第113話「ありえない現実」
感想でわかりづらいという意見をいただいたので、ドボーンをドローンに戻しました(@^^)/
「うん、そっちに行けばいい」
白兎と連絡をとっているアリスさんは、落ち着いた様子で道を案内する。
彼女はドローンの位置情報が反映される地図アプリを見ながら、五つのドローンから送られる映像を一緒に見ている。
だから、白兎たちに行く道を指示しているのだが――実際、これは口で言う程簡単ではない。
なんせ四つのドローンは見ている方向が違うし、一つは全く別の所を飛んでいる。
どのドローンがどこを飛んでいるのか、頭の中でごちゃ混ぜにならないようにしないといけないし、五つの映像と地図を一辺に見ながら、俺と白兎に指示を出している。
これを問題なくこなせるのは、アリスさんだからだろう。
……いや、アリスさんだけではない。
黒柳君も、別々の場所を飛ぶ五つのドローンの映像と地図を一辺に見ながら、俺とマリアさんに指示を飛ばしている。
俺は黒柳君の落ち着いた声色から察しているだけだが、その様子は余裕そうだ。
これだけで、黒柳君が頭の良い落ち着いた男だというのがわかる。
本当に彼は、脳の手術をしたばかりなのだろうか?
全く病み上がりというのを感じさせない態度だ。
とはいえ、これだけの作業が負担になっていないはずがない。
病み上がりの彼に、あまり長時間負担をかけるわけにはいかないな……。
「――やはりアリスさんの言うとおり、マスクやサングラスをしている怪しい男は居ませんね」
映像を見続けていた黒柳君が、アリスさんに話しかける。
「まぁ、当然だよね。マスクやサングラスをしていれば怪しくて目立つし、ドイツ人の猫耳爆弾ならともかく、日本人の白兎の子やちびっこ天使には、見分けがつかないと判断するだろうから、普通に素顔を晒したほうが近づきやすいしね」
「ですが……顔がバレるリスクを冒してまで、捕まえる事を優先するものでしょうか? 余程余裕を無くしていない限り、リスクは最小限で居たいはず……」
「そのとおり。実際、相手には余裕が無いの。おそらく、ここで猫耳爆弾を捕まえれなければ――ううん、何でもない。今はとにかく、犯人を見つける事にだけ専念して。クロなら、アメリカ人とドイツ人の見分けがつくでしょ?」
アリスさんは不穏な言葉を途中で区切り、話を変えた。
こんなふうに切られてしまえば、逆に気になってしまう。
しかし話を変えたという事は、アリスさんに聞いても答えないだろう。
黒柳君もそれを察しているから、聞き直すような愚かな事はしない。
だから、アリスさんの質問に答える事にしたようだ。
「う~ん、あまり自信は無いのですが……」
「大丈夫、君ならできる」
「あ、あははは……はい、やってみせますよ」
俺には声しかわからないが、アリスさんが黒柳君に、絶対的な信頼を置いているというのが伝わってきた。
そんな信頼を向けられた黒柳君は、やり遂げる覚悟を決めたようだ。
正直、アリスさんにこんな信頼を向けられている黒柳君を羨ましいと思った。
俺も、彼みたいな人間になりたいと。
「神崎君、少し高度を上げたほうが良さそうだ。この高さだと、人の目につきやすい」
「あ、あぁ、わかった。全部でいいのか?」
「うん、頼むよ」
俺は黒柳君の指示に従い、彼の担当する五台のドローンに、飛ぶ高度を上げるよう指示を送った。
映像の見え方から、どれくらいの高さを飛んでいるのかをきちんと把握しているとは……やはり、彼は凄い。
「ドイツ人だけで判断できればいいけど、当然アメリカには普通のドイツ人が居るからな……さて、どうしようか……」
後ろから黒柳君が呟く言葉が聞こえてくる。
どうやら彼は、犯人を見分けるやり方を考えているようだ。
怪しい奴を避けるだけでいいアリスさんとは違い、無関係の人間を捕まえるわけにはいかない黒柳君の判断は、シビアなものとなる。
アリスさんは黒柳君に対して何も言わない。
彼の判断に任せると言ったところか。
白兎に指示するアリスさんの声を聞いている限り、白兎たちのほうは順調みたいだ。
とはいえ、彼らが俺たちに合流するにはまだまだ時間がかかる。
俺たちが白兎たちの近くに来ているとは言っても、それはあくまで車で近寄れる範囲だ。
しかし実際は、人目を避けて移動しているうちに、白兎たちは住宅街が入り混じる場所に入り込んでしまっていた。
彼らが俺たちに合流するには、道路に出てくる必要があるため、どうしても時間がかかってしまう。
「ん……? 神崎君、ちょっと七番を停めてくれ」
「わかった」
俺は黒柳君の指示に従い、七番の番号をふっているドローンを停止させる。
「やっぱり……」
「居たのか?」
