第151話「私重たくないもん!」
「なんで、居るんだ……?」
授業が終わって昼休みを迎えた俺は、教室の前側のドアを見ながらそう呟いた。
正直、戸惑いが隠せない。
いや、戸惑いを隠せていないのは俺だけじゃない。
教材の片付けを終えて教室を出ようとした先生や、クラスメイト達まで教室の前側のドアを見て驚いた表情をしていた。
「――えへへ、海君、お昼行こ?」
その元凶は、可愛らしい笑顔を浮かべながら弁当箱を片手に、教室の中に入ってきた。
「なんで、居るの?」
先程と似た言葉を俺は元凶にぶつけてみた。
「え? 海君と一緒にお昼ご飯を食べたかったからだよ?」
俺の質問に対して、クラスメイト達の視線を意にも介さない元凶――昨日から学園でも素を出す事にした、咲姫が不思議そうな表情をして首を傾げる。
その仕草と、キョトンっとした表情だけで、周りの男子達が見惚れている事がわかった。
いや、中には女子でも頬を赤らめて咲姫を見ている。
それだけ、今の咲姫が浮かべる笑顔は魅力的だ。
ただ、俺はそんな可愛らしい笑顔に騙されたりはしない。
「咲姫、授業が終わってから現れるにしても早すぎないか? もしかして、授業中に抜け出してきたんじゃないだろうな?」
先程から俺が疑問に思っていたのは、咲姫がこの教室に現れた事じゃない。
昨日咲姫が、付き合っている相手(偽)が俺だと隠す気をなくしていた時点で、恋人アピールをする為に昼休みに現れる事は十分予想していた。
だから俺が疑問に思ったのは、『なんで授業が終わったばかりなのに、もう咲姫がこの教室の前に居るんだ?』という事だ。
いくらなんでも早すぎる。
なんせ、授業の鐘が鳴ったのはついさっきなのだから。
「大丈夫だよ! ちゃんと授業の挨拶が終わってから来たもん!」
俺の言葉に対して、咲姫が心外そうに頬を膨らませて言ってきた。
うん、ちょっと拗ねてしまっているようだ。
しかし、授業が終わってから来たとしたら、やはり早すぎる。
となると――。
「じゃあ、走ってきたりもしてないよな?」
「…………走って、ない、よ?」
「おい、なんだ今の間は? 後、なんで目を背けてる? 生徒会役員が廊下を走るのは駄目だろ?」
咲姫の様子から走ってきた事を確信した俺は、周りに聞こえないくらい声を抑えて言う。
ただ、咲姫がやった事は自身の評価を下げる事なので、ちょっと厳しめに注意をした。
「は、走ってないもん。早歩きだもん……」
だが咲姫は、往生際悪く言い訳を始めた。
視線を逸らしたままバツが悪そうに言う姿から、自分が苦しい言い訳をしているという事を咲姫もわかっている。
このまま話していてもクラスメイト達の注目を集めたままだし、本人が理解しているのならこれ以上はいいか……。
「そんなに慌てなくても、一緒に食べたいんだったら連絡してくれたら待ってるんだから、次からは歩いてきなよ」
だから俺は、咲姫にだけ聞こえるように優しく告げた。
ちなみに、俺が咲姫を迎えに行くという選択肢はありえない。
うん、何がなんでも、俺はその選択肢だけは選ばない。
なんせ咲姫を迎えになど行けば、咲姫のクラスメイト達から凄い視線を向けられる事間違いなしだからだ。
しつこいようだが、俺は自分に視線が集まる事を嫌う。
そんな俺が自ら視線を集める事などするわけがない。
だがしかし――まだそれだけなら、場合によっては俺から咲姫を迎えに行く事はあったかもしれない。
その可能性が零なのは、咲姫のクラスに春花が居るからだ。
俺と咲姫の関係については前に話しているが、さすがに告白の返事もしていないのに、春花の目の前で別の女の子を食事に誘う程俺はクズではない。
……いや、うん……。
告白の返事もきちんとするから、既にクズ野郎だとかは思わないでほしい……。
「本当!?」
連絡をくれたら咲姫の事をきちんと待つと言った事が嬉しかったのか、咲姫は満面の笑みを俺に向けてきた。
そんな咲姫に俺がコクンっと頷くと、咲姫はまた嬉しそうな笑顔を浮かべた。
……どうしよう?
