第118話「変わる決意」
「なるほど……だから、二人だけになったわけね」
声からして、フードを被ってるのはどうやら女のようだ。
日本語が流暢だけど、日本人なのだろうか?
しかし……フードから見える髪の色は、金髪だ。
女はフードを取ると、イヤホンを耳から外してポケットにしまった。
多分、そのイヤホンで俺たちの会話を盗聴していたのだろう。
フードから顔を出した女は、凛とした表情をした外国人の女性だった。
顔をフードで隠していたのに、わざわざ取ったのはどういうことなのだろうか?
龍は女がイヤホンを外したことを見ると、女に話しかける。
「やっぱり、FBAにも仲間が居るんだな」
「なんでそう思うの?」
「今、アリスさんたちの会話を聞いていたんだろ? だとしたら一番可能性が高いのは、マリアさんの車の中に盗聴器が仕掛けられていることだ。そしてそんなことができるのは、彼女の知り合いかFBAの人くらいだろうね」
女は龍の話しを聞くと、笑いながらパチパチと手を叩いた。
「ご明察ね。いつから、気付いてたの?」
「さぁ、いつからだろうな?」
龍はニヤリと笑いながら、彼女に向かって首を傾げる。
その様子は、先程まで優しかった雰囲気は消え去っていた。
龍の相棒が言っていた『口調が荒い』っていうのは、こういう龍のことを言っていたのだろう。
なんだか、スイッチが入ったみたいな感じだ。
「ふぅん……答えないわけね。だけど、二人だけになったのは失敗じゃないかしら? それとも、腕っぷしに自信があるの?」
「どうかな? でも、あんたには勝てるかもしれないよ? だって、あんた前線に立つ人間じゃないだろ?」
挑発するような口調で話しながら、龍は一瞬だけ俺のほう見てきた。
何故だかわからないけど、その瞳は何かを俺に伝えようとしているみたいに感じた。
「悪いけど、私は前線に立つ人間よ?」
「いいや、ありえない。今回あんたたちの目的は、KAIの正体を突き止めることだったはずだ。だとしたら、情報収集を専門に扱う人間を人選するはず。なんせ相手は、日本の企業が数年間血眼になって探しても、尻尾すら掴めない相手なんだから」
女は龍の言葉を聞いて、黙り込んだ。
龍の言っていたことが図星だったのだろう。
「それで、力づくでどうにかしようって感じなのかしら?」
黙っていた女は龍に対して警戒心を高めたようだ。
しかし、そんな女に龍は笑いながら首を横に振った。
そしてまた一瞬だけ俺に目配せをする。
なんだ……?
龍は何を俺に伝えようとしている……?
「俺はあんたと交渉をしたいと思ってるんだ。だから、あんたに出て来てもらった」
「交渉……? 何に対して?」
「もちろん、彼に手を出さないでもらうようにさ。あんたもわざわざ顔を見せたということは、荒事じゃなくて彼の了承を得て連れて行きたいんだろ?」
これで三度目……。
龍はまた、意志のこもった瞳で俺の目を見てきた。
もしかして……。
俺はなんとなく、龍の伝えようとしたことがわかった気がした。
「KAIに手を出さない代わりに、何を提供してくれるの?」
「いや、提供というより、手段を変えてほしい。彼は依頼を引き受けるという形で仕事をしている。しかも、お金はそれ程とらない。だから彼を連れて行くんじゃなく、彼に仕事を依頼するという形にしてくれないか?」
龍のその言葉に、女は迷わずに首を横に振った。
どうやら、交渉は決裂のようだ。
「私たちは彼自身がほしい。彼に来てもらって、うちで専念してもらいたいの。だから、その交渉は飲めない。でも来てくれるのなら、丁重にもてなすし、色々と優遇するわ」
女は何処に行くのか、組織の部分をはぐらかしながら話している。
明言できないということか。
「もし、嫌だと言えば?」
龍は尚も、女との交渉を試みる。
すると、女は懐から拳銃を取り出した。
「無理矢理、来てもらうことになる。抵抗するなら、わかるよね?」
要は、実力行使ってことだな……。
拳銃を構える女を見て、龍は鼻で笑った。
「それは無理だろ? あんたと彼、国はどっちに価値を見出す? 彼に何かあれば、あんたもただじゃ済まないんじゃないか?」
女は龍の言葉を聞くと、眉をピクっと揺らした。
そして――
バンッ!
