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第116話「息をついたのも束の間」

「つ、疲れた~」

 白兎たちを待ち伏せしていた男を気絶させると、俺は全身から力が抜けた。


 スイッチが入ったままのスタンガンをドローンで運ぶという危険な行為から始まり、三つのドローンに複雑な指示をとばし続けた挙句、あと一歩で白兎たちが危険な目に遭いそうだった。


 そのせいで酷く神経をすり減らしてしまったのだ。


「よしよし、いい子いい子」

 俺が車の座席に座ってグッタリしていると、アリスさんが俺の頭を撫でてきた。


「あ、あの、アリスさん……黒柳君が居るので……」

 黒柳君の手前恥ずかしくなった俺は、アリスさんを止めようとする。


「つまり、二人だけだとその行為を受け入れると?」

「違うよ!?」


 だけど、からかうように黒柳君が言ってきた為慌てて否定すると、彼は楽しそうに笑っていた。

 先程までの緊迫した雰囲気が解けたことに、気持ちが緩んでいるのだろう。


 そんな俺たちのやり取りをよそに、アリスさんは俺の頭を撫で続けている。

 この人って意外と――ではないけど、マイペースだよな……。


 ん……?


 俺がアリスさんのことを見ていると、黒柳君が難しそうな顔をしていることに気が付いた。

 そして彼は、そのままスマホを取り出す。 

 一体何をしてるんだろうか?


「それじゃあ、今回の件でどうして猫耳爆弾が狙われたかについてだけど――」

 アリスさんがそこまで言いかけると、黒柳君が右手で彼女を制した。


「いえ、その話はもういいでしょう。カミラちゃんが無事だったんですから。それよりも確かお連れさんは三人居るんですよね? この車は五人乗りだから、人数オーバーになるんで俺は降りますね」


「え!? 何言ってるんだ!? 君こそ病み上がりなんだから乗ってないと駄目だろ! 俺が降りるよ!」

「いや、迎えが来ることになったから大丈夫だよ。まぁでも、そうだね。どうせあと一人は降りないといけないんだから、神崎君も俺と一緒に来てくれるか? したい話もあるしね」


 黒柳君の言葉に俺はアリスさんのほうを見る。


 アリスさんは黒柳君のことをジーっと見たあと、俺に目配せをして、コクリと頷いた。

 つまり、黒柳君と一緒に行けということだ。


「カイ……」

 アリスさんは俺の名前を呼ぶと、服の袖をギュッと握ってきた。

 何かに耐えているような、そんな態度だ。

 

 そんなアリスさんに対して黒柳君は何も言わずに首を縦に振った。

 彼の態度を見たアリスさんはソッと俺の服の袖を離した。


 何故急にこんな雰囲気になったのか、俺はついていけていない。

 だけど黒柳君が車から降りた為、俺も慌てて車から降りる。


 そうして黒柳君と一緒に歩き出したのだが、彼の雰囲気は優しいものに戻っていた。

 

「神崎君、いや、海斗って呼ばせてもらってもいいかな?」

 笑顔でそんなことを言ってきた彼に対して、俺はコクコクと頷いた。

 男子からこの名で呼ばれるのは、久しぶりだ。

 

 だから、凄く嬉しい。


「ああ、俺も龍って呼んでいいのか?」

「もちろん」

 爽やか……黒柳君――じゃなくて、龍の笑顔、凄く爽やかだ!


 俺は眩しいとすら言える龍の笑顔に思わず目を細めた。

 しかし、そんな眩しい彼の笑顔は何故か曇ってしまった。


「君に、謝らなければいけないことがあるんだ」

「謝る? 何を?」


「俺は、君のことをアリスさんから聞く前に知っていたんだ」


「――っ!?」

 どういうことだ?

 何故アメリカに居た彼が俺のことを知っていたんだ……?


「クラスでは存在すらあまり認知されない生徒だけど、学園入学以来ほとんどのテストで満点をとり続けるくらい数学が得意な生徒。最近では、西条財閥ご令嬢の恋人と学園生には認知されていて、同級生達からは恐れられる存在となった。それだけじゃなく、数ヶ月前にお父さんが結婚したことから、義理の姉と妹ができた。姉は、学園で驚異的な記録を叩き出す程モテる、学園のマドンナだよね」


 よく……調べている……。


 少なくとも、数学のテストや咲姫と家族になったことは隠しているから、噂で聞いたとかでは無さそうだ。

 アリスさんが事前に教えていたということも考えられるけど……学園での数学の点数はアリスさんに教えていないし、そもそも龍が嘘をついてまでこのことを言ってくるとは思えない。


 一体、何が狙いなのだろうか……。

 

 俺が龍に怪訝な表情を向けると、彼はニコッと笑った。


「そんなに警戒しなくていいよ。俺がこんなに知っているのは悪意が有って調べたわけじゃないんだ。だけど、君にとっては嫌だろうから、予め(・・)謝らせてほしい。ごめん」

 黒柳君はガバッと頭を下げた。

 

 彼の態度になんと言ったらいいのかわからなかった俺は、とりあえず理由を聞いてみることにする。

「どうして、調べたんだ?」


「君、華恋ちゃんを知ってるだろ?」

「華恋ちゃん……?」


 えと……あ、そうだ!

