとなる。
とはいえ、乗ってくるようにもしなければならない。
そのいい具合を見分け、加減を見誤らないようにしなければならない。
「問題ない。なんせ、お前なんかがたった一ヶ月でクラスメイトたち全員に認められるはずがないからな」
「へぇ……言ってくれるじゃない」
若干怒りを含む表情で、アリアは俺の顔を睨んできた。
プライドを傷付ける発言だったのだろう。
「その自信……どうやら、用意周到に手を回してるみたいね?」
「いいや、俺は今回の賭けで誰一人として声をかけていない。そして、賭けが成立したとしても手を回すつもりもない。そんな事しなくても、結果は見えているからな」
「随分とした物言いね……?」
「お前のクラスでの立ち位置を見れば、誰だってそう思うだろ?」
「……ふん、今だけよ。そんな事言えるのは」
アリアはそれだけ言うと、考え込み始めた。
賭けを受けるかどうか、思い悩んでいるのだろう。
更に発破をかけるかどうかで俺は悩むが、少しだけ様子見をする事にした。
アリアのお付きの一人が、アクションを見せたからだ。
「アリア様、お引き受けしてはどうでございますか?」
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