第137話「かっこいい女の子」
「……もう、嫌だ……」
ホームルームが終わると、俺は頭を抱えながら教室を出た。
どうして俺が頭を抱えているかと言うと――
「大丈夫ですか、神崎さん!?」
「お荷物を持ちますよ、神崎さん!」
「神崎さん、肩揉みましょうか!?」
――こいつらのせいだ。
ホームルームが終わってすぐ、また俺は九条君を始めとした男子達に囲まれてしまった。
いくらボッチで昔は友達に憧れていた俺でも、正直これは勘弁してほしい。
何が悲しくて、夏休み明けのまだ暑い時期にこんなむさ苦しい男達に囲まれないといけないんだよ。
アリスさん達に囲まれるのとは違って、正直匂いがきついぞ……。
廊下ですれ違う生徒達はギョッとした表情で俺の事を見ている。
男子達に囲まれた時雲母が俺の傍に来ようとしていたが、なぜかアリスさんが雲母を止めていた。
あの人は俺の味方だと思っていたのに、実はそうではなかったのか?
……まぁアリスさんの事だから、何かわけがあるんだろうが……。
それはそれとして、こんな中桜ちゃんを迎えになんか行けないぞ?
あの天使みたいな可愛い子にこんな奴らを近付けて、毒牙にかけられたらたまったもんじゃない。
だから、悪いけど……桜ちゃんの事は雲母に任せよう。
『雲母、悪い。俺の代わりに桜ちゃんと一緒に帰ってくれないか? どっかデザートが食べられる所に連れて行ってくれると助かる。お金は後で返すから』
俺は雲母にメッセージを送り、その後すぐさま桜ちゃんにもドタキャンのメッセージを送った。
ドタキャンをすればあの子が凄く怒るのは前の経験からわかっているため、甘いものでご機嫌をとろうというわけだ。
『うん、そんな気がしたから桜の元に向かってる』
メッセージを送ってすぐに雲母から返信が来たのだが、俺がお願いする前から行動に移してくれていたみたいだ。
あいつは察しがいいから、こういう時本当に助かる。
「神崎さん、今のはどの彼女ですか?」
スマホを覗き込むようにして、九条君が聞いてきた。
「……SNSをチェックしただけだよ」
一瞬『彼女は居ない』と明言しようかと思ったが、そうなると咲姫が困る事になるため、俺はそう誤魔化した。
ここで咲姫だけが彼女だと言ってもそれはそれでめんどくさくなりそうだから、それも出来ないし……。
もし咲姫以外の子は彼女じゃないと言えば、まず間違いなく咲姫以外の女の子にこいつらは群がるだろう。
一番困るのは、桜ちゃんに群がられた時だ。
もしこいつらが桜ちゃんに群がったりすれば、俺は容赦なく排除してしまうだろう。
それだけ、俺にとってあの子は大切だから。
……まぁ、桜ちゃんが望むのなら、邪魔はしないが……。
その辺の線引きが出来ない程、度量が小さい男じゃないんだ、俺は。
………………多分。
次に困るのは、春花に群がられた時だ。
いや、別に『春花は俺の女だ!』とか言う気はないぞ?
春花の告白は断ると決めた以上、俺にそんな事を言う資格はないからな。
だけど、今あいつは転校してきたばかりだから、クラスに馴染む事で一杯一杯になってると思う。
そんなとこに男子達が群がってしまえば、春花にとてつもない負担を掛けてしまうだろう。
だから、群がられたら困るという事だ。
……てか、よく考えれば春花のクラスって咲姫と同じだから、あの空気読めない少女――青山翠が居るじゃないか……。
青山さんは俺と春花が一緒に居た所を目撃してるから、春花に対して変な事を言ってないといいけど……。
「あっ――」
俺達が下駄箱まで行くと、手鏡を見ながら髪型を整えたり顔のチェックをしている春花が俺の下駄箱の前に居た。
もしかしなくても、俺の事を待っていたみたいだ。
「ごめん、今日はもう一人にしてくれないか?」
俺を囲っているクラスメイト達に、俺は冗談じゃない事が伝わるように声のトーンを落として頼んだ。
春花とは二人っきりで話したかったからだ。
俺の言葉に九条君がコクコクとちょっと慌てたように頷くと、周りの男子達も全員すぐにこの場から居なくなった。
なんだ、ちゃんと話が通じるじゃないか。
……それなら、クラスに居た時から俺の言葉に耳を傾けてほしかったのだが……。
「あはは、相変わらず人気者だね」
さっきまでクラスメイト達に囲まれていたからか、俺に気が付いた春花が苦笑いしながら近寄ってきた。
相変わらずというのは、中学時代の事だろう。
