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第132話「待ち受けるは問題の山」

「アリスさん、一つ聞いてもいいですか?」


 始業式が終わって教室に帰ってる時、後ろで言い合いをしている雲母とアリアに聞こえないように、俺はアリスさんに耳打ちをした。

 ちなみにその喧嘩は、雲母とアリアが俺に文句を言ってきてる間に、なんか勝手に始まった。

 だから俺は、その間にアリスさんのとこに逃げてきたというわけだ。


「何……?」

「あなたの学園から他に九人来たということは、もしかして――」


「あいかわらず……こういう時は察しがいいね……。別のクラスだけど……カイの予想どおり……あの子も来てるよ……」

 俺が最後まで言い切る前に、アリスさんは質問に答えてくれた。

 

 そう――雲母と仲違(なかたが)いみたいな感じになった、親友が転校してきていることを。


「いつ会わせるつもりなんですか? 雲母のことです。おそらくですが、あいつもこのことには気付いてますよ」

「わかってる……。でも……今はまだ……だめ……」

「何か問題でも? 雲母なら別に――」


「違う……。確かに金髪ギャルは……会っても問題ない……。だけど……大和撫子のほうは……」


 アリスさんはそれで、口を閉ざした。

 どうやら問題は雲母じゃなく、親友の鈴花さんにあるようだ。


 てっきり連れてくるまでにアリスさんがなんらかのケアをしているものだと思っていたが、彼女にすら何もできないくらい根が深いのだろうか?


「もしカイなら……自分のせいで大切な人が……全くの別人に変わったら……どう思う……?」


 俺がアリスさんを見つめていると、アリスさんが俺の目をまっすぐ見上げてそう聞いてきた。


 大切な人……俺にとって大切なのは、やっぱり家族だろう。

 極端ではあるが、例えば桜ちゃんで考えてみて、あの天使みたいに可愛い子が俺のせいでギャルになったと考えてみよう。


 …………俺、絶対立ち直れないな……。


 だがしかし、そういうことか。


「多分俺は、自分のことを許せないでしょうね。えぇ、それこそ、どれだけ自分を痛めつけたとしても。アリスさんが言いたいのは、鈴花さんがその状態だということですね?」

 

 俺はそれしかないと確信を持ちながらアリスさんに尋ねる。

 すると、アリスさんはコクッと頷き、ゆっくりと口を開いた。


「昔の金髪ギャルは……大和撫子と同じくらい……清楚な子だった……。だけど今の金髪ギャルは……見た目がギャルだし……中身もあの頃とは……変わってるから……」


「そんな雲母を目のあたりにすれば、鈴花さんは自分のせいだと思い、自分を責め続けるということですね?」


 俺の質問に対して、アリスさんはまたコクっと頷いて黙り込んだ。


「でも、だったらどうするんですか? このまま、ほうっておくわけにもいかないでしょ? 雲母はこの学園ではかなりの有名人ですから話題になりやすいですし、休み時間などで鉢合わせしないとも限りませんから」


 もし下手なタイミングで鉢合わせするくらいなら、俺は今会わせるべきだと思う。

 それともアリスさんには、何か解決策があるのだろうか?


「そのための……カイ……」


「……」

 今、アリスさんなんて言った?

 

 考え込んでいた俺は、アリスさんが言った言葉がまるで俺に全てを任せるように聞こえ、耳を疑った。


「すみません、うまく聞き取れなかったんですが、さっきなんて言いましたか?」

 俺は幻聴だと自分に言い聞かせながらも、アリスさんに聞きなおす。


「だから……この二人の仲は……カイがとりもって……」

 

 どうやら、俺の聞き間違いじゃなかったようだ。

 むしろ、聞き間違いのほうが遥かに良かった。


「いやいやいやいや! 無理に決まってるでしょ!? 俺、鈴花さんのこと全然知らないんですよ!?」

 雲母たちに聞こえないよう声を抑えながらも、必死にアリスさんの言葉を拒否する。


「でも……今の金髪ギャルのことを……一番知ってるのは……カイでしょ……?」

「た、確かにそうかもしれませんが、今問題なのって、鈴花さんのほうでしょ!?」


「あの子に……金髪ギャルがどれだけ頑張ってきたか……話してあげればいい……。今の金髪ギャルが……どう思っているのかも……。だからアリスは……大和撫子に……覚悟が決まったら……『神崎海斗』という人間に会いに行くように……言ってる……」


 や、やばい……。

 この人、最初から俺に丸投げする気だったんだ……。


 相変らず無茶ぶりがすぎるだろ……。

 

 それに、雲母が前向きに生きてることを伝えたからって、鈴花さんが肯定的に捉えるとは限らない。

 俺が失敗すれば、どうするつもりなんだ?


