第147話「お願い事」
「俺の好きな人……か?」
雲母がそんな質問をしてくるとは思っていなかったため、俺は思わず尋ね返してしまった。
俺の質問に対して雲母はコクンっと頷いた。
「どうして急に?」
「言わなくても……わかるでしょ……?」
雲母は顔を上げようとしない。
やはり、今日の雲母はしおらしいな……。
恐らくだが、春花とアリスさんが転校してきた事を気にしているんだろう。
俺の過去を詮索した事がある雲母は、春花が俺にとって大切な存在だった事を知っている。
そして夏休み、俺がアリスさんと仲がいい事も知った。
雲母は表情に見せなかっただけで、その二人が転校してきた事によって心の中では焦っていたのかもしれない。
俺が盗られるんじゃないかと。
……いや、こんなナルシスト発言してるのは自分でもキモいと思うが、雲母の様子から見て間違ってないと思う。
俺にそんな価値なんてないのに、これ程までに思ってもらえる事は凄く嬉しかった。
「そんなに気になるのか?」
「うん……」
雲母はそれ以上何も言わず、顔を上げて俺の目をジーっと見つめてきた。
その目からは、どうしても答えてほしいという思いが伝わってくる。
正直言えば、雲母に聞かれた瞬間咲姫の顔が思い浮かんだ。
だけど、それをそのまま言うわけにはいかない。
言葉にしてしまえば、もう後戻り出来ないからだ。
「今は居ないよ」
だから俺は、嘘だとバレないように雲母の目を見つめながらそう答えた。
「そ、そっか……」
雲母は俺の言葉を聞くとホッとしたような、そして少し残念そうな顔をした。
雲母が何を考えているかはなんとなくわかったが、俺はそれ以上声を掛けなかった。
結局その後は、ロクに会話をしないまま雲母の家に着いた。
「おやすみ、海斗」
「あぁ、おやすみ」
俺は雲母にそう言うと背を向けて歩きだそうとし、ふと思い留まった。
「……どうしたの?」
帰ろうとしない俺に対し、雲母が不思議そうに聞いてきた。
少し思う事があった俺は、雲母のほうを向き直す。
「お前は、アリアについてどう思う?」
「え?」
「このまま大人しくしていると思うか?」
「……正直、大人しくしてないんじゃないかな……」
俺の質問に対して、雲母は正直に答えてくれた。
どうやら思っている事は俺と同じようだ。
それならば、もう少し切り込む事にしよう。
「もしかしたら……雲母が昔の事を思い出して、辛い思いをする事になるかもしれない。それでも、俺の事を信じて何もせずに任せてくれるか?」
俺が気になったのはこの部分だ。
これから俺がしようとする事は、もしかしたら雲母に辛い事を思い出させてしまうかもしれない。
そして雲母が邪魔をしてしまえば、全てが無駄に終わってしまう。
だから、その事を確認しておきたかった。
「海斗は……何をしようとしてるの……?」
雲母は不安げな表情をして俺の顔を見てくる。
急にこんな話をされればそれも仕方がないだろう。
俺は雲母の不安が和らぐように言葉を選ぶ。
「アリアがこれ以上過ちを犯さないようにするだけだ」
「そうなんだ……。うん、私は海斗を信じて任せるよ」
雲母は一切迷いを見せず、前の時と同じように俺に任せてくれた。
ここまで信頼されていると、なんだか照れ臭くなるな……。
とはいえ、素直に有難い。
これで思う存分出来るから。
「――でも……その代わり、一つお願いを聞いてほしいな……」
俺がお礼を言おうとすると、雲母が何か頼み事をしたいと言ってきた。
こちらの頼みを聞いてもらってる以上、ここは聞くべきだろう。
「うん、いいぞ。なんだ?」
「その……デート……してほしい……」
雲母がお願いしてきたのは、まさかのデートだった。
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