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第122話「裏切り者ぉおおおお!」

 咲姫が何かを言った時――大きな花火が打ちあがった。


 俺は反射的に花火のほうを見てしまう。 

 そしてすぐに咲姫のほうに向きなおった。


「悪い、なんだっけ?」

 俺がそう言うと――咲姫は、魂が抜けたような顔でシクシクと泣いていた。


「初めてだったのに……勇気を振り絞ったのに……」


「お、おい……?」


 やっと泣き止んだと思っていたのに、また泣きだした咲姫に俺は戸惑ってしまう。

 というか、今度はなんで泣きだしたのかわからない。


 その間も、花火は上がり続けていた。


「いいもんいいもん、どうせこうなるんだろうなって思ってたもん。ほんとう、神様なんて大っ嫌い!」


 そして咲姫は急にやさぐれ始めた。


 頬を膨らませて拗ねている咲姫に、俺はどう声をかけたものか悩んだ。

 どうして彼女がこんなふうになっているのかわからず、上手く声をかけられないのだ。


「あぁ、始まっちゃった! 二人だけでいなくなるなんてずるい!」

 俺が悩んでいると、雲母がプリプリと怒りながら近寄ってきた。

 その後ろには桜ちゃんたちもいる。


「あぁ……みんな来ちゃった……」

 咲姫はなんだかガックリと落ち込んでしまった。

 

 咲姫のその姿を見た俺は、折角誕生日プレゼントまでくれたのに、こんな落ち込んだ表情をさせたくないと思った。

 なんとか励ましたいと思った俺は、さっき手を繋いだ時に嬉しそうにしてくれたため、皆の前で咲姫の手を再び握る。


「あ、海君……!」

 俺が手を繋ぐと、咲姫はまた嬉しそうに俺の顔を上目遣いで見上げてきた。

 その表情にドクンッと胸が波打つ。


 それだけ、嬉しそうにはにかむ咲姫が可愛かった。


「あぁああああ! 咲姫ばかりずるい! 私も手を繋ぐ!」

 咲姫の手を握ったことを見た雲母が、空いている俺の左手を握ってきた。


「雲母、邪魔しないでよ!」

「いいじゃん! てか、抜け駆けなんてせこいよ、咲姫!」


 二人は俺を挟んだ状態で、車に乗る前のように言い合いを始めてしまった。

 この二人は俺がいない間に本当に仲良くなったみたいで、下の名前で呼び合うようにまでなっていた。


 ……その分、お互い遠慮が無くなってしまい、言い合いばかりする。


 というか、俺を挟んで言い合いするのはやめてほしい……。


「花火……綺麗だね、お兄ちゃん」

 咲姫たちの言い合いを受け流していると、桜ちゃんが甘えるように後ろから俺の腰に抱きついてきた。


 ……この子は、一体どうしたんだ?

 本当に甘えん坊になってしまった気がする。


 ……でも、可愛いから許す!

 というか、めっちゃ嬉しい!


「猫耳爆弾……カイの誕生日を祝って……一発くらわせていいよ……」

 

 俺が美少女三人に物理的に囲まれていると、なんだか不穏な言葉が聞こえてきた。

 後ろを振り返れば、拗ねた顔をしているアリスさんと、今までの鬱憤(うっぷん)を晴らそうと笑顔で薙刀型の木刀を構えるカミラちゃんがいた。


 白兎は、必死にその二人をなだめている。


 ……うん、これ、白兎がいなかったら一発くらってた奴だ。

 ありがとう、白兎。


 俺は心の中で白兎に感謝した。


 とりあえず、アリスさん。

 あなた本当に俺に容赦がなさ過ぎます……。


 俺は何かと容赦がないアリスさんに、心の中でだけ文句を言う。

 当然、口にしたりはしなかった。


 ――それからは、打ちあがる花火をみんなで眺め続けた。

 ちなみに、咲姫や雲母とは手を繋いだままだし、桜ちゃんには抱きつかれたままだ。


 ……おかしい、なんだかアメリカから帰ってきた途端、ハーレム状態だ。

 

 なぁ、龍。

 これをそのまま受け止めたとしたら、とんでもないことになる気がするんだけど?