――龍の足元に、銃弾を放った。
「こっちが下手に出ていれば、あまり調子に乗るんじゃないわよ? 確かにKAIに怪我を負わせるわけにはいかないけど、あなたには別に何をしても構わないんだからね?」
龍は一度足元に視線を落とすと、凛とした顔で女のことを見据える。
足元に銃弾を撃ち込まれても尚、落ち着いてるだなんて……龍はどんな神経をしているんだ……?
横に居てただ見ているだけなのに、俺なんて心臓がバクバクいっている。
「あくまで、選ぶ権利は彼にあるはずだ。海斗は、どう思ってる?」
女の話に乗るかどうか俺に決めろと言ってきた龍は、俺に対してまた意志のこもった瞳を向けてきた。
それで、確信する。
彼が今、何を俺に求めているのかを。
俺は龍に向かって『理解した』という意味を込めて頷くと、考え込むフリをする。
そして――
「わかった、あんたのとこに行くよ」
と、女に答えた。
「いいのか、海斗?」
そんな俺の答えを聞いた龍が、聞き返してきた。
彼の思惑を読み間違えたかと思って龍のほうを見てみると、その瞳には先程までの意思がこもっていない。
どうやら、俺の答えは間違っていなかったみたいだ。
だから、彼の言葉に乗る。
「あぁ、どうやら穏便に済ませるには、これしかなさそうだしな。なぁ、あんた。俺が自分から行けば優遇してくれるってのは、本当だろうな?」
「もちろん。歓迎するわ、KAI」
女は俺に向かって手を差しだしてきた。
「ということだ。悪いな、色々頑張ってもらったのに」
俺は龍にそう伝えると、女に向かって歩き出した。
「海斗! 後悔するぞ!」
「うるさいわね……お友達の選択を尊重しなさいよ」
まだ俺を呼び止めようとする龍に対して、女が睨みつけた。
しかし、すぐに笑顔を浮かべて俺のことを見てくる。
「よろしく、KAI」
「あぁ、よろしく」
苦笑いを浮かべながら、俺は女の手をとった。
しかし――俺は手を握った直後、グイっと女の手を引いて、片足を本気で蹴り飛ばす。
そして女が態勢を崩したと同時に組み伏せる――――――はずだったのだが……。
「なっ!? イテテテテテ!」
実際組み伏せられたのは、俺のほうだった。
さっきの攻防で何があったのか、全く理解できない。
完全に、俺が組み伏せたはずだったのに。
「馬鹿なことをしたもんね……。私が前線に立つ人間じゃないと聞いて倒せるって思ったのかもしれないけど、生憎前線に立つ人間程鍛えてないってだけで、普通の訓練は受けてるのよ」
くっ……!
