第131話「いちゃいちゃは後にして」
「平等院アリアよ。これからよろしく」
「平等院……アリス……。よろしく……」
教室に入ってきた金髪の転校生二人――アリアとアリスさんは、対照的な自己紹介をした。
アリアは相変わらず気が強そうな元気のいい自己紹介で、アリスさんは気だるげな自己紹介だった。
俺は――再び、机へと突っ伏した。
ありえない……。
ありえなさすぎる……。
なんでこの学園に転校してきてるんだって疑問はあるが、アリスさんはまだいい。
というか、これから同じ学園に通えるとなると、凄く嬉しい。
あの人は俺のことを理解してくれており、なんだか一緒にいて安心できる人だから。
しかし――アリアは、いらない。
本当にいらない。
俺はあいつに敵視されているし、雲母とあいつが同じクラスとか、もうそれだけで問題が起きる気しかしない。
「なんであんたたちがこの学園に来てるのよ!?」
「あら、雲母。あなたもこのクラスだったのね? ふん、別にあなたになんか用はないわよ」
「あんた、ちょっとはいい奴になったと思ったのに、やっぱり嫌な奴ね!」
「借りはこの前返したからね。あんまり役に立った気はしないけど、それでも約束は約束だから、あなたなんてもうどうでもいいの」
ほら、早速二人で火花を飛ばし合ってるし……。
まじで勘弁してくれよ……。
これ雲母に興味ないってことは、絶対目的俺じゃねぇか。
しつこい女は嫌われるぞ、アリア……。
「うぅ……やっぱり、こうなったよぉ……」
俺が机に突っ伏してると、なんだか別のところから俺と同じ嘆きのような声が聞こえてきた。
俺は顔を上げて周りの生徒たちを見てみる。
周りの生徒たちはアリアと雲母がいきなり言い争いを始めたことにより呆気にとられているだけで、嘆いている生徒はいない。
一体誰が嘆いたのだろうか?
その疑問を抱えながらアリスさんの横に立つ如月先生を見てみると、先程までハイテンションだったのに、泣きそうな顔をしていることに気が付いた。
どうやら、嘆いていたのは彼女のようだ。
しかし、あの人はアリアと雲母の仲の悪さを知っていたのだろうか?
まぁ一応大人だし、日本三大財閥のご令嬢同士、ライバル関係にあるのは想像できたのかもしれない。
俺がそう思って如月先生を見ていると、アリスさんが如月先生の服の袖をクイクイッと引っ張り、なんだか耳打ちし始めた。
それに対して如月先生もアリスさんに耳打ちで返す。
すると――アリスさんは俺のほうに向けてテクテクと歩き始めた。
そして、俺の左横の席にストンッと座る。
みんな――アリアと雲母も含めた全員が、アリスさんのマイペースな行動に目を奪われていた。
「これで……同じクラス……」
そんな中、アリスさんは俺に対して嬉しそうに微笑んできた。
「「「「「はぁあああああああああああああ!?」」」」」
アリスさんの言葉と表情に、クラス中の男子とアリアが発狂した。
女子は、なんだか口に手を当てている。
雲母は――アリスさんの発言には驚いていないが、俺に対してやっぱり何か言いたそうにしていた。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!? やっぱり、カイとできてるの!?」
教壇からアリアがアリスさんに駆け寄り、俺のことを指さしながらアリスさんに問いかけ始めた。
クラスメイト全員、アリスさんの次の言葉に耳を傾ける。
「カイは……仲良し……」
「いや、うん、それはさっきわかったわ。その続きは?」
「友達……? アリア……今はホームルーム……。これ以上騒ぐのは……だめ……」
なんでアリスさんは今、友達と疑問形で言ったのだろうか?
おかげで、クラスメイトたちの疑惑の目が俺に向けられる。
アリスさんに注意されてそれ以上聞くことができないのか、アリアもなんだか凄く文句を言いたそうな顔をして、俺のことを見てきた。
「ねぇ、神崎さんって本当に何者なの……?」
「いや、俺が聞きたいよ……」
「西条さんだけじゃなく、平等院姉妹とまで縁があるなんて……絶対ただものじゃないだろ?」
「てか、もうアリスさんのほうは攻略済みっぽいぞ?」
アリアが黙ったとしても、周りの生徒たちが黙るわけではない。
むしろ、アリアが注目を集めなくなった分、周りの生徒たちが会話を始めた。
明らかに、俺にとって嬉しくない会話を……。
ただ、『攻略済み』とか言ったやつ、絶対ギャルゲーしてるだろ?