 俺は色々な感情を胸に秘めながらアリスさんの瞳を見る。

 するとアリスさんは、全てを見透かしているような澄んだ瞳で、俺の目を見つめ返してきた。


 その瞳から、アリスさんの思いが伝わってきた気がした。


 はぁ……。


「つまり、龍が俺にしてくれたように、俺も鈴花さんの悩みを聞いて、解決できるような人間になれということですか?」

「そういうこと……。君が本当に……金髪ギャルの支えになりたいのなら……それくらいできるように……ならないとね……」


 (よう)は、この機会に成長しろということだ。

 

 相変らず、厳しいな……。


「わかりました、やりますよ。まぁでも、とりあえずは、彼女が接触してくるまで待てばいいんですね?」

 

 俺はこの件を引き受けることにした。

 アリスさんの言うとおり、俺も成長しないといけないと思ったのもあるが、雲母の為というのが一番だった。

 

 あいつが仲直りしたいと望んでいるなら、そのとおりにしてやりたいと思ったんだ。


 ただ……春花の件も片付いてないんだよな……。


 まぁでも、すぐに鈴花さんが俺のとこに来るわけではないだろうし、春花のことが片付いてからでも――


「うん……。でも……多分すぐ来るよ……。大和撫子は……そういう子だから……」


 ――いかないようだ。

 どうやら、鈴花さん自身、今すぐにでも雲母と仲直りしたいと考えているみたいだ。


 ま、まぁ……それなら雲母のほうを優先してから、春花のほうを――


「それと多分……男の娘も助けを求めてくると……思う……」


 ――片づけるわけにもいかないようだ。


 アリスさんの口から男の娘という呼び方は初めて聞くが、このあだ名を聞いて俺が思い浮かべる人間は一人しかいない。

 

 白兎だ。


「あいつも何かあるんですか……?」

「うん……。今までは……上手く誤魔化せてたけど……学園ではもう……無理だろうからね……。バレた後からか……バレる前にかは……わからないけど……猫耳爆弾について……相談してくると思う……」


 な、なるほど……まさかのカミラちゃんも転校してきてるのか……。

 そういえば、確か白兎はカミラちゃんに女子と思われてるんだったな……。


 前に俺がカミラちゃんにうっかり白兎が男子だということを言いそうになった時、白兎から結構怒られたのを覚えている。


 ……まぁ誰だって、殴られたくないもんな……。

 特に白兎の場合は、また特殊だし。


 ……白兎の立場じゃなくて、本気でよかったと思う。


 カミラちゃんにライクじゃなくラブのほうで好かれてるのに、実は性別が逆でしたってバレた場合どんな悲劇が待ち構えてるのかと考えてしまい、俺は体がブルッと震えてしまった。


 どうやら、白兎のフォローも必要なようだ。


 あぁ……そういえば、まだ問題があったな……。

 俺は雲母や白兎以外にも、問題があったことを思い出す。


 アリアのことだ。


 だから、一つ気になっていたことをアリスさんに聞いてみよう。


「俺、アリスさんはアリアを甘やかしてると思ってたんですがね……。よく、こんな残酷なことをしましたね?」


「やっぱり……それにも気付いたんだ……?」

 

「まぁ、ちょっと考えればわかることですからね。雲母が支配するクラスに来れば、どうなるかなんて……。アリアの性格的に、大人しくしてるわけでもないでしょうし……。現に今も、雲母と言い争ってますしね」


 そう――今回アリアは、敵と意識する雲母の支配するクラスに来た。

 

 それはつまり、たった一人で敵軍に突っ込んだようなものだ。

 雲母の支配力はかなり大きい(あいつのたった一言で、クラスメイト全員から俺が恐れられるようになるくらい)。 


 アリアはそんな雲母に喧嘩を売るし、それだけじゃなく多分クラスメイトたちにも自分の言うことを聞かせようとするだろう。

 それがあいつの経営スタイルなのだから。


 しかし雲母が支配している以上、アリアの言うことを聞くやつが出てこないどころか、敵としていじめの対象にされる可能性だってある。


 学園全体で見ても、雲母の人気は咲姫に次ぐ二番目だし、今まで築き上げてきたものから、雲母の発言はこの学園では重い。


 アリアはともかく、アリスさんはそのことをわかっていたはずだ。

 だから俺は、それでもアリアを雲母と同じクラスにしたことが謎だった。


「ここでアリアも……成長する必要が……あるからね……。周りの意見を聞くという……当たり前のことや……権力に屈しない相手と……仲良くする方法を学ぶ必要が……ね」


「なるほど……」

 アリスさんの考えを聞き、俺は納得した。

 確かにアリアの経営の仕方は、相手の弱みを握ってそれを脅しみたいに使いながら、無理矢理条件を飲ませることが主となっている。

 

 だけど、それが通じない相手だって当然いる。

 同格の西条財閥や、紫之宮財閥だ。


 アリスさんはそういう相手と、上手く折り合いをつける方法を、ここで学んでほしいということだろう。

 だがそれは、他の奴らに合わせて雲母の下にくだるというやり方ではない。


 あくまで雲母と対等な立場にいる状態で、クラスメイトたちにクラスの一員として認められるようになってほしいというのが、アリスさんの考えだ。


 しかし……。

「でもこれって、アリスさんも他の奴らから雲母の敵に見られますよね? それはどうするつもりなんですか?」

「一応……ニコニコ毒舌もいるからね……。それに……カイが守ってくれる……でしょ……?」


 アリスさんは綺麗に澄んだ瞳で俺の目を見ると、ニコッと笑った。


「あ……もちろんです!」


 なんだか絶対的に信頼してもらえた気がして、俺は嬉しくなり、アリスさんと同じような笑顔で返した。


「――ま、また、いちゃいちゃしてる……!」

「あいつ本当、お姉ちゃんに手を出したらただじゃおかないんだから……!」


 なんだか雲母やアリアの声が後ろのほうから聞こえてきた気がするが、気のせいということにしておこう。


「――そういえば……アリアの相手……するの……?」

  

 後ろの声なんか気に留めた様子のないアリスさんが、俺にアリアの相手をするのか聞いてきた。

 あいつが俺のことを目の敵にしてるから、気になるのだろう。


「しませんよ」


 アリスさんの質問に対して、俺は即答する。

 誰が好んであいつの相手なんかするか。

 

 まぁもしそれで、前みたいに雲母に何かして俺に勝負を引き受けさせようとしてきたら、アリスさんには悪いが今度は容赦しないがな……。


 ただ、さすがにもうアリスさんもアリアにそんな真似はさせないだろう。


「そう……。一応言っておくなら……引き受けたほうが……いいよ……?」

 

 だがアリスさんは、俺にアリアの勝負を引き受けることを薦めてきた。

 それは、妹が再戦を望んでいるからだろうか?


「どうしてですか?」

「なんとなく……? アリアの性格を考えれば……カイが相手しないと……もっとも目を付けられる人間がいるからね……」


「それは雲母ですか?」

「違う……」


 俺が相手にしなければ、アリアが敵視している雲母に喧嘩を売るのかと思っていたが……どうやら、違うようだ。

 となると、誰だ?


 他に、アリアの興味を引きそうな人間なんているか?

 でも、雲母やアリアみたいなお金持ちって他にはいないしな……。


「――あ!」


 俺が考え込んでいると、なんだか声が聞こえてきた。


 前を見てみると――

「えへへ」

 と、可愛らしい笑顔で微笑む、咲姫がいた。

 

 俺と二人きりの時だけ見せている笑顔だ。

 でも、学園で他の生徒が居る時には見せたことがない。


 もしかして……もう仮面をつけるのはやめたのだろうか?


 俺には咲姫が何を考えているのかはわからないが、一つ間違いないことがある。


 それは――今ここにいる男子全員が、咲姫の笑顔に見惚れているということだ。


 それだけ、咲姫の笑顔は魅力的で凄く可愛い。

 ただ……生徒会は始業式の片付けとかで残っているはずなのに、どうしてここにいるんだ?

 

 俺はそのことを疑問に思うが、学園では話さないことに決めているし、今は咲姫の可愛い笑顔を直視できなくなっているから、照れて顔を背けた。

 すると、『むっ……』という咲姫の拗ねた声が聞こえてきた。


 無視されて拗ねるとか、相変わらず子供っぽいなと思った。

 だけど、そこも可愛いと思えてしまう。


 どうやら俺は、思った以上に重傷なようだ。

 この気持ちは、心に秘めておくと決めたはずなのに。


 だがしかし――急に、咲姫のいる場所から冷気がただよってくる。

 何事かと思って咲姫を見てみると、咲姫が光を失った目でアリスさんを見ていた。


 どうやら、今アリスさんの存在に気が付いたみたいだ。


 これは……俺が、またビンタをくらうパターンだろうか?

 クラスメイトたちの前で?


 それ、いろんな意味でまずくない?


 この状況が非常にまずいとは思った。

 だけど、俺に向けて真っ直ぐ歩いてくる咲姫からビンタが来ると思った俺は、何か言う前に思わず目を閉じて耐える格好をしてしまった。


 すると――何故か咲姫が俺の左腕に抱き着いてきて、拗ねたような顔でアリスさんを睨み始めた。

 ちなみに、アリスさんは俺の右腕側にいる。


「「「「「はぁああああああああああ!?」」」」」 


 直後、爆音と思えるくらい大きな声で、そこにいた生徒たちの声が廊下に響き渡る。


「――あ、昨日逃げた、桃井さんの彼氏さんだ!」


 爆音のはずなのに何故か、空気読めない天然女子の青山さんの声が響き渡った。

 というか、いくらなんでもこいつマイペースすぎるだろ。


 しかし俺はこの時、青山さんの声で咲姫の偽彼氏問題があったことを思い出す。


 ――そしてもう現実を直視できなくなった俺は、現実逃避する。

 だが、それでもこれからのことを頭の中で考えてしまった。


 雲母と鈴花さんの仲直り、白兎とカミラちゃんのフォロー、春花の告白への返事、アリアの相手、そして咲姫の彼氏役。


 ……俺、どれだけ問題を抱えてるんだ……。


 どんなクソゲーだよ、これ……。

 

 余程のクソゲーじゃない限り、こんな一度に問題が起きて主人公が解決できないような状況にはならない、と俺が頭の中で思った時、廊下では男子たちのこんな叫び声が響いた。


「「「「「リア充も大概にしろぉおおおおおおおおおお!」」」」」っと――。

いつも読んでいただき、ありがとうございます(*^_^*)


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