俺は右腕に関節技をきめられてくる痛みを我慢しながら、女のことを睨む。
すると女は、勝ち誇った表情で俺のことを見ていた。
KAIを捕えることができて、完全に気が緩んでいる。
「――そうだろうな。だけど……鍛え抜かれた人間たちが相手なら、どうだ?」
「は……?」
落ち着き払った龍の言葉を聞いて女が顔を上げると、いつの間にか女に向けて銃を構える、五人の黒服の男が居た。
「どういうこと……? いつの間に囲まれていたの……?」
女はわけがわからないと言った感じで混乱していた。
それもそうだろう。
さっきまで優勢だったはずなのに、今では劣勢どころか完全に詰んでいるのだから。
「あんたは元から囲まれていたんだよ。この人たちが待ち伏せしているとこに、俺が誘き出したんだからな」
「意味が分からない! なんで既に囲っているのに、このタイミングまで出てこなかったのよ!?」
「必要な情報をあんたから得る為だよ。まず、そもそも俺は盗聴器があることに確信を持っていたわけじゃない。電波を傍受してるのは予想できていたが、マリアさんの車に盗聴器を仕掛けられるかどうかはわからなかったからな。ただ、FBAにあんたの仲間が居るなら可能だと思い、カマをかけただけだよ。おかげで、FBAにもあんたらの息がかかる人間が居ることがわかった」
まるで種明かしをするかのように、龍は話し始めた。
「次に、あんたが何者かもわかった。あんたが居るのは、国直属の組織なんだろ? これだけ荒事をしていたにも関わらず、海斗や俺に対して下手で出てきたってことは、やはり穏便に済ませたかったからだ。そして俺が、国はあんたより海斗に価値を見出すと挑発した時、あんたは苛立った。これはもう、自分の組織が国に関わるものだと肯定しているようなものだ。後は、あんたの隙を作れればそれでよかった」
俺は龍の話の運び方に舌を巻いた。
彼は何も確信が無い状況で、相手の表情や仕草を見てハッタリをかましながら、必要な情報を得ていたのだ。
「なるほど……警戒するのは、平等院の家族だけじゃなかったのね……。降参よ……」
女は拳銃を手放すと、俺のことも解放して両手をあげた。
漫画とかでよく居る、絶望的な状況で人質をとって悪あがきをする犯人のような、馬鹿な真似はしないようだ。
「それで、どうするの? 私を捕まえた所で何も問題は解決しないわよ? 国がKAIのことを諦めるわけないし、私も何も情報は洩らさないからね」
「いいや、あんたを捕まえるつもりは無い。ただ、今回の件で成果がなかったことと、時間がたってからKAIは平等院システムズから仕事を引き受けていただけで、何も繋がりはなかったと報告してくれればいいんだ」
「……私に、国を裏切れと?」
「どう捉えるかは、あんた次第だ。だけど、今回あんたが捕まれば、その失態によって困るのはあんただけじゃないだろ?」
「……」
龍の言葉を聞いた女は、目を閉じて考え始めた。
この女以外にも困るってのは、きっと家族のことなんだろう。
本当にこの女が国直属の組織の人間なら、有り得るのかもしれない。
結局――女は悩んだ末、龍の要求を呑んだ。
国が違うとは言えど、この女にとっても家族は大切だったのだろう。
一旦女は男たちに連れられてどっかに行った。
念の為、誓約書にサインをさせるそうだ。
「――ふぅ……これで、終わりかな……」
龍は息を吐きながら、しゃがみこんでしまった。
「その……ありがとうな。そして、ごめん……。結局、俺は何もできなかった」
俺は龍にお礼を言うと同時に、今回何もできなかったことに頭を下げた。
「いいや、きちんと俺の意図を汲み取って、動いてくれたじゃないか。正直伝わるかどうかは賭けだったけど、よくわかったね?」
「そりゃあ、あんな目を何度も向けられたらな。最初の一回目は、彼女が武術に優れていないということを強調した。しかし二回目、あの女が『力づくでどうにかしようって言うの?』っと聞いてきた時、龍はそれを否定し、もう一度俺に目配せをした。それはそのままの意味で、力づくでどうにかしようとしているわけじゃないことを、俺に伝えようとしていたんだ。そして三回目は、相手も俺に対して交渉を望んでいるという時に目配せをしてきた。それは交渉を受け入れるのか、断るのかっていうどちらの意味でもとれるけど、普通は断る場面でわざわざ目配せをする意味は無い。つまり、受け入れろって意味だったんだ。最後の目配せは、その後押しだったんだろ? 交渉を呑んで相手に近づき、力づくで抑え込みにかかれ――だけど、抑え込めなくても問題ないっていうな。そのことがバレないように、俺を引き留める演技までしたんだろ?」
俺が長々と答え合わせをするように聞くと、龍は笑顔で頷いた。
「凄いよ、完璧だ。……なんでそこまで理解できるのに……女の子の好意には疎いかな……」
途中から何を言ったのか聞こえなかったけど、苦笑いをしていることから、よくないことを言ってそうだ。
だけど、今はそんなことどうでもいい。
「なぁ、あんなふうに挑発したりして、怖くなかったのか? 足元に銃弾まで打ち込まれてさ」
俺の問いかけに、龍は首を横に振った。
「何言ってるんだ、怖かったに決まってるじゃないか。もう足がガクガクだったよ」
「へ? だって、澄ました顔をしてたじゃないか」
「どうしても、退くわけにはいかなかったからね。交渉をするには弱味を見せるわけにいかないから、虚勢を張ってただけだよ」
「そうなのか……本当に、ありがとうな。でも、いつの間にあの男の人たちを準備してたんだ?」
龍に再度お礼を言った後、あの男たちが居ることを聞かされていなかった俺は、そのことについて聞いてみた。
「あぁ、あれは――」
「龍様、無茶をし過ぎです!」
「本当、とんでもないことしたね……」
龍が俺の質問に答えようとすると、二人の女性が現れた。
一人はメイド服を着ていて、もう一人は上品そうな服を着ている。
……メイド服!?
