第133話「こりない女」
「カイに抱きついてる女……あれは、誰?」
いきなり出てきた長い黒髪を持つ美少女について、隣に立つ雲母に尋ねた。
「桃井咲姫よ。あんたも知ってるでしょ?」
「あぁ、あの子が……」
桃井咲姫――夏休みの時に行方不明になったとかで、雲母に探す手伝いを頼まれた子ね。
黒髪を長く伸ばして清楚そうな感じは、昔の雲母みたい。
拗ねた顔でお姉ちゃんを睨む姿は、まるでおもちゃをとられたくない子供が友達を睨んでるように見えて、ちょっとだけ子供っぽく感じるけど……。
「私、あなたがカイの彼女かと思ってたけど、違ったのかしら? あっちの子のほうがカイにお似合いに見えるもんね」
「……あんた、本当人の心を抉るのが上手いわね……。確かにギャルっぽい私より、清楚な咲姫のほうが海斗には似合ってるかもしれないけど、海斗は誰とも付き合ってないわよ」
雲母は私を睨んだ後、悔しそうに口を開いた。
まぁ雲母も美少女だけど、あっちの子のほうが可愛いしね。
アイドルかモデルかしら?
私のテレビ局に出てもらえば視聴率をかなりとれそうだけど……あの様子だと、カイとのスキャンダルがあがりそうでリスクが大きいわね。
しかし――。
「あんな陰険な男のどこがいいんだか……」
「あんたが言うな」
「ふっ……」
確かに、カイより私のほうが陰険だってことは知ってるけどね。
でも手段を選ぶようじゃあ、上には上がれないのよ、雲母。
私は雲母に負けたけど、あれはカイの介入があったせいよ。
だから私は雲母に負けたとは思っていない。
こいつよりは、私のほうが上なの。
だから未だに雲母のことは見下しているし、こいつ自体には興味がない。
この前だって、借りがあったから手を貸しただけだし……。
それよりも、問題はカイね。
多分だけど、あの男は正面から勝負を挑んでも絶対に受けてくれない。
そういう感じの人間だと思う。
だから、何かしら勝負を受けさせる手を考えないと……。
私はそう思いながら、口論を始めたカイたちを見つめる。
「――海君を盗ろうとするのはやめてくれないかな?」
「盗るって……カイは誰のものでも……ないはず……」
「よく言うよ! 本当は海君のことを自分のものって思ってるくせに!」
「……見解の相違……」
「否定はしないんだ?」
「まぁね……」
言い争いをしてる――というより、桃井が突っかかってきてて、お姉ちゃんが受け流してる感じだけど、なんだか二人の間にバチバチと火花が飛んでるように見える。
カイは二人の間に挟まれて、あたふたとしてた。
「カイをあんなふうに取り乱さすなんて……桃井って、何者よ?」
取り乱すカイを見て、私は桃井について雲母に尋ねた。
「まぁ咲姫は、学力でおいても運動においてもダントツで学年トップの子だけど――海斗は、結構あんな感じになるわよ? 女の争いは苦手って感じ」
「ふぅん……そう」
冷徹で完璧な男かと思ってたら、意外な弱点もあったものね。
これが世界を騒がせるKAIだなんて、笑い話もいいとこだわ。
だけど――学力と運動で学年ダントツ一位かぁ……。
へぇ……。
カイに相手をしてもらうまでの暇つぶしに、いい相手を見つけたかもしれない。
私は未だにお姉ちゃんと口論をする桃井を見て、笑みが浮かんできた。
「言っとくけど、海斗に勝負を受けさせる為にあの子に手を出したら、あんた、本当にただじゃ済まされないわよ?」
「心配しなくても、そんなことしないわよ」
カイに勝負を受けさせる為じゃなく、私自身が楽しむ為だから。
そしてこれは、この学園での私の存在を知らしめるチャンスでもある。
クラスメイトが私たちに向ける視線から、彼らが私たちを歓迎していないのがよくわかった。
それはきっと、雲母側についてるから。
だから、西条財閥のライバル企業の平等院財閥令嬢である私や、お姉ちゃんのことを歓迎していない。
……男子たちは、それとは別に私の顔とかを凄く見てくるけど……。
とりあえず気持ち悪いからやめてほしいし、邪魔だからどうにかしたいとこね。
まぁ今は雲母が支配してても、私の才能がどれだけあるのかをダントツで一位という桃井を抑えることで思い知らせれば、私側に付くものも出てくるはず。
ましてや私は、腕利きの若手社長として有名だしね。
そしてそのタイミングで、雲母が西条財閥で今どういう状況に置かれているかをみんなに教えれば、全員私のほうに寝返るでしょうね。
人間は裏切りの生き物。
恩や人間関係よりも、利益をとる生き物。
だから、簡単に私と雲母の立場は入れ替わるでしょうね。
まぁそれはそれとして――
「そんな忠告をするってことは、体験済みなのかしら?」
――雲母が言ってきたことで気になった部分があった私は、その部分をつついてみる。
「別に、海斗の性格を考えたらってことよ」
雲母はすぐになんでもないように言ってきたけど、これは嘘ね。
一瞬だけど、顔が強張った。
何か桃井にチョッカイを出して、カイにやられたみたいね。
もしかしたら、それが雲母の弱みになることかもしれない。
それは一人で行ったことなのか、数人で行ったことなのかはわからないけど、探ってみる価値はありそう。
もし数人なら、手を貸したのは雲母が仲良くしてる子たちだろうから、まずはそれを見極めようかしら。
さすがに一人だと大変だけど、私以外にもこの学園には駒が十人――いや、カミラはいらないことしそうだから数から外して……それでも九人駒がいる。
雲母の親友だった鈴花はちょっと心配だけど、まぁ親の会社が私の手の中にある以上、昔みたいにいうことを聞くでしょうね。
なんだかお姉ちゃんはカイにゾッコンになってるから、今回私がすることは教えない。
でも多分企んでたらお姉ちゃんにはすぐばれちゃうから、距離をとっておこう。
そして準備が整うまでの間は、桃井のほうで暇つぶしをすればいい。
それで準備が整ったら、雲母を追い詰めて、カイを無理やりにでも舞台に立たせてやる。
――私に屈辱を味わわせたカイだけは許さない。
絶対仕返しをしてやるんだから。
カイたちの様子を眺めながら、私はカイと勝負する為の策略を練るのだった――。
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ちなみに、スピンオフの『金髪ギャルの彼氏役』のほうで、性格が変わる前のお嬢様学園で育った乙女全開の雲母もみてほしいです(笑)
性格が変わるか変わらないかという狭間をさまよってます(笑)