 確か如月先生の妹の名前が、華恋だったはず!


「如月華恋さんのことか?」


「うん、そうだよ。実はね、俺は彼女と同じ桐沢学園の生徒で友達なんだよ。多分、君と華恋ちゃんが知り合った頃かな? 華恋ちゃんが君の名前をよく口にしていたみたいなんだ。そしたら彼女の自称姉貴分が『華恋に近寄る男がどんな男か調べる!』って息巻いちゃって、俺がアメリカに来る少し前から調べてたんだよ。まぁそれで、自称姉貴分の相棒である俺に色々と相談してきてたってわけさ」


「……どこからツッコめばいい?」

 龍の話を聞いた俺は、思わずそう返してしまった。


 だって、ツッコミどころが多すぎる。

 まず、華恋さんと龍が同じ学園だったってどんな確率だよ。


 後、自称姉貴分ってどういうこと?

 自称ってことは、実際の姉である如月先生とは違うよな。

 しかもその人が龍の相棒って……アリスさんが言っていた、紫之宮財閥ご令嬢の従妹ってことか?

 


 そして、どうして俺が調べられなきゃいけないの?

 めっちゃ詳しく調べてるし。


 どんな情報収集力だよ……。


「ハハ、まぁその気持ちは察するよ。本当、一体どうやったらそんなに情報を集めれるんだってくらい情報を仕入れてくるからね、あいつ……。俺からしたら有難いけど、正直敵には回したくない奴だ。でも、直接話してみて君のことはよくわかったし、これ以上調べないように言っておくよ」


「是非とも頼む」

 龍の言葉に俺は即答した。


 だって俺は知ってるから。


 こういう情報通の奴が集めた嘘の情報が、どうやったらそうなるんだって感じで咲姫や桜ちゃんの耳に入って修羅場となることを。


 あの姉妹、本当どんだけ地雷があるんだってくらい、地雷が多い。

 そして地雷を踏みぬけば、雪女やニコニコ笑顔の悪魔が降臨なさる。


 それだけは絶対に避けなければならないのだ。


「でも、どうしてそんな話を今?」

 このタイミングで話を切り出したことに何か意味があるのだろうと思いながら、俺は彼に尋ねた。

 すると、龍は真剣な表情で俺のほうを見てきた。


「君が――KAIなんだろ?」


「……そういうことか……ああ、そうだよ」

 俺は彼の言葉に頷いた。

 ここで嘘をついても意味が無いことはわかっていたからだ。


 そして、彼が前置きで俺のことを知っていたという話をした理由もわかった。 

 おそらく俺について調べた情報の中に、KAIへと繋がるものを得ていたということなんだろう。


 龍は確信のこもった瞳で俺のことを見ていたし、何より人工知能を持つドローン十台を操るという離れ技を見せてしまった。

 平等院財閥とKAIに繋がりがあることは、俺が前に作ったアンチウイルスソフトのことでわかっていたのだろう。

 だから、アリスさんと一緒に居た俺に目をつけたって感じか。


「ネットの噂には流されなかったんだな?」

 ネットでの有力説では、KAIは四十代でかなりのイケメンということになっている。

 それは、俺からかけ離れたものだ。


「まぁ、元々KAIが学生だってことには気付いていたしね」

「なんでだ?」


「こっちは(のち)のことを考えて何か繋がりを得られたらなと思って調べてもらったことなんだけど――KAIは、顔合わせの際、必ず土曜日を指定する。また、彼とメールで連絡がつく時間帯は、土日か平日の夕方以降。これだけで、かなり絞れるよね?」


 普通のフリーランスなら、平日の午前中でも連絡がつくし、わざわざ土曜日に縛る意味も無いと言いたいのか。

 だけど、それだけじゃ……。


「ただ、これだけじゃあ、完全にとは言えないね。だけど、平等院財閥が世界初となる機能を搭載するAIアンチウイルスソフトを発表した時、製作期間を知った瞬間わかったよ。数年前にニュースで話題になった中学生の少年が生きてて、彼がKAIなんだって。いくらKAIといえど、初めて触れるものをたったの一ヵ月で改修することなんてできるはずがないからね。できるとすれば、そのAIアンチウイルスソフトを一から作ったという当時中学生の少年だけさ」