君とは友達になれそうだ。
――現実を直視できなくなった俺は、そんなことを考えてしまう。
「と、とりあえず、アリスさんとアリアさんの席は、海斗ちゃんの両脇の席ね!」
口を挟もうとして挟めなかった如月先生が、パンッと両手を合わせて平等院姉妹の席を告げた。
と言っても、もう二人は既に席についているのだが……。
どうしよう、周りの目が凄く痛い……。
俺、本当に何も悪いことしていないのに……。
「カイ……大変だね……」
俺が机に突っ伏してると、アリスさんが声をかけてきた。
「いや、あなたにこんなこと言いたくないですが、これはほぼ、あなたたち平等院姉妹のせいですからね?」
アリスさんとは反対方向から俺のことを睨んでいるアリアは無視して、俺はアリスさんに苦言を申した。
「知ってる……。でも……おかげで……二人の衝突を止められた……」
「つまり、雲母とアリアを止める為に、俺を犠牲にしたと?」
「そうとも言う……」
「いや、そうとしか言いませんよね?」
相変わらずこの人は、俺にだけ容赦がなさすぎないか?
「というか、どうして転校してきたんですか? 普通、お嬢様学園から転校してくるなんてありえないでしょ?」
「わかってるくせに……。アリアが……カイに……雪辱を果たしたい……らしい……」
あぁ、やっぱりそうなんだな……。
ほぼ間違いないと予想していたこととはいえ、外れていてほしかった。
「ですが、二人ともこのクラスなんておかしくないですか? アリスさん、また何かしましたね?」
「知らない……。何もおかしくないと思う……」
「いやいや、俺たちの学年って十クラスあるんですよ? 普通二人の転校生がくれば、別々のクラスに配属されますよね? そうしないと、クラスの人数がアンバランスになってきますから」
まぁ正確には、春花がいるから三人なんだが……それでも、十という数字には到底及ばない。
「偶然……アリスの学園からアリスたちも含めて……十一人の二年生がここに転校したからね……。まぁ、ここにはイレギュラーがいたみたいだけど……」
イレギュラー……それは、春花のことだろう。
この人、その情報まで手に入れていたのか……。
――って、ちょっとまてよ!?
「十一人!? あなた、他に九人も連れてきたんですか!?」
「みんな……アリアと同じ学園がいいんだって……」
う、嘘だろ……?
確かに、日本三大財閥の一角である、平等院財閥のご令嬢とのコネがほしいのはわかる。
だけど、由緒正しき伝統あるお嬢様学園から転校することを、親が許すか?
お金持ちの世界は、一体どうなってるんだよ……。
「しかし、それでも姉妹が同じクラスになることなんてありませんよね?」
「きっと……他から転校してきたアリスたちが……心細くないようにしてくれたんだろうね……。いい先生ばかり……」
いや、他の転校生たちも同じ学園から来ている時点で、心細いはずがないだろ……。
「はぁ……頭痛くなってきますよ、本当……」
「カイは……アリスと同じクラス……嫌だった……?」
俺が指摘しまくったせいか、悲しそうな顔でアリスさんが俺の顔を覗きこんできた。
「いえ、あなたが嫌なんじゃないです。もう一人が問題なんです」
「そう……よかった……」
アリスさんは俺の言葉を聞くと、安心した笑みを浮かべた。
アリアが問題視されたことはいいのかと聞きたくなるが、まぁ聞くまでもないか。
俺がアリアのことを嫌ってるのは、アリスさんもわかっているだろうから。
「こほんっ――! 海斗ちゃん、まだホームルームは終わってないんだけど? イチャイチャは、休み時間にしてもらえるかな?」
「え……?」
俺はポンコツ教師の言葉で、アリスさんから視線を黒板のほうに移す。
すると、クラスメイトたち全員が俺たちのほうを見ていた。
周りに聞こえないように小さい声で話していたはずなのに、どうやらみんな、俺たちの会話に耳を澄ませていたようだ。
「カイはもう少し……周りを見たほうがいいね……」
俺がダラダラと冷や汗をかいていると、澄ました顔のアリスさんが俺に注意してきた。
この人は周りの状況に気付いていてなお、話しをしていたようだ。
「海斗」
「カイ」
アリスさんのほうを見ていると、雲母とアリアの俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
俺がおそるおそる二人のほうを見ると、雲母は素敵な笑顔で――アリアは、顔を怒りで歪めながら、ゆっくりと口を開く。
「「あとで、話があるから」」
こんな時だけ何故息が合うんだとツッコミたくなるくらいピッタリな声で、雲母とアリアの二人が、俺の両肩にそれぞれの片手を置いてくるのだった――。
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