俺が高校ではボッチだったという事を春花には話しているが、実際には目にしてないから実感がないのかもしれない。
「あれは、人気者とは違うと思うぞ……。それよりも春花、クラスではなんともなかったか?」
先程から気になっていた事を、俺は春花に尋ねた。
もし俺と咲姫の事で何か言われていれば、すぐに収拾をつけに動くつもりだ。
「うん、大丈夫だよ? 桃井さんのおかげで、みんな優しかったから」
春花は俺の言葉を聞いてキョトンっとした後、笑顔で答えてくれた。
ただし、その内容は意外だった。
「咲姫のおかげ……? あいつ、何かしたのか?」
春花の事を庇う咲姫の姿が想像出来ず、思わず尋ね返してしまった。
「あのね、私が入ったクラスにはもう一人、転校してきた凄く上品でおしとやかな子が居たの。その子が凄く可愛かったからか、挨拶の時に私達二人とも凄く質問責めされちゃったの! それに、昨日の事についても言ってくる子達が居たんだけど、そこで桃井さんが『あなた達、うるさい。自分がそんなふうに質問されたり言われたら、どう思うの? 転校してきたばかりで不安になってるだろうから、ここは温かく迎え入れてあげるべきじゃないのかしら?』って、ビシッと言ってくれたの! そしたらみんな『シーン』って静かになって、桃井さんの事凄くかっこいいって思った! さすが海斗君のお姉さんだね!」
「ちょっ、春花!? その話はここでは内緒だ!」
「あ、そうだったね……ごめん……」
俺に注意された春花は、シュンっとしてしまった。
誰かに聞かれてないか、俺はキョロキョロと周りを見て確認する。
幸いにも周りに生徒の姿は見えないため、誰にも聞かれていないようだ。
「いや、大丈夫そうだから、気にしないでいいよ。それよりも、咲姫がそんな事を言ったんだな……。まぁ、咲姫らしいと言えば、咲姫らしいけど……でも、最後の『温かく迎え入れる』ってのは意外だな……」
冷徹女の仮面を被った咲姫なら、そういう事は遠慮なしに言うだろう。
ただ、『温かく迎え入れるとか、冷徹女のお前がどの口で言うんだ?』とも思う。
そしてその事については、仮面をつける咲姫自身がわかっていたはずなんだが……やっぱり、そういう面でも心境の変化があったんだろうな。
しかし、冷徹女の仮面は外したんじゃなかったのか?
……いや、春花と同じクラスになったから、外す事を決意したのか?
……まさかな……。
春花と同じクラスになったから仮面を外すというのが繋がらないため、俺はそれとは関係ないと結論付けた。
また詳しくは、咲姫が話してくれるのを待てばいいだろう。
それと、大量に質問責めされたのは鈴花さんが可愛かっただけでなく、春花もだからだろうな。
そうじゃないと、春花には質問が来ずに全て鈴花さんに集まっただろうから。
……それにしても、鈴花さんの名前……さっき転校生がどのクラスに入ったか確認した時に初めて苗字を知ったのだが、『朝比奈鈴花』という名前、昔何処かで聞いた事があるんだよな……。
何処で聞いたんだったかな……?
「――あ、でもね……さっきクラスに戻ってきた桃井さんは、なんだか凄く可愛らしい女の子って感じだったの! なんていうか、乙女っぽい感じかな? あの子って、二重人格なの?」
俺が鈴花さんの名前を何処で聞いた事があったのか思い出そうとしていると、春花が驚いたような表情をして俺に尋ねてきた。
だから、俺は思考を切り替える。
春花の話を聞く限り、どうやら咲姫は俺と別れてクラスに戻った後も仮面をつけていなかったらしい。
本当に、素の自分でこれからは学園生活を送るようだ。
「いや、二重人格ではないんだが……まぁ、機会があれば今度話すよ。それよりも、その話をするために待っていてくれたのか?」
咲姫の事を俺が勝手に話すのは良くないと思い、話題を変える事にした。
「ううん、違うよ。久しぶりに、海斗君と一緒に帰りたかったから待ってたの」
春花はそう言うと、ニコッと可愛らしい笑顔を向けてくれた。
その笑顔に、俺は罪悪感を覚える。
やっぱり、今すぐにでも返事をしたほうがいいのだろうか?
――俺はこれ以上春花に期待を持たせるのは良くないと思い、告白の返事をしようか悩みながら下駄箱を開けた。
すると――中に、一枚の手紙が入っているのだった。
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