第125話「懐かしい二人だけの時間」
「俺も……」
春花の告白に答えようとして、俺は思いとどまってしまった。
何故だかはわからない。
ただ、答えようとした瞬間に、胸に何かが引っかかる感じがしたのだ。
おかしい……俺は、春花のことが好きだったはずなのに……。
……だった……?
「ねぇ、ドラマの撮影かな?」
「みたいだね。でも、凄く綺麗な声……。それに、告白のシーンも迫真の演技で胸に響いちゃったなぁ……」
俺が自分の違和感について考えていると、なんだかそんな声が聞こえてきた。
「でもさ、カメラは何処にあるの?」
「そもそも、監督すらいないけど?」
「だけど、あの二人うちの生徒じゃないだろ? いたら絶対噂になってると思うし。それにどうみても若手俳優と若手女優か、アイドルじゃね?」
慌てて周りを見てみれば、俺たちを囲うようにして文科系の部員たちがいた。
どうやら春花の大きな声につられて、様子を見にきたみたいだ。
「か、海斗君……」
知らない生徒たちに囲まれた春花は、不安そうな顔で俺の顔を見てくる。
さすがに、ここは場所を変えたほうが良さそうだ。
「――あ! 桃井さんの彼氏さんだ!」
俺が春花と場所を移そうとすると、この場を修羅場と化す言葉が聞こえてきた。
その言葉により、男子生徒の俺を見る目つきが変わった。
「おい、あいつがそうなのか?」
「みたいだな……。俺たちのアイドルを独り占めするたぁ、いい度胸じゃねぇか」
『お前ら本当に文化系の部員か?』と聞きたくなるくらい、凄い目つきだ。
まるで今から人でも殺りそうだな……。
まぁ他人事みたいに言ってるが、その対象が俺なんだけど……。
俺はダラダラと冷や汗を流しながら、咲姫の彼氏だと言ってきた奴を見る。
「やっほ~! こんなとこで何してるの? てか、この学園の生徒だったっけ?」
相変わらずその生徒は、能天気な声で話しかけてきた。
どうやら場の雰囲気が読めないくらい天然らしい。
確か前に咲姫と一緒に歩いてる時に会った、青山さんだ。
俺は彼女のことを苦手としている。
この場にいれば、この空気読めない少女は更に爆弾を投下するだろう。
だから俺は気付かないふりをして、春花の手をとった。
「え?」
いきなり俺に手を握られた春花は、驚いた顔で俺の顔を見てくる。
「ごめん、ちょっと場所を変えよう」
俺はそれだけ言うと、春花の手を握って走り出した。
もちろん、彼女が転ばない程度にだ。
「あぁ~! 逃げた! 怪しい! というか、手を繋いでるから浮気だ!」
俺たちが走り出したことを見て、青山さんがなんだかそんなことを言ってきた。
それによって、周りの生徒たちの目付きが余計悪くなる
……うん、俺はどうやら、自分から爆弾を投下してしまったようだ。
だが、あの場に残るよりはマシだったと信じたい。
俺はそんなことを考えながら、春花と一緒に校内を走るのだった――。
2
「はぁ……はぁ……ここなら、大丈夫だろ……」
生徒たちが来ない場所を探して――俺たちは、屋上に来た。
本来は立ち入りが禁止されていて鍵もかかってるはずなのだが、今は何故か鍵が壊れていた為、俺たちはそのまま屋上へと出た。
「な、なんだか、凄い騒ぎだったね……」
俺と同じように息を切らしてる春花が、苦笑いをしながら俺の顔を見てきた。
たくさんの生徒たちに追われるような体験、滅多にすることがないだろう。
「ねぇ……それよりも、海斗君もしかして、彼女さんがいるの……?」
息を整えた春花は、不安そうな表情でいきなりそんなことを言ってきた。
さっき青山さんの言葉を聞いたからだろう。
「いいや、俺は誰とも付き合ってないよ」
本当は明日からうちの学園の生徒になる春花にも、咲姫が付いた嘘をとおすべきだったんだろう。
しかし、それでは話がややこしいことになってしまう。
……てかよく考えれば、明日から学園に来るということは、雲母や桜ちゃんとの噂される関係を、春花に知られることになるんだよな?
これって、俺の評価だだ下がりになるんじゃないか……?
「そっか、海斗君がそう言うのなら、そうなんだろうね」
俺の内心とは裏腹に、春花は素敵な笑顔を浮かべて俺の言葉を信じてくれた。
明日俺の噂を聞いて、彼女の顔がどうなるのか見るのが怖い……。
ただ、彼女が告白をしてくれたことを有耶無耶にしてはいけないだろう。
「ごめん……少しだけ、考える時間をくれないか?」
「あ……うん……。そうだよね、やっぱり突然すぎちゃったもんね」
俺が時間がほしいと言うと、春花は一瞬残念そうな顔をした。
だけど、すぐに笑顔で待つと言ってくれた。
「ありがとう、ごめんな」
「全然いいよ! 私のほうこそごめんね! ………………海斗君は……」
「ん?」
「あ……ううん、なんでもないよ!」
春花はなにか聞きたそうな雰囲気を出していたが、俺が尋ねると笑顔で首を横にふった。
誤魔化された為それ以上聞くわけにはいかず、俺は話を逸らすことにする。
「まだ、降りられそうにないな」
「そうだね……」
屋上から校庭を見てみると、制服を着た文化部だけでなく、Tシャツなどを着た運動部の奴らまで、誰かを探すようにキョロキョロしながら校庭を忙しなく歩き回っている。
あれは、どう考えても俺を探しているんだろうな。
咲姫の彼氏(仮)が現れた途端血眼になって探すとか、相変わらず咲姫の影響力が怖すぎる。
というか、男性教員まで探しまわってるじゃねぇか。
あいつら、注意して部活に戻せよ……。
………………明日から、学校どうしよう……?
咲姫の彼氏(仮)ということが顔バレした今、明日から学校に行くのが怖くなる。
「――ねぇ、あれから海斗君がどうしてたか、教えてくれないかな?」
俺が校庭を見下ろしていると、春花が転校してから俺がどう過ごしてたのかを聞いてきた。
ただ、その表情は笑い話をするような笑顔ではなく、何か覚悟しているような表情だった。
そういえば、地元に戻った時俺が居なくなったことも聞いてたんだったな。
それまでの経緯も当然知っているだろうし、それでも知りたいと言ったところか。
「あぁ、いいよ――」
春花が知りたいと言うのなら、仕方がない。
俺は、今まで起きたことのほとんどを話した。
さすがにKAIやアメリカのことは嘘だと思われるだろうし、話せる内容でもないので省いたが……。
俺の話を聞きながら、春花はコロコロと表情を変えていた。
ほとんどは暗い話だったので悲しい顔をしていたが、最近起きたことの笑い話をした時は、笑顔で楽しそうに聞いてくれた。
なんだか、中学時代に戻ったように錯覚する。
本当に、懐かしい感じだ。
……まぁ、咲姫たちと家族になったことを話した時は、凄く複雑そうな顔をしていたが……。
――それから俺たちは、日が暮れるまで二人だけの時間を過ごすのだった。
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