第110話「また、裏切ったんだ」
「相手はドイツ人で間違い無い?」
白兎の子から電話を貰ったアリスは、状況を把握してすぐに猫耳爆弾を襲った相手について聞いた。
「うん、顔はマスクとサングラスで隠れていてわからなかったけど、男が喋った言葉がドイツ語だったから。カミラちゃんにも確認をとったけど、ドイツ語で間違いないそうだよ」
「アメリカで英語ではなくドイツ語を話す理由は、ドイツに住む人間としか考えられないね。そう……このタイミングで来たんだ……」
「え、心当たりがあるのかい?」
アリスが呟いた言葉を聞き取った白兎の子は、驚いたように聞き返してきた。
白兎の子の言うとおり、アリスにはそのドイツ人たちに心当たりがある。
とはいっても、知り合いっていう訳じゃない。
実際に行動に移しているという事は、その男達は下っ端だろうから。
「いや、知らない。とりあえず、絶対にその男達に捕まったら駄目」
「そうだね……あいつらにカミラちゃんを渡すと、カミラちゃんが何をされるかわからないし……」
「ううん、違う。その男達に捕まったら危ないのは、猫耳爆弾じゃなく君とちびっ子天使のほう」
「え!?」
アリスの言葉を聞いた白兎の子は、やはり驚いていた。
実際に今危険なのは、猫耳爆弾じゃない。
きっと、猫耳爆弾が捕まっても丁重に扱われる。
寧ろ危険なのは、その傍に付き添う白兎の子とちびっ子天使の二人。
理由は、口封じの為に消される可能性が高いから。
「今、猫耳爆弾の様子はどう?」
「あ、え、えっと……凄く怯えているよ。まぁ、あんな男にいきなり襲われたんじゃあ仕方ないと思いけど……」
うん、猫耳爆弾は相手がドイツ人だった時点で気付いてる。
自分がどうして狙われているかを。
あの子は普段威勢が良いのに、凄く不意打ちに弱い。
だけど、今怯えてる理由は違う。
あの男達の手によって、ドイツに連れ戻される事を恐れてるの。
「わかった。とりあえず、人混みに紛れるのは駄目。出来るだけ人目につかない所を移動して、アリス達と合流しよう」
白兎の子達を無事に逃がす為に、アリスは指示を出す。
だけど、白兎の子はそれを反対してきた。
「逆じゃないかい? こういう場合は人混みに紛れて、相手の視界に入らないようにするべきだと思うけど?」
「ううん、ここはアメリカ。銀髪の猫耳爆弾ならともかく、金髪ばかりの中では、黒髪の君とちびっ子天使は逆に目立つ。そうすると人混みはかえって身動きを封じられ、逃げ道がなくなる恐れがある。相手は車に乗っていたってのと、すぐに追ってこれていないという事は、少なくとも今は君達を見失っているはず。だから、わざわざ人目がつく所に出る必要はない」
「あ、そっか……うん、わかった。言うとおりにするよ」
アリスの言葉に納得した白兎の子は、素直に指示に従うようにしたみたい。
「うん、じゃあ、今の居場所だけ教えて――そう、今どこにいるかわからないんだ……。うん、わかった。じゃあ少しの間切るけど、電話はいつでも出られるようにしてて。それと、マナーモードにすることも忘れずにね。もし人が近寄ってきた場合は、ちびっ子天使に相手を確認させるといい。それだけで、気付かれてるかどうか判断がつく。じゃあ、一旦電話切るね」
「え、ちょっ!?」
白兎の子はまだ何か言いたそうだったけど、アリスはすぐに電話を切る。
念の為、ちびっ子天使を猫耳爆弾の傍に居させて良かった。
あの子が居る限り、そうそう捕まったりはしないはず。
思考がある程度読めるあの子は、相手の顔を見るだけで自分達の位置が気付かれているかどうかがわかる。
その判断が利くという事は、下手に慌てたり、無駄に逃げたりして逆に居場所がバレるって事にならずに済む。
あの子の判断基準は表情とかではないから、顔をマスクやサングラスで隠していても関係が無い。
さて――どうしてこういう状況になったのか、説明してもらわないと……。
「――はい、草津でございます」
私が電話を掛けると、この切迫した状況には似つかわしくない穏やかな声が聞こえてきた。
「アリスだけど、今どこにいるの? なんで猫耳爆弾が襲われた時に助けに入っていない?」
元々、アメリカで猫耳爆弾が狙われる事を可能性として想定していたアリスは、猫耳爆弾たちに気付かれないように五人の護衛を付けていた。
なのに、その護衛達は肝心の時に姿を現していない。
その事をアリスは問い詰める。
とはいっても、別にここで説教をしたりはしない。
さっさと猫耳爆弾たちの護衛に付くように命令するつもりだった。
だけど、護衛のリーダーからは耳を疑う言葉が返ってくる。
「旦那様のご命令でございます」
「……どういう事?」
なんであの男がここで出てくるの……?
