第124話「思いもよらない展開」
き、気まずい……。
春花と一緒に職員室を出た後、俺たちは無言で歩いていた。
ちなみに、やはり俺の予想どおり、俺たちが職員室を出ようとした時ポンコツ教師は教頭に呼び出されていた。
ポンコツ教師は慌てて俺の名を呼び留めていたが、悪いが今の俺にはあの人を気にする余裕は無かった。
俺はチラッと、春花のほうを見る。
「「あっ……」」
すると、春花も俺のほうを見ていたようで、目がバッチリと合ってしまった。
俺も春花も、慌てて下を向く。
こんな状況で、学園案内なんてできるはずがない。
とはいえ、このまま黙っているのも気まずい。
「髪……切ったんだな……」
俺の記憶では、春花は背中に届くくらい髪を長く伸ばしていた。
しかし、今の春花はミディアムヘアーだ。
髪の色は昔のまま綺麗なクリーム色な為、転校した後に苛められたってわけじゃなさそうだが……。
「あ、うん……。中学で転校する時に短くしたんだ……」
春花は苦笑いをしながら、左手でソッと左側の髪をかきあげて耳にかける。
その仕草は、色っぽく見えた。
俺が知っている春花と今の春花では少し違う。
身長は昔とあまり変わらないが、他の部分は成長していて、顔も前以上に可愛くなっていた。
可愛さで言えば、咲姫や雲母に劣らない。
ただ、彼女と再会して一番驚いたのは、俺が誕生日に送った髪留めを今も付けていることだった。
俺としては忘れたい思い出なのに、彼女にとっては気にする程でもなかったのだろうか?
いや、それよりも、何故彼女は俺がこの学園にいることを知っていて、学園案内を俺にしてほしいと言ってきたのだろうか……。
「身長……大分伸びたんだね。随分と差を付けられちゃった」
俺が春花の思惑を考えていると、彼女は笑顔で俺の顔を見上げてきた。
その笑顔は少し無理しているように見える。
無理矢理笑っている……そんな感じだ。
やはり春花も、昔のことを引きずっているみたいだ。
じゃあ、何故今もあの髪留めを付けているのだろうか……。
春花が言ってきた身長については、彼女が知っているのが中学二年の最初までだったからだろう。
あれから俺は、20cmくらい伸びている。
「そうだな……。あれからもう、三年くらいたってるからな。……元気だったのか?」
「うん、そこそこ……かな。海斗君は?」
「俺もそこそこだよ」
「そっか……」
春花がそう呟くと、また二人して黙り込んだ。
昔は、一緒に居るだけで幸せで居心地が良かったけど、今は居心地が悪い。
正直、さっさと帰りたかった。
俺はそんな気持ちを抱えながらも、なんとか学園内を案内する。
「ここが保健室だ。これで終わりだよ」
やっと終わったと思いながら、俺は春花に告げた。
「うん、ありがとう。ごめんね、夏休みなのに呼んじゃって」
「いいさ。じゃあ、明日から宜しく」
俺はそう言うと、春花に背を向けた。
一秒でも早く、春花の前から去りたかったからだ。
まだ、彼女と向き合うことができない。
変われたつもりでいたが、そうでもなかったのかもしれない。
「待って……」
俺が去ろうとすると、春花が呼び止めてきた。
さすがに無視するわけにはいかず、俺は足を止める。
「海斗君が私を避けたい気持ちはわかるの。だけど……私は、昔のように戻りたいの」
まるで無理矢理絞り出しているような声で、春花は言ってきた。
俺は春花のほうを振り返る。
「昔のようにって……それは、無理だろ」
その続きを俺は言わなかったが、春花にはきっと伝わっている。
俺は彼女に告白をして振られた。
それなのに昔のような関係に戻れるはずがない。
そのことを春花が理解していないはずがないのだが、彼女は一体どういうつもりなのだろうか。
「ごめんなさい……私、海斗君に次会えたら絶対に伝えようと思ってたことがあるの。あの時、確かに私は海斗君の告白を断った。でも、それは海斗君が嫌だったんじゃないの!」
「え……?」
春花の言葉に、俺は戸惑う。
彼女は一体何を言っているんだ……と。
「いやだって……春花、あの時泣いてたじゃん……」
「違うの! あの時泣いちゃったのは、折角好きな人に告白してもらえたのに、付き合えなかったからなの! だって、私はもうあの時には、一週間後に遠くに引っ越すことが決まってたんだから!」
どういうことだ……?
彼女が泣いていたり、転校したのは、俺の告白が嫌だったんじゃないのか……?
そういえば、アリスさんも常識的に考えて無理があるとかなんとか言っていたけど……それは、転校が一週間じゃあ無理だってことだったのか?
それに今、好きな人に告白してもらえたって……。
その言い方だと、春花は俺のことを……。
俺がうろたえながら春花を見ていると、彼女は泣きそうな目で俺を見ながら、言葉を続けた。
「私、小学生の時海斗君に助けてもらってから、ずっと海斗君が好きだったの! 中学に入って海斗君と同じクラスになれた時、どうにか仲良くなりたいと思った! だから、海斗君は数学が得意って友達から聞いて、それを口実に海斗君に近寄ったの! 今だって、海斗君に貰ったこの髪留めが一番の宝物だよ! 私、今も昔もずっと海斗君が大好きなの!」
興奮して一生懸命大きな声で言う春花に、俺は戸惑っていた。
昔のイメージでしかないが、普段大人しくて上品な彼女からは、想像できなかった姿だ。
だからこそ、彼女が本気で言ってくれていることがわかる。
「今更虫がよすぎるってことはわかってるよ……。でもね、海斗君の告白を断った年の夏、私は海斗君に会いたくて地元に会いに行ったの。そこで海斗君がいなくなったって聞いた時から、私はずっと海斗君のことを探してた! それくらい、本気なの! だから海斗君……私の彼氏になってください!」
俺は春花の告白に息を呑んだ。
再会したこと自体も驚きだが、色々と自分が知らなかった事実を聞かされて驚いていた。
ましてや、春花に告白されるなんて思ってもみなかった。
告白をされた俺は、なんとか声を絞り出すのだった――。
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