 ……さすが、だな……。


「龍の言うとおりだ。俺が、あの時ニュースで自殺したという中学生だ」

 全て龍の言うとおりだった為、俺は素直に認めた。

 さすが、アリスさんが認めただけはある。

 本当に高校生かと疑いたくなるくらいだ。


「ごめん、君にとっては気分がいい話じゃないよな」

 そして、俺がこの話題をして欲しくないことまで察している。

 普通なら、KAIとして世界初となるものまで作ったことは誇りに思うことかもしれない。

 しかし俺は、KAIの正体が自分だったとバレることは、今後のリスクにつながる為嫌なのだ。


「俺がどうして今この話題を出したかと言うと、今回カミラちゃんが狙われたのは布石だったからだ。犯人の狙いは、カミラちゃんじゃない」

「どういうことだ……? 実際、狙われたのはカミラちゃんだろ?」

「それは君を――KAIを(おび)き出す為だよ」


「俺、を……?」

「そう、今やKAIの名は世界中に知れ渡っている。もう君を欲しているのは日本の企業(・・)だけじゃないんだよ。しかし、KAIの正体は未だに掴めない。ただ、KAIに繋がるヒントがあった」


「平等院システムズか……」

 俺の言葉に、龍はコクリと頷いた。

 

 俺が作ったAIアンチウイルスソフトを発表したのは、平等院システムズだ。

 となれば、KAIと繋がりがあることはわかってしまう。


 それまでのKAIについて知らない外国は、KAIが平等院システムズの関係者だと思っただろう。

 当然、平等院システムズを徹底的に調べるはずだ。


 いや、平等院システムズを徹底的に調べたからこそ、KAIのことを知ったのか。

 しかし、そこからKAIと平等院システムズの繋がりについて調べたはずだろう。


「おそらく、一番最初に目を付けられたのはアリアさんだ。そして次にアリスさん。そうやって関係者を探っていくものの、KAIに辿り着くことはできなかった。しかし、繋がりを疑わない外国は何をするか?」

「彼女たちを追い込む?」


「そうだ。そうやって彼女たちを追い込めば、あんなアンチウイルスソフトを作れる人間だ……絶対に彼女達は、KAIに頼ると思っただろう。そしてKAIらしき実力を持つ人物が出てくるように仕向けた」

「それが、カミラちゃんが狙われたことに繋がるのか?」

 

 俺がそう尋ねると、龍はコクリと頷いた。


「元々ドイツ人で、家になんらかの問題を抱える彼女はもってこいだったんだろうね。それに今回は絶好のチャンスだったはずだ。なんせ舞台はアメリカ――平等院財閥の力はほとんど届かず、厳しい日本とは違ってやりたい放題だからね。もしアリスさんの近くにKAIが居なくても問題ない。彼女がKAIを呼ぶまで焦らずに追い詰めればいいんだから」


 この男……一体どこまで読んでいるんだ?

 どうしてそこまでわかる?

 俺には想定もできなかったことなのに。


 彼の異常なまでの読みに、俺は驚いていた。

 そんな俺をよそに、彼は話しを進める。


「もし最後の男がもっとできる男だったなら話は別だった。しかし結果は四人ともなんともない雑魚。おそらくアリスさんの読みでは口封じをしても問題ない男たちを使ってきたと思っていたと思う。だけどそれはおかしいんだ。アリスさんが相手を知っているということは、おそらく相手もアリスさんについて知っている。いや、接触してきたと考えていいと思う」


「確かに……」

 アリスさんの様子を見るに、龍の言うとおり相手と面識があるのは間違いない。

 そしてアリスさんから接触することはないだろうから、向こうから接触してきたのだろう。


「アリスさんに接触してきたってことは、少なくとも相手は彼女のことを認めている。だから最初は取引でカミラちゃんを引き取ろうとする形をとり、それを彼女が断ったから実力行使できた。本当にカミラちゃんを狙っていたのなら、こうなるのが自然だろ?」


「そうだな……」

「じゃあ、何故、実力も無い男たちだけで攫いにきた? アリスさんのことを認めているのなら、普通一人くらいはまともな奴をいれるはずだ。いくら口封じの為に消すとは言っても、そもそも誘拐自体が成立しなかったら意味が無いからね。わざわざ平等院社長にまで手を回せて護衛達を引っ込めさせれるのに、実行犯で手抜きをするのは考えられない」


「……つまり、相手の目的はカミラちゃんを攫うことじゃなく、騒ぎを起こすことだったと?」


「そう、騒ぎさえ起こせれば、誰でも良かったんだよ。ただ、アリスさんにそのことを気付かれないようにドイツ人だけで固めてきた。多分だけど、今回捕まえた奴らに何を聞いても何も知らないで終わるんじゃないかな? ねぇ、そうでしょ、黒幕さん? ずっと僕たちの会話を盗聴や傍受してたはずだから、日本語もわかるんだよね?」 

 

 龍はそう言うと、後ろを振り返った。

 俺もつられて後ろを振り返る。


 すると――フードを被った一人の人間が、俺たちの前に現れたのだった。

いつもこの作品を読んで頂きありがとうございます(*´▽`*)


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