「いえ、詳細は聞かされていませんが、今回アメリカで行われる事に手出しをするなと」
「……なるほど、そういう事……。また、アリスを裏切ったんだ。君達もそっち側についた事、アリスは忘れないからね」
「ひっ――!」
先程まで穏やかな声で話していた護衛のリーダーは、アリスの声を聞いて怯えた声を出した。
アリスはもう何も話さずに、ブチっと通話を切る。
アリス相手に交渉が上手くいかなかったからって、あの男を買収したんだ。
その事も想定はしていたけど、まさかあの男が二度もアリスを裏切るとは思わなかった。
余程お金を積まれたのか、もしくはあれ程の目にあっておいてまだ懲りてない馬鹿なのか……。
ううん、多分アリアを人質代わりにしているから、アリスに何もされないと思って高を括ってるんだ。
ここで下手に平等院財閥にダメージを与えれば、平等院グループのうち四つの会社を経営するアリアも困らせる事になっちゃうから。
だけど……人が大人しくしてれば好き勝手して……!
アリスの大切な物を奪うって事がどういう事なのか、本当に思い知らせる必要がありそう。
まぁでも、その為の準備は順調に進んでる。
あと数年後には、あの男から全てを奪う事ができる。
だからそれよりも、今は白兎の子たちの無事が優先。
だけど……これは困った。
今回世間から見れば、向こうに言い分があり、アリスが悪者。
だからアメリカにコネがあっても、頼る事ができない。
この土壇場で、頼る相手が居ないのは痛い。
……ううん、違う。
今はカイとクロが居る。
あの二人が居るのなら、寧ろここで誘拐犯たちを捕まえる事ができれば、相手に証拠を突き付けて、猫耳爆弾に手出しするのをやめさせるチャンス。
それに一人、FBAにもこの状況で手を貸してくれそうな人に心当たりがある。
だから、アリスはすぐに電話を掛けた。
『もしもし――うん、久しぶり。実は困った事になっていて、力を貸してほしい。――うん、そう、ありがとう。それと、一つ持って来てもらいたいものが――』
アリスは用件だけ伝えると、そのまま通話を切った。
すると、スマホの通知音が鳴る。
『もう話が終わったので、戻って来て頂いて大丈夫です。ありがとうございました』
そのメッセージは、クロからだった。
ナイスタイミング。
いい感じのタイミングでメッセージをくれたクロに、アリスは心の中で褒める。
とりあえず、すぐにでも合流して二人に協力してもらわないと……。
この時アリスには、一連の中である懸念が浮かんでいた。
それは――ここまで大掛かりにしておきながら、実際に猫耳爆弾を捕えにきた男達が、簡単にあの子たちをとり逃す素人のような男達だった事。
まるで、どうでもいい男達に攫わせようとしたみたい。
……もしアリスの予想が当たっていれば、本当に白兎の子とちびっ子天使は、捕まれば殺されてしまう。
だから、絶対に先手を取る必要がある。
その結論に至ったアリスは、急いでカイたちの元に戻るのだった――。
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