「確信は無いけど、怪しいドイツ人が一人居た。人を探すようにキョロキョロしているし、視線が少し低い。まるで低身長の子を探しているみたいにね。それに人数が少ないからあまり確認はできていないけど、黒髪の人や銀髪の人を見つけた時、一瞬視線が停まっている。何より誰かと連絡を取り合っているみたいで、スマホを耳に当てたまま焦った表情で通話をしている」
す、凄い……。
たった少しの間――しかも、ドローンから送られる映像だけでこれだけの情報を得るなんて……。
映像の倍率をアップダウンする操作は黒柳君のほうでできるが、ここまで把握できるのは彼の洞察力をもってしてだろう。
俺は黒柳君の洞察力に、圧倒されていた。
「うん、じゃあ、ママを向かわせて」
「はい」
アリスさんの指示に従い、黒柳君はマリアさんに道の指示をする。
――とはいえ、マリアさんはすぐ近くに居たらしく、その男が居る場所に行くのに、五分もかからなかった。
「じゃあ、マリアさん――あ、ちょっ、何を! ――って、えぇ!?」
多分マリアさんに様子見をしてもらおうとしていたはずの黒柳君が、一人なにやら焦って驚いていた。
「一体どうしたんだ!?」
黒柳君の反応に尋常じゃないものを感じた俺は、黒柳君に尋ねる。
「いやぁ……俺の言葉を聞く前に、マリアさんがいきなりFBAを名乗りだしたんだよ……。そしたら、男のほうがいきなり銃をマリアさんに向けてきたんだ。多分やましい事があったから、FBAと名乗ったマリアさんに銃を向けたんだと思う。だから犯人で間違いないとは思うんだけど……その犯人を、マリアさんが一瞬で気絶させちゃったんだよ……。それも、目に見えぬ速さで……」
「……」
俺は黒柳君の言葉に、思わず黙り込んでしまう。
ツッコミどころが満載過ぎて、何からツッコめばいいのかわからないのだ。
まず、マリアさんがFBAって本当なの!?
FBAって日本でも有名な、アメリカの捜査組織じゃん!
だから人工知能を搭載したドローンや、凄く高性能なパソコンをもってこれたのか!?
でも、急にそれを名乗りだすってどういうこと!?
普通そういうのって隠すものだよね!?
しかも銃を向けてきた相手を、黒柳君の目にも見えない速さで気絶させるって何!?
俺、いつの間に漫画の世界に紛れ込んだの!?
「カイ、手が止まってる。一瞬も気を抜いたら駄目って言ったでしょ?」
「あ、すみません……」
あまりのできごとに、俺はいつの間にか考え込んで手が止まっていたようだ。
そのせいでアリスさんに怒られてしまった。
「クロも、一人捕まえたのなら、次を探す」
「あ、あぁ……はい、すみません」
どうやら俺と同じように、黒柳君も固まっていたようだ。
「まず、ママがFBAって言ったのは、それで相手が犯人かどうかを確実に見極める為。人を攫うような真似をしたんだから、急にFBAを名乗る相手が目の前に現れれば、後ろめたさから体が咄嗟に反応してしまう。それでママは見極めようとした」
「ですが、犯人じゃなければ? ただ、一般人にバラしただけになりますよね?」
アリスさんの言葉に疑問を持った黒柳君は、その事を聞き返した。
俺は二人の会話に耳を傾けながら、十台のドローンに指示を送る。
「もし相手が一般人だったら、いきなりFBAって名乗られるとキョトンっとするか、ママに対して訝し気な視線を向ける。そしたら、ほっとけばいい。今は一刻を争うのに、様子見をしている時間は無いの。だから、一瞬で犯人かどうかを見分けることができる手段を、ママはとった」
「なるほど……しかし、相手が犯人だったら抵抗されるリスクがあるのに、FBAってバラすのは良くないのでは? いや、まぁ、結果的には抵抗する間も与えずに気絶させてましたが……」
「そうだね。でも、さっきママがしたように、反撃させる余裕も与えなければ問題ない」
「一体、マリアさんは何ものなんですか……?」
「FBAってのはわかったよね? 腕前についてなら、ニコニコ毒舌の師匠」
アリスさんは平然とそんな事を言うが、この時俺と黒柳君の心は、こんなふうに重なっていたと思う。
『全く意味わからん!』っと――。
「急に連絡が途切れたということで、相手は警戒心を増したはず。だけど、これはチャンス。警戒が増したってことは、その分不審な行動を取りやすくなってるはずだから。ということで、二人とも早く頭を切り換える。カイ、聞き耳立ててるのわかってるからね?」
「「はい……」」
なんだか釈然としない気持ちを抱えながら、俺と黒柳君は返事をした。
……昔から、アニメや漫画の世界に入ってみたいと思っていたが、こんなの俺が入りたかった世界じゃない……。
俺はファンタジー世界に入ってみたいのであって、こんなの求めてないんだよ……。
なんだかもう、本当に昔に戻りたい……。
まるで漫画のような現実を目にしてしまった俺は、元の平穏な生活に戻りたいと思うのだった――。
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