第115話「一つの視線」
「お姉さま、怖いです……」
物陰に隠れてる僕の腕の中で、カミラちゃんが不安げな眼差しを僕に向けてくる。
その体はガクガクと震えていて、本当に怯えていることがわかる。
やっと神崎君たちと合流できると思った矢先、カミラちゃんを狙ってる男たちの一人が待ち伏せしていたからだ。
「大丈夫だよ」
僕は優しく彼女の体を抱きしめて、頭を撫でた。
今の僕には、これくらいしかできないから。
こういう時、漫画やアニメの主人公ならカッコよくヒロインを助けるんだろうけど、生憎僕は株しか取り柄の無い普通の高校生だ。
……いや、女装してるから普通とはちょっと違うかもしれないけど、とにかくこんなピンチで役立てることはない。
だから僕たちは隠れることしかできなかった。
僕たちを待ち伏せしている男が実は、ただ友達を待ってるだけってオチだったら良かったんだけど、その望みはすぐに消え去っていた。
僕の背中に隠れている桜ちゃんが、あの男が犯人の仲間だと断言したからだ。
どうして彼女にそんなことがわかるのかはわからないけど、嘘をつくような子じゃないから、間違いないんだと思う。
それに、アリスさんもその判断は桜ちゃんに任せるように言ってたし。
しかし、悲観することはない。
ここまで僕たちを案内してくれたアリスさんと神崎君が、手を打ってくれるとのことだから。
人任せってカッコ悪いと思うけど、僕がカッコつけて下手を打つより、彼らを信じて任せるほうがいい。
僕の役目は、二人の女の子を落ち着かせて混乱させないようにすること。
アリスさんに言われたのはただそれだけだけど、もしあの男がこっちに来るようなら、僕の身に何かあってもこの子たちを逃がす覚悟だけはできてる。
いくら見た目が女の子っぽいって言っても、それくらいはしないとね。
果たしてこんな覚悟を決めることが人生で何度あるのかと思いながらも、僕はもう一度男のほうを見る。
すると、男の向こうから二台のドローンが飛んできているのが見えた。
少し前まで僕たちの近くを飛んでいたドローンだ。
それに合わせて、僕たちに付いたままとなっていたドローン二台が男のほうに飛んで行く。
一体何が始まるのだろうか。
『はっ! なんだこれは!?』
三台のドローンに囲まれた男は、咄嗟に懐から拳銃を取り出して叫びながら構えた。
ドイツ語は僕にはわからないけど、カミラちゃんが小さい声で通訳してくれた。
三台のドローンは男をあおるように上下左右へと飛び始める。
男は拳銃を構えては居ても、縦横無尽に移動するドローンに狙いを定められずにいた。
これは、神崎君が操縦しているのだろうか?
一度にこんな操縦ができるなんて、凄いと思った。
「す、凄いです凄いです!」
「あっ――!」
三台のドローンが男を翻弄するさまを見たカミラちゃんが、大声を上げた。
そのせいで、男に僕たちの居場所が気付かれてしまった。
男はニヤリと笑うと、目の前をウロチョロするだけで何もしてこないドローンをほっといて、僕たちに向かって走ってきた。
「まずい……!」
今の男は拳銃を持っている。
絶対にカミラちゃんを渡してはならない。
僕は咄嗟にカミラちゃんと桜ちゃんを体で匿うと、目をギュッと閉じた。
すると――
『ギャアアアアアアアアアアアアアア!』
――拳銃を持って僕たちに向かって走ってきてた男の叫び声が聞こえてきた。
目をゆっくりと開けてみると、そこには意識を失って倒れている男がいた。
目を閉じている間に何があったのか――それは、すぐにわかった。
男を翻弄していた三台に加わっていなかったドローンが、スイッチをONのまま固定したスタンガンを持っていたのだ。
スタンガンをONのまま持ってくるなんて……無茶をするもんだな……。
でも、おかげで助かったよ。
ありがとう、神崎君。
後は一本道を抜けるだけで、彼らに合流できる。
とんでもないことに巻き込まれたけど、やっと息をつくことができそうだ。
その事に、僕はホッと息をつくのだった。
――この時、僕たちが襲われた時から一部始終を見続けている一つの視線になど気づかずに。
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