第148話「一枚の絵」
「ただいま……」
あの後俺は、雲母のお願いを聞いてしまった。
本当なら断るべきだったのかもしれない。
だが、雲母が纏う雰囲気によって断る事が出来なかった。
あいつが心からお願いしてきているのが伝わってきたのと、なんだか切羽詰まっているように感じたからだ。
それに――これから俺がアリアにする事で、雲母に辛い思いをさせてしまう可能性が高い。
だからその罪滅ぼしみたいなのもある。
雲母に辛い目にあってほしくないと言っておきながら、俺がそういう状況に持って行こうとしてるなんて笑えないな……。
辛い思いをさせる分、俺に出来る事はしっかりやっておこう。
ただ……雲母があんなふうにお願いをしてくるとは思わなかった。
前に遊ぶ約束をした時は、我が儘を言ってる感じでギャーギャーうるさかったんだがな……。
まぁ本人曰く、俺に断られる可能性が高かったから、断られる事に怯えながら聞いてきていたらしい。
その分俺が了承した時の喜びは大きかったみたいで、凄く幸せそうな顔をしていた。
……本当、どうして俺なんかにそこまで思ってくれているのか……。
俺はそんな事を考えながら家の中に入った。
家の中に入ると、違和感に気が付く。
いつも俺が帰った時に咲姫が家に居る場合、絶対出迎えてくれる。
しかし、今日は咲姫が一向に出てくる気配がない。
桜ちゃんは帰るのが遅くなるという連絡をアリスさんから貰っている。
なんでも、帰ろうとする桜ちゃんをカミラちゃんがだだをこねて引き留めているらしい。
あの子は見た目通り、性格も幼くて可愛いと思う。
…………男嫌いがなければな……。
せめて、薙刀を模した木刀を振り回さないでくれたらいいんだが……。
まぁ今はカミラちゃんの事を嘆いても仕方がないか。
それよりも、咲姫はもう寝てしまったのだろうか?
雲母を家まで送って帰ってきたため、結構遅い時間になっていた。
今日は早く寝ようって事で咲姫が寝てしまった可能性も十分ありえる。
そう思ってリビングに入ると――机に突っ伏す咲姫の姿があった。
その手にはシャーペンを握っており、机の上には教科書やノートが広げられている。
どうやら自分の部屋で勉強をせずに、リビングで勉強していたようだ。
いつもは自分の部屋で勉強しているみたいだが、今日は俺も桜ちゃんも出かけていたから、寂しくてリビングで勉強していたのだろうか?
リビングなら俺達が帰ってくればすぐわかるし。
しかし……本当に、勉強していてくれたんだな……。
正直、ここまで素直に咲姫が勉強をしている(今は寝ているが)とは思わなかった。
今まで咲姫は毎日する少しの復習だけで、特別テスト勉強をせずに学年首位をキープしていた。
だから、今回も勉強しなくても一番をとれると思って勉強しないんじゃないかという懸念があった。
だが咲姫は、しっかりと勉強をしてくれていたようだ。
今日は寝てしまっていたとしても、咲姫がテスト勉強をしっかりしてくれるならアリアに負ける可能性は少ないと思う。
まぁそれはそれとして、こんな姿勢で寝ていると体に悪いから起こすとしよう。
「……ん?」
咲姫に声を掛けようとして、机の上に一枚の絵を見つけた。
そういえば、キャラ絵を描いてるとか言っていたな。
咲姫がどんなキャラを描いたのか気になった俺は、それを手に取って見てみる。
そして――その絵を見た俺は、息を呑んでしまった。
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