俺は思わず、メイド服の女性を二度見してしまう。
メイド服を着ている人なんて二次元の世界か、ヤンデレ従妹でしか見たことがないから、一度はちゃんとしたメイドさんを見てみたいと思っていたのだ。
「由紀さん、愛さん……すみません」
龍はその二人に対して、頭を下げた。
すると、二人の綺麗なお姉さんは困ったような笑顔を浮かべる。
「もう……龍様に何かあれば、お嬢様に顔向けができなくなります。ですので、あまり無茶はしないでください」
メイドさんは苦笑いしながら、やんわりと龍に注意をしていた。
「君が神崎海斗君ね? 君については梓ちゃんからよく聞いてるよ」
俺がメイドさんと龍のやり取りを見ていると、もう一人のお姉さんが話しかけてきた。
梓ちゃん……?
誰だっけ?
そんな人居たかな?
梓って人に心当たりがない俺が首を傾げていると、お姉さんは笑顔で自己紹介をし始めた。
「私は紫之宮愛っていうの。あっちは、由紀っていう私の妹直属のメイドよ。私たち二人はあなたの学校で先生をしている、如月梓ちゃんの高校時代の同級生なの」
あ……梓って、ポンコツ教師の名前だったな……。
下の名前で呼ぶことなんてないから、普通に忘れていた。
というか、この人があの紫之宮愛なのか……。
紫之宮愛――今、若手の中で最も注目されている人だ。
その評判は、あのアリアさえも凌ぐ。
「えと……如月先生にいつもお世話になっている神崎海斗です。その……紫之宮さんが、助けてくださったんですか?」
未だにメイドさんに捕まって優しく説教されている龍のことはほっといて、紫之宮さんに先程のことを尋ねた。
「うん。元々龍君のお見舞いに来てたんだけど、今日は会う人が居るから席を外しててほしいって言われたの。だから由紀と護衛たちを連れてアメリカ巡りしてたんだけど、数時間前に龍君から力を貸して欲しいってメッセージを貰っててね。そして来てみたら、今度はここで待っててほしいってメッセージがきたの。それで君たちのやり取りを見ながら、龍君の合図を待ってたんだけど……彼に向かって銃が発射された時とか、気が気じゃなかったわ。龍君を信じて待ってたけど、正直今すぐにでも飛び出しそうだったもん!」
プンプンっと怒る紫之宮さんに俺は苦笑いしながら、相槌を打った。
しかし……龍の奴、俺たちが気付かない間に、この人たちを呼んでてくれたんだな……。
本当、何処まで凄いんだよお前は……。
「――ふぅ、やっと解放された……」
そんな俺の前に、龍はクタビレタといった感じで歩いてきた。
「ん? どうかした?」
俺が彼のことをジーっと見ていると、龍は首を傾げた。
そんな龍に、俺は恥ずかしげも無く思ったことを聞いてしまう。
「俺も……龍みたいな凄い男になれるのかな……?」
龍は俺の質問に一瞬驚いた表情をした後、真顔で首を横に振った。
「それは、無理だね」
「そうか……」
俺は彼の言葉に、苦笑いを浮かべる。
そうだよな、俺が龍みたいな凄い男になれるわけがない。
何を期待していたんだ、俺は……。
しかし、龍は俺の左肩に右手をポンっとおいて、笑顔を向けてきた。
「俺が君のようにはなれないように、君も俺のようになることはできない。だって、歩んできた道も遺伝子も違うんだから。でも――君が自信を取り戻せたなら、俺よりも遥かに凄い男になるよ」
偽りなんて感じさせない、眩しい笑顔を龍は俺に向けてきた。
龍の言葉と笑顔に照れ臭くなった俺は、頷いて返すことしかできなかった。
――それからは、メイドさんが運転する車に乗って、空港まで送ってもらった。
「とりあえず、これでお別れかな?」
アリスさんたちの姿が見える所まで見送ってくれた龍が、残念そうに言ってきた。