 本当にこれって、そのままの意味で受け止めていいの……?


 今はもういない龍に、心の中で尋ねてみた。

 まぁ当然、答えが返ってくるわけではないんだが……。


「結局……海も、祭りも一緒に行けなかったなぁ……」

 花火を眺めていると、咲姫が残念そうにポツリと漏らした。


 もしかしたら咲姫は、夏休みに入る前からそれらを楽しみにしていたのかもしれない。

  

 昔の俺なら人が多く集まるそういうイベントには行きたくなかったが――今の俺は、咲姫と同じでそういうイベントに行けなかったことを残念に思っていた。

 これも、龍と会ったことで前向きになれたおかげかもしれない。


「今年は行けなかったけど、来年に行けばいいじゃないか」

 俺が咲姫に笑顔で言うと、咲姫と雲母の二人が驚いたように俺の顔を覗き込んで来た。

 こんな発言を俺がすると思わなかったのだろう。


 だけど、二人とも嬉しそうに笑った。


「じゃあ、来年は一緒に行こうね、海君!」

「もちろん、その時は私も一緒に行くけどね!」

 咲姫が俺と一緒に行こうと言うと、雲母がそれに便乗してきた。

 

 そのことに咲姫が怒り、雲母が言い返すという、また二人の言い合いが始まる。


 俺は二人の言い合いに呆れながらも、内心は喜んでいた。


 喧嘩するほど仲がいい――喧嘩の仕方にもよるが、この二人の喧嘩の仕方は、その言葉が指すとおりだ。

 本当、(はた)から見れば仲が良さそうに見える。


「まぁそれに、夏休みはまだ少しだけ残っているじゃないか。どっかに遊びに行くのもありだと思う」

 俺が言い合いを続ける二人にそう言うと、二人はなんだか期待したような眼差しで俺の顔を見上げてきた。


 しかし――

「カイ……そんなこと言ってるけど……宿題はいいの……?」

 ――アリスさんが何かここ最近忘れていたことを言ってきた。


「……」

 俺は思わず、アリスさんの言葉に固まってしまう。

 いつもなら夏休みの宿題など、そういったものは俺は休みの序盤で終わらせるタイプだ。 


 だがしかし――今年は、いろいろとあり過ぎて少ししか手を付けていない。

 当然、山のような宿題が残っている……。


「み、みんなは終わってるのか……?」

 仲間を探すように俺がみんなを見ると――みんなは苦笑いをしながら口を開いた。


「海君がいない間に、雲母と終わらせちゃった」

「咲姫に教えてもらいながらやったから、終わっちゃったね」


「あの……お兄ちゃんが走ってる間に、終わらせちゃったの……」

「桜ちゃんと同じで、僕もその時に終わらせたね」


「私は今回宿題がありませんので!」

「猫耳爆弾と……同じ……」


 どうやら、みんなはきちんと夏休みの宿題を終わらせているようだ。


 というか、カミラちゃんとアリスさんってなんで夏休みの宿題が無いの!?

 お嬢様学園だったら、普通一杯宿題が出るものだろ!


 まぁただ、ここでは一言こう言っておこう――

「裏切り者ぉおおおおおおおおおおおおお!」

 ――と。


 結局俺の残りの夏休みは、宿題の消化で終わるのだった――。


いつも『ボチオタ』を読んで頂き、ありがとうございます!


今回の話で、この章は終わりとなります!

いつも応援して頂けているおかげで、第4章を終えるところまで来られましたヾ(≧▽≦)ノ


まだまだこの作品は続く予定ですので、これからも楽しんで読んで頂けると嬉しいです(#^^#)


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― 新着の感想 ―
アリスちゃん案外と可愛いですね
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