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第119話「対象によって受け取り方が違う」

「桜ちゃん、着いたよ。ほら、起きて」

 日本の空港に着いた為、俺は優しく桜ちゃんを起こそうとする。


「やぁ……! もうちょっと寝るのぉ……!」

 だけど、まるで子供のように駄々をこねて、桜ちゃんは起きてくれなかった。


 こんな桜ちゃん初めて見る。

 いつもの聞き分けがいい桜ちゃんとは大違いだ。

 前に一緒に寝た時は、こんなことなかったんだけどな……。


「その子は……人一倍心が……傷つきやすい……。本気で危ない目に遭ったから……精神的に凄く疲れて……居るんだと思う……。そのまま……寝かせてあげて……」


 俺がどうしようか悩んでいると、アリスさんが桜ちゃんを寝かせておくように言ってきた。

 しかし、寝かせておくと言っても……。


「起こさないと、降りれませんよ?」

「カイが……抱っこするか……おんぶすれば……いい……」

「えぇ!?」

 いきなりのアリスさんの提案に、俺は戸惑う。


「さすがにそれはちょっと……」

 いくら妹とはいえ、女の子にそんなことをするのはためらってしまう。


「じゃあ白兎の子に……」

「いえ、俺がやります!」

 見た目は女の子だが、白兎はれっきとした男だ。

 信頼できるやつだけど、さすがに可愛い妹を抱っこさせるわけにはいかない。


 そう思った俺は、自分がやると即答してしまったんだが……どうしよう……?


 桜ちゃんって胸がかなり大きいから……抱っこしても、おんぶしても俺の体に当たってしまうし、意識してしまうんだよな……。


 そうだ……!


 いい抱き方を思いついた俺は、早速実行することにする。


 右手を桜ちゃんの太ももの裏に回し、左手で彼女の背中に回した。


 そして『よっ!』っと抱きあげる。

 (よう)は、お姫様抱っこだ。


 俺がそうしていると、アリスさんがジーっと俺を見ていた。


「どうしました?」

「別に……」

 アリスさんに尋ねてみると、彼女はプイっと顔逸らし、ジェット機から降りる為に歩きだした。

 まぁ、アリスさんがそう言うなら、なんでもないんだろ。


「――羨ましいのかい?」

 俺の少し先で、白兎が笑顔でアリスさんに話しかけた。

 残念ながら、こちらまでは声が届かない。


「猫耳爆弾……。白兎の子が……お姫様抱っこしてくれるって……」


「えぇ!?」

 なんの話しをしているのか気になった俺が見ていると、急に白兎が驚きの声を上げた。

 その横では、カミラちゃんが顔を赤くして体をモジモジとさせながら、白兎のことを期待しているような眼差しで見上げている。


 そしてそのことに気付いた白兎の笑顔が、途端に引きつっていく。


 本当……なんの話しをしているのやら……。


 その内容は、俺が白兎たちに追いつくと聞こえてきた。


「あのね、カミラちゃん。そういうのは好きな人にしてもらったほうが、嬉しいと思うんだ」

 どうやら白兎は、カミラちゃんを説得しようとしているみたいだ。


「私は凪紗お姉さまが好きなのです!」

 白兎の言葉を聞いたカミラちゃんは、(まぶ)しい笑顔で答えた。

 しかし反対に、ますます白兎の笑顔が引きつる。


 そんな二人のやりとりを、アリスさんは嬉しそうに見ていた。


 これは白兎が苦しめられて喜んでいるのか、カミラちゃんが白兎のことを『好き』と言ったのが嬉しかったのか……どっちだろう?


 アリスさんのことだから後者のような気がするけど……若干(じゃっかん)、前者の気持ちも入っていそうな気がする。

 だってこの人、意外と意地悪だから。


 俺をたまに困らせて遊ぼうとするくらいには、な……。


「神崎君も、なんとか言ってくれよ……」

 自分ではカミラちゃんを説得できないと思った白兎が、俺に助けを求めてきた。


 一体何をするかしないかで揉めているのかはわからないけど、好きって言葉が関わるってことは、何かしらのスキンシップだろう。

 となると、そもそも気になっていたことを聞いてみる。


「なぁカミラちゃん、白兎っておと――」

「わざとか!? 君はわざと言っているのか!?」

 

 カミラちゃんに『白兎って男だけど、どうして気に入ってるの?』って聞こうとすると、白兎が血相を変えて俺の口を抑えてきた。


「もがもが!」

 なんでこいつがこんなに焦ってるのかはわからないが、とりあえず息ができなくて苦しい。


「あぁ――! 男がお姉様に触るなです!」 

 白兎に口を抑えられていると、カミラちゃんがまるで全身の毛と尻尾を逆立たせるように怒ってきた。


 ……おかしい、彼女は髪型を猫耳にしているだけで、尻尾などつけていないのに……。


 あるはずがないものが見えた俺は、そのことに疑問を抱いてしまう。

 ただ、一つ言わせてほしい。


 触れてるの、俺じゃなくて白兎なんだけど……。

 しかも、こいつも男なんだが……。


 てか今更だけど、なんでこの子白兎のことお姉様って呼んでるの?