実は、今日は一緒に食事をする事ができないんだが、こんな表情をされると言い出しづらくなってしまう。
しかし、今は咲姫には悪いがあの件を優先させてもらおう。
「ごめん、咲姫。さっきの今であれなんだが……今日は、俺に予定があって一緒に食べるのは無理だ」
「えぇ!?」
俺の言葉を聞いた咲姫は、『ガーン!』っといった表情をした。
咲姫のこの表情は、初めて見るかもしれない。
「なんで!? なんでなの!?」
俺と食事をする予定でいた為断られたのが納得できないのか、咲姫が不満そうに聞いてきた。
ただ、咲姫に正直に言う訳にはいかない。
だから俺は、先程から弁当を持って俺達の会話が終わるのを待っている雲母に視線を向けた。
それだけで俺の意図を察したのか、雲母は頷いて咲姫の腕を掴んだ。
まぁ昨日話した事によって、今日俺が行動を起こす事については予想できただろうからな。
「はいは~い。それじゃあ私達は行こっか~」
「あ、ちょっと雲母!? 私、まだ海君と話してるんだけど!?」
「いいからいいから――ちょっ!? 全くビクともしないんだけど!? 私の力だけじゃあ無理なんだけど!?」
この場から離れたくない咲姫が踏み止まったせいか、咲姫を引きずろうとした雲母が歩きだせていなかった。
「あぁ! ひどい! 私重たくないもん!」
雲母の発言が自分を重たいと言ってるように聞こえたみたいで、咲姫が今までで一番大きく頬を膨らませた。
やはり女の子としては重たいと言われたくないようだ。
……いや、まぁ、咲姫が重たいんじゃなく、咲姫の力が強いのと、雲母の力がないだけなんだが……。
咲姫を抱えた事がある俺は、咲姫の体重もある程度はわかっている。
……本人には抱きかかえた事があるなんて絶対に言わないが。
だって、あの時の咲姫は寝てたし。
しかし、咲姫がこのまま動かないのは困る。
どうするか……。
――困った俺は、とりあえず教室の中を見渡してみる。
クラスメイト達が俺達を遠巻きに眺めているのはわかっていたので、とりあえずそいつらはスルーする。
すると、アリアが教室から出て行く姿が見えた。
咲姫に視線を奪われていたから、隣の席にいたあいつがいつの間に移動したのかはわからない。
ただ、今教室を出ようとしているという事は、多分俺達のやりとりを見ていたのだろう。
まぁ今はいい。
それよりも――。
俺は、左の席で無表情に俺達のやりとりを見ていたアリスさんに視線を向ける。
するとアリスさんは、ゆっくりと口を開いた。
「もうすぐ……来る……」
「もうすぐ来る? 誰がですか?」
俺がアリスさんに尋ねた時、教室のドアが開いた。
そして現れたのは、アリスさんの護衛兼桜ちゃん達の担任――青木先生だ。
青木先生はペコっとアリスさんに頭を下げると、雲母と言い合いをしている咲姫を抱きかかえて連れて行ってしまった。
「…………あ、あぁ……。咲姫を連れて行く為に、呼んでくれていたのですか……」
突然だったのと鮮やかな手際に、俺は一連の流れを理解するのに数秒を有したが、アリスさんが先程言った言葉の意味を理解した。
どうやら俺が頼んでくる事を見越して、咲姫を連れて行く為に事前に青木先生を呼んでくれていたみたいだ。
その時に内容も伝えていたのだろう。
……相変わらず、可愛い見た目や雰囲気からは想像もできないくらい、化け物だ。
まぁだからこそ、この人と先に話しておきたい。
「アリスさん、少し話と相談をさせて頂けませんか?」
俺はそうアリスさんに頼んだ。
いつも『ボチオタ』を読んで頂き、ありがとうございます!
話が面白い、キャラが可愛いと思って頂けましたら、評価や感想、ブックマーク登録を頂けると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ







