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第141話「黒髪ロングの雲母」

「初めまして、神崎様。朝比奈鈴花と申します」

 鈴花さん……いや、朝比奈さんのほうがいいのか?

 朝比奈さんは立ち上がると、礼儀正しく俺に頭を下げてきた。

 

 ただ……やはり、声に覇気がない。

 近くで見て気が付いたが、目の下にはクマがあり、それを化粧で誤魔化しているようだ。


「初めまして、朝比奈さん。神崎海斗と申します」

 俺も鈴花さんに(なら)って挨拶を返した。


「申し訳ございません。(わたくし)なんかの為にこんな時間に来て頂きまして……」

「あ、いえ……俺としてもこれは望んでいた事なので、気にしないでください」

 

 申し訳なさそうに顔を曇らせる朝比奈さんに対して、俺は慌てて首を横に振った。

 そして、もう一度朝比奈さんの事を見る。


 朝比奈さんは紺色を基調とした高そうな着物を身に纏っており、丁寧な口調や優雅なふるまいから、本当にお嬢様なんだと実感させられる。

 なんちゃってお嬢様の雲母やアリアとは大違いだ。

 

 ……家の格だけで見れば、あの二人のほうが朝比奈さんよりお嬢様なんだが……。


「神崎様は……雲母さんのお友達でいらっしゃるんですよね……?」

 すぐにでも雲母の話に入りたかったのか、軽く挨拶を終えると朝比奈さんはすぐに雲母と俺の関係について聞いてきた。

「そうですね、雲母とは友達です」

 彼女の言葉に俺はすぐに頷いた。

 今の雲母の事を俺は友達だと思っているし、あいつもきっとそう思ってくれているだろう。

 それに朝比奈さんに不安などを抱かせないように、友達と聞かれて迷うそぶりを見せるわけにもいかなかったのだ。


「雲母さんは……お変わりになられましたね……」

「雲母の姿を見たんですか?」

「はい……だめだとわかっていながらも、どうしても我慢が出来なかったのです。アリスさんとの約束を破ってしまいました……」


 アリスさんとの約束か……。

 朝比奈さんの事を気遣って、雲母を見てショックを受けないよう自分から近寄らないように約束していたってところか。

 

「それで、ショックを受けたんですか?」

「そうですね……。凄く……ショックを受けました……」

 朝比奈さんは俺の問いにコクリと正直に頷いた。

 そしてそのまま俯いてしまい、着物を両手でギュッと握った。

 俯いてしまっていて表情は見えないが、その様子からは後悔が伝わってくる。

 この人もまた、自分の事を責めているのがよくわかる。

 

 まぁ、親友を裏切って、その親友が別人のように変わっていたのだから、自分を責めるのも無理はないが……。

 しかし、このままではやはりこの人は潰れてしまうだろう。


「俺は中学時代の雲母を知りません。だけど、今のあいつは過去を乗り越えて楽しそうにしています。あなたがした事を引きずる必要はもう無いと思いますよ」 

「私はそうは思えません……。……昔の雲母さんを知られないとの事ですので、こちらを見て頂きたいです」


 朝比奈さんが俺に見せてきたのは、一枚の絵が写った写真だった。

 彼女が見せてきた絵に描かれているのは――綺麗な黒髪を長く伸ばした女の子が、風になびかせられる髪へと右手を添えながら遠くを眺めている着物姿。

 その表情は風を気持ちよさそうに楽しんでいる感じだった。


 この絵は朝比奈さんの代表作、『大和撫子』だ。


 これが、彼女がよく知り、俺が知らなかった過去の雲母なのだろう。


 まぁ、この人があの『朝比奈鈴花』だと知った時点で、『大和撫子』のモデルは雲母なんじゃないかという考えは浮かんでいた。

 当時の鈴花さんは記者のインタビューにこう答えている。


『私にとって、かけがえのない大切なお友達です』と。


 つまり、絵のモデルは朝比奈さんの親友だという事だ。

 そして、それが雲母だという結論に至るのは至極真っ当な流れだろう。


 アリスさんから話を聞いた時もそうだが、未だに今の雲母と中学時代のおしとやかだった雲母というのが同一人物だとは思えない。

 しかし、この絵は髪型や髪の色が違うとはいえ、顔の形は雲母ソックリだった。

 本当に、昔の雲母はおしとやかなお嬢様だったのだろう。


 まぁ、今の雲母も結構尽くす女みたいな部分があるから、根はやっぱりそういう子なのかもしれない。


 俺は視線を写真から朝比奈さんへと戻す。

 俺と目が合った朝比奈さんは、凄く辛そうな表情をしながらゆっくりと口を開いた。


「これは、私がオススメさせて頂いた着物を雲母さんが着てくださった時のものです。この時の雲母さんは、女性の私でも見惚れるくらいお綺麗でした」

「まさに、大和撫子ですか」

「はい、当時の雲母さんは、お嬢様ばかりが集まる私達の学園で、一際輝いておられました。しかし……」


 朝比奈さんはそれ以上は言葉にしなかった。

 いや、言葉にしたくないのかもしれない。


 これ程女性の鑑とも言えそうな女性だった雲母が、金髪ギャルになっていたなんて事を。

 

 ただ……俺は、それが気に入らなかった。

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