「龍は、当分アメリカで入院生活なのか?」
「いや、九月まではアメリカに居るけど、十月からは紫之宮財閥が抱える大きい病院で、経過観察とかも診てくれるってことになってる。だから、また会うこともあるんじゃないかな?」
「じゃあ、日本に帰ってきたら連絡をくれると嬉しいな」
「そうだね……連絡先を交換しておこうか」
龍は笑顔でスマホを取り出した。
俺はそれに頷き、同じようにスマホを取り出して連絡先を交換する。
「よし、これで完了だね。……そうだ、一ついいかな?」
連絡先を交換すると、龍は真剣な表情で俺のことを見てきた。
「いいけど……どうかしたか?」
「うん、アリスさんのことについてなんだけど……」
「アリスさん?」
「そう……君もわかってるとは思うけど、あの子は無表情でマイペースに見えて、実際は誰よりも周りのことを考えている。それも、自分の気持ちを押し殺してまでね。あの子は確かに凄い。だけど、それ以前にあの子だって一人の女の子なんだ。それを忘れたら駄目だよ? どうやら君は離れていてもほっとけないくらい、あの子にとっては特別みたいだしね」
龍はそう言うと、スマホを振ってみせた。
彼がなんでスマホを振ったのかはよくわからないけど、アリスさんが一人の女の子っていうのは当たり前なのに、ここ最近忘れていた気がする。
だから、龍の言葉を素直に呑み込んだ。
「じゃあ、また会おう海斗」
「ああ、またな龍」
俺は龍に別れを告げると、アリスさんたちの元に向かうのだった――。
*
プライベートジェット機の中――俺は、アリスさんの横に座っていた。
桜ちゃんは俺の横で、俺の腕にもたれて眠っており、白兎は寝てしまっているカミラちゃんに膝枕をしてあげながら、頭を撫でていた。
今回の事件で、二人の仲は更に縮まったのかもしれない。
逆に桜ちゃんには、寂しい思いをさせてしまったことだろう。
結局アメリカに居る間はほとんど一緒に居られなかったからな……。
日本に帰ったら、また何処かに連れて行ってあげよう。
俺はそう思いながら、桜ちゃんの頭を撫でた。
すると、隣に居たアリスさんがジーっと俺のことを見てくる。
「ど、どうしました?」
「別に……。やっぱりカイは……シスコンだなぁって……」
若干棘がありそうな感じでアリスさんは言ってきた。
だけど――そのまま俺にもたれかかってくる。
こんな彼女は珍しい。
「今日は疲れた……このまま寝る……」
「そうですか」
彼女が寝ると言った為、俺はソッとしておくことにする。
だけど、寝ると言っておきながらアリスさんは全然目を閉じない。
「寝ないんですか?」
「寝るよ……」
「でも、寝るなら目を閉じないと寝られませんよ?」
「…………カイの癖に生意気……」
「えぇ……」
アリスさんの理不尽な文句に俺は不満を漏らす。
もうほっておこうかと思ったけど、なんだか見つめられていて気まずい。
だけどこれは、龍と別れてから思っていたことを言ういい機会かもしれない。
「アリスさん」
「ん……?」
「俺――前髪を切ろうと思うんです」
俺の言葉を聞いたアリスさんは、ニコッと可愛らしい笑顔を浮かべた。
「うん……いいと思う……」
アリスさんはそう言うと、今度こそ目を閉じた。
……その時に、『やっぱり……カイは自分から……大変な目に遭いに行くんだね……。でも……無事で良かった……』っと呟いたのは、俺の耳に届かないのだった――。
いつも『ボチオタ』を読んでくださってありがとうございます(^^♪
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