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第136話「一抹の不安」

「モテる……秘訣……?」

 一瞬クラスメイトから真剣な表情で頼まれた内容が理解出来ず、俺は九条君に聞き返した。


「はい! それもただモテるんじゃなく、美少女にモテる秘訣です!」

 九条君は元気のいい声で、俺に返事をしてくれた。

 そんな九条君に同意するように、クラスの男子達が一斉に頷く。

 どうやら彼らは、本当に美少女にモテる秘訣が知りたいようだ。


 ………………いや、知らんがな。


 真剣な表情で何を言ってるんだ、こいつらは?

 女子達なんてドン引きしてるぞ?

 お前ら俺にそんなこと聞く前に、自分から株を落とすような真似をするのをやめたほうがいいと思うが?


 そもそも、モテる秘訣とか知らないし。

 もし雲母達の事を言ってるのなら、絶対にオススメしないぞ?


 雲母は咲姫の事件があって俺に興味を持ち、アリアとの勝負で俺に本当の好意を抱くようになってくれたわけだし、咲姫に関しても雲母の一件があったからこそ、あんなふうに懐いてくれてるんだろう。


 春花については幼い頃に虐められている所を助けたのと、中学時代の思い出があってこそだ。


 桜ちゃんは幼い時に助けてくれたお兄さんがたまたま俺だったから懐いてくれてるだけだし、そもそもあの子は俺を兄として慕ってくれてるだけだ。

 

 アリスさんに関しても、俺に異性としての好意を持ってくれてるわけじゃないだろう。


 つまり俺からこいつらに言えるのは、タイムスリップが出来ない以上、雲母が咲姫を陥れようとした事件みたいな修羅場を経験するしかないということなんだが?

 まぁ雲母と咲姫の事件については話すわけにいかないし、桜ちゃんやアリスさんの事は勘違いでしかない。


 春花との事は……こいつらに、話したくない。


 だから俺から九条君達にアドバイス出来る事なんて何もない。

 せいぜい、自分磨きをするように言う事しか出来ないだろう。


 ……いや、まぁ、その辺何も努力していない俺が言える事じゃないけど……。


 だが逆に、これはクラスメイト全員から行われる俺の特別扱いを直すチャンスだろう。

 だから、九条君達には悪いが嘘を――いや、あながち嘘でもないのか?

 少なくとも、異性から見られる目は多少マシになるかもしれない。


「とりあえず、俺に対する『さん付け』と、敬語で話すのをやめないか? やっぱり、誰かにペコペコしてる所はちょっとカッコ悪いからさ」


 これなら、モテたいと息巻いてるこいつらも聞いてくれるんじゃないか?

 そんな期待を込めて、俺は九条君達を見る。


 そして彼らは俺の期待どおりに――

「「「「「わかりました、神崎さん!」」」」」

 ――してはくれなかった……。


「いや、な? だから『さん付け』と敬語をやめような……?」

 俺は頭を抱えたい気持ちになりながらも、再度説得を試みる。


「「「「「はい、神崎さん!」」」」」


 しかし、九条君達はやっぱり『さん付け』と敬語をやめてくれなかった。

 というか、人の話を聞いているのか、聞きたくなる。


 どうしよう……?

 大人の相手をする事が多かったり、アリスさんや龍のような大人びた人と話していたからか、同級生の男子が全員馬鹿に見えてきた……。


 クラスメイト達にそんな事を思ってはいけないとわかっていながらも、話が通じないせいか、俺はどうしてもそう思ってしまう。


「――あのさ、さっさと入ってくれない?」


 俺が教室に入ってすぐの位置で足止めをくらっていたせいで、教室に入れないアリアが文句を言ってきた。

 アリスさんと雲母は黙って見ていてくれたのだが、他人なんて関係ないこのお嬢様には、俺が目障りでしかなかったのだろう。


「あぁ、悪い」

 

 俺が教室のドアから体をずらしてスペースを作ると、アリアはそのまま入ってきた。

 その途端、周りのクラスメイトの目付きが変わる。


 物珍しそうに見る目。

 アリアを異物として嫌悪する目。

 敵対戦力だというような警戒をする目。

 アリアを恐れるような目。


 全て異なった意味を持つ目付きとは言え、全て好意的なものじゃなかった。

 いや、男子のほうにはアリアが可愛いからか、卑猥な目も混じっている。

 だがどちらにしろ、アリアからすれば嫌悪感を抱くだけだろう。

 

 そんな視線に対してアリアは『ふん』と鼻を鳴らして、自分の机へと歩いて行く。

 一応クラスメイト達に注意しようかと思ったが、やめた。


 ただそれは、別に雲母の一件を引きずったものではない。

 過去にアリアが雲母にした事を考えれば、このクラスメイト達の視線はまだ優しいほうだろう。

 しかしだからと言って、これを見逃すのは虐めみたいなものだし、こういう視線を向けられる事がどれだけ辛いかを、俺が一番わかっている。


 なんせ、中学時代に嫌になる程大量に浴びてきたんだから。


 だったら、なぜ注意する事をやめたのか?