 もしかして、男だってことに気付いてない?

 でもカミラちゃんの表情を見るに、あれは……。


「はぁ……こういうことに鈍感な、君に頼んだ僕が間違いだったよ……。やっぱり、黙っててくれ……」

 なんだか白兎は、疲れてしまっていた。

 よくわからないが、かわいそうに……。


「カイは……悪意が無いから……(たち)が悪い……」

 俺が白兎を見ていると、アリスさんがそんなことを言ってきた。


「え、今白兎が疲れているのって、俺のせいなんです?」

「少なくとも……一因ではあるね……」

「そ、そうですか……」

 アリスさんの言葉に、俺は苦笑いする。

 

 とりあえず、あとで白兎に謝っておこう……。


 ――結局、白兎はカミラちゃんの説得に失敗し、俺が桜ちゃんにしているようにお姫様抱っこをしてあげていた。

 カミラちゃんは頬を真っ赤に染めて、凄く嬉しそうに白兎の胸に顔をくっつけていた。


「カイは……あの二人を、どう見る……?」

「どうって?」

「お似合いか……どうか……」


「なるほど……お似合いなんじゃないですか? だって、白兎はカミラちゃんを可愛がってますから、少なからずともカミラちゃんのことを可愛いと思っているでしょうし、カミラちゃんは……白兎に惚れているでしょ?」


「え……?」


 俺がカミラちゃんは白兎に惚れていると言うと、アリスさんが驚いたように俺の顔を見てきた。

 あれ……?


「俺、また見当違いのことを言いましたか?」

 アリスさんの様子から、俺はまたおかしなことを言ってしまったのかと思って尋ねると、彼女は首を横に振った。

 そして、笑顔を浮かべる。


「そっか……。カイは……自分に自信がないから……好意を受け止めれないだけで……他人が向けられる好意には……気付くんだね……」

 俺に笑顔を向けたと思ったアリスさんは、下を向いてなんだかブツブツと呟いた。

 何を言ってるのかわからないから、もう少し大きい声で喋ってほしいと思う。


 まぁそんなこと、口が裂けても言えないが……。


 しかし、どうやら俺が思ったとおり、カミラちゃんは白兎に惚れているようだ。

 だからこそ俺も、カミラちゃんは白兎が男だと知っていると思ったんだが……違うのだろうか?


 俺がそんなことを考えながらジェット機から降りると――

(かい)君!」

「海斗!」

 ――俺の名を呼ぶ声が聞こえた。


 名前を呼ばれたほうを見ると、そこには咲姫と雲母がいた。

 多分アリスさんの(はか)らいで、空港内に入れてもらえたんだろう。


 二人が仲良く一緒にいるところを見るに、アリスさんの思いどおりにことが進んだな。

 これで雲母の気持ちが、少しでも楽になってくれたらいいなと思った。


「海君、その……私、海君に謝らないといけない……こと……が……」

 俺の名前を呼んだあと咲姫は何かを言ってきていたが、振りむいた俺の手元を見て、なんだか言葉が途中からおかしくなっていた。


 いや、咲姫だけではなく、雲母も俺のことを指さしながら口をパクパクとしている。


 一体どうしたのかと思って彼女たちの視線と同じように自分の手元を見ると……寝ぼけているのか、俺の胸に甘えるように頬スリをする、桜ちゃんがいた。

  

 ……あ、死んだ……。


 結構軽かったことからあまり気にしていなかったが、俺は桜ちゃんを抱きかかえたままだった。

 そして、桜ちゃんを独り占めしたい咲姫は、俺が桜ちゃんに触れるのを嫌う。


 俺がおそるおそる咲姫を見ると、目から光を失った咲姫がなにやらブツブツと呟いていた。

「返信が無いと思ったら……返信が無いと思っていたら……まさか桜に手をだしていただなんて……」

 

 そのブツブツと呟いている言葉と共に、段々咲姫の周りの温度が下がっていく。


 雰囲気が変わっていく咲姫に怯えていると、咲姫の隣にいた雲母が笑顔で歩み寄ってきた。


「ねぇ、海斗」

 そして、弾んだ声で俺の名前を呼ぶ。


「な、なんだ……?」

「し、ね」

 雲母は弾んだ声のまま、笑顔でそんなことを言ってきた。

 そして、俺の腕から桜ちゃんを盗って行った。


 すると――

「ばかぁああああああああああああああ!」

 と、咲姫に思いっきりビンタされるのだった――。

いつも読んで頂きありがとうございます♪


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