第152話「意見の食い違い」
「――という感じなんですが、どうでしょうか?」
場所を移してすぐ、俺はアリスさんにこれからやろうとする事を説明した。
これで彼女の了承を得られれば、何も問題がない。
だが…………話を聞いたアリスさんは、珍しくも顔を歪めた。
言葉を発さなくても難色を示すその表情からは、俺の話を快く思っていない事が窺える。
「問題、ありましたか?」
観察するようにこちらを見るだけで何も言ってこないアリスさんに、俺は自分から尋ねた。
すると、アリスさんの雰囲気が変わったのがわかる。
いつもの気怠げな雰囲気を一切感じさせない、凛としたアリスさんだ。
俺は少しだけ身構えながら、彼女の言葉を待つ。
あまりいい答えが返ってこなさそうだったからだ。
「問題ありすぎ。アリスはそこまで望んでない」
アリスさんが口にした言葉は、案の定否定の言葉だった。
いや、それどころか、声色からもわかるくらい今のアリスさんは怒っている。
俺は何も言わずに、アリスさんの次の言葉を待つ。
「カイはもう少し自分を大切にしないとだめ。そんな事したら、体を壊すよ? ましてやそれは、これから先のカイには絶対に必要のないもの。だから、アリスは反対」
どうやらアリスさんは、俺の事を心配して言ってくれてるようだ。
自分でも、どれだけ無茶な事を言っているのかはわかっている。
だが、今回で確実に終わらせるなら、それでもしなければならない。
おそらくアリスさんは、今回の事を大きな切っ掛けにするだけで、アリア自体の改善には長い目で見ているはずだ。
俺を使って、少しずつあいつの考え方を変えようと。
だからこそ、わざわざ俺のいる学園まで転校してきた。
長期間を見越しているのなら、接触が頻繁にできる同じ学園のほうが都合がいいからな。
多分転校を言い出したのはアリアだろうけど、あいつの性格を知り尽くしてるアリスさんなら、自分の思う方向に誘導するのは簡単だったはずだ。
もしくは、アリアが転校を言い出した事で自分に都合がいいほうに向かっているから止めなかったかのどちらかだろう。
……確かに、一気にあいつの考え方を変えようとするよりも、少しずつ変えようとするほうが確実だ。
しかしそこには、改善するまでの間アリアが何もしないという保証はない。
アリスさんが何も考えていないとは思わないが、予防策をとるとしてもこちら側が後手に回ってしまう可能性が高い。
もしあいつが雲母を――いや、雲母以外にも、咲姫や桜ちゃんなど、俺に関わりがある子に手を出す可能性があるなら、ここで無茶をしてでもあいつの考え方を変えさせる必要がある。
それはアリスさんの思惑を俺が理解した時に出た結論とは、少し異なる。
昨日の俺は、アリスさんが望んでいる通り、アリアが自分からクラスメイト達と仲良くするように持っていくつもりだった。
だけど、一晩考えてその結論は変わったんだ。
俺は、もう少しだけ踏み込む事にした。
それが最も確実な手段だと思ったからだ。
唯一問題があるとしたら先程アリスさんが言った通り、俺の体がただでは済まないという事なんだが――もうその覚悟は出来ている。
後はアリスさんが協力してくれるだけでいい。
いや、正確には、必要なのはアリスさん自体の協力ではないが……。
ただ、その協力を得るにはまず間違いなく、アリスさんの許可が必要だろう。
それに、俺が今回無茶をしてでもここで終わらせたいのには、もう一つ理由がある。
いやむしろ、そちらの理由のほうが大きい。
一人でなんでもかんでも抱え込もうとするアリスさんを、少しでも楽にしてあげたいのだ。
アリアの考え方を改めさす事が出来れば、アリスさんの肩の荷を一つ下ろしてあげる事が出来る。
しかし、勝手な事をすればアリスさんに余計な心配をかけてしまう為、彼女には納得してもらってから行動に移したい。
だから俺はアリスさんの説得に掛かる。
「無茶をしてでもやる必要があるんです」
「だめ」
「お願いします」
「やだ」
「そこをなんとか」
「知らない」
…………あっさりいくとは思っていなかったが、思った以上に頑固だ。
さて、どうするか……。
「どうして、そこまで無茶しようとするの?」
アリスさんは先程までの怒ってる声色じゃなく、心配するような、不安が混じった声色で俺に聞いてきた。
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