 それは――アリスさんが望むアリアの成長には、この環境こそが必要だからだ。

 きっと今の俺が注意したり、アリアは雲母の敵じゃないと明言すれば、クラスメイト達がアリアに向ける視線は多少なりとも和らぐだろう。


 しかしそれでは、結局アリア自身が解決した事にはならない。

 彼女自身の手で、クラスメイト達に馴染む手段を見つける必要があるのだ。


 ――って、偉そうに言っているが、俺なんて雲母のおかげでクラスメイト達に迎え入れられてるだけなんだけどな……。

 むしろ、恐れられているけど……。


 普通なら何人もの女の子と付き合っている噂がある時点で、俺は『浮気者』とかそんな感じで叩かれまくる事だろう。

 そうなっていないのは、俺の事をみんなが恐れていて、悪口を言えない状況だからだ。

 

 ただ……これでは、立場が真逆ってだけで、アリアと同じように俺もクラスから浮いている事には変わりない。

 だから、俺自身もクラスに馴染む方法を見つける必要があるだろう。


 まぁ今は俺の事なんか置いといて、アリアの事だ。

 アリアのこの状況についてなのだが、一つだけ疑問がある。


 それは――『アリア程好戦的な女が、簡単にクラスメイト達と溶け込む手段を選ぶだろうか?』という疑問だ。


 もし俺が今までアリアと同じ事をしてきたとして、同じ立場になった場合、きっと自分から溶け込もうとするようなまどろっこしい手は使わないんじゃないだろうか?

 もっと簡単に――それこそ、クラスの実権を握る雲母から、立場ごとその実権を奪ったほうが簡単で楽だと考えるんじゃないか?


 俺よりもアリスさんのほうがアリアに詳しい。

 アリスさんは本当に、アリアがこのまま溶け込む手段を選ぶと思っているのか……?


 俺はチラッとアリスさんのほうを見る。

 見られている事に気が付いたアリスさんは、無表情のまま俺の顔を見上げてきた。

 

 彼女の思惑を読み取ろうとしているはずなのに、俺の考えが読み取られている気しかしないな……。


「……もしもの場合は……カイの……思うとおりにすればいい……。それでも……結果は……変わらない……」

「――っ!」

「?」

 アリスさんの言葉に、雲母は不思議そうに首を傾げた。

 だが、俺は違う。

 俺が心の中で抱いていた疑問を、アリスさんは俺の表情から察して答えてくれたのだ。


『アリアがもし強硬手段を選べば、好きにしろ』っと。

 

 それは、叩き潰しても構わないということだ。


 しかし――この人が言う、結果が変わらないとはどういうことだ?

 アリアが自分から望んでクラスに溶け込むのと、俺が叩き潰すのでは得られる結果は違うだろ?


 ……この人は本当に、どれだけ先の事を見通しているんだ……?


 相変わらず底が知れないアリスさんに、俺は言いようのない感覚に襲われた。


 だがしかし、今はそんな事を考えても仕方がないだろう。

 俺には、アリスさん程の未来を予測する力は無いのだから。


 ただ、アリアが強硬手段に出る可能性がある以上、保険をかけておくか。

 幸いにも、アリアが連れて来たメンバーの中には、鈴花さん以外にも俺の接点がある人物が居る。


 ……カミラちゃんじゃないぞ?

 あの子が俺を嫌っている以上、協力なんてしてくれるはずがない。


 ただ……カミラちゃんじゃない、接点がある人物のほうも、その人との直接な接点はない。


 しかし、アリアが強硬手段を選ぶにしても、すぐには行動出来ないはずだ。

 その間に、その人には焦らずアプローチをしてみよう。


 焦っては俺のほうがボロを出してしまいかねないからな。

 

 それに、鈴花さんが雲母に抱く罪悪感を薄めるチャンスかもしれない。

 ……とはいえ、アリアが素直にクラスメイト達に馴染む選択をしてくれるのが、一番なんだがな……。


 俺はこれからの事に一抹(いちまつ)の不安を抱きながら、クラスメイト達を観察するような目で見渡しているアリアを見つめるのだった――。

いつも読んで頂き、ありがとうございます(*´▽`*)


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