第109話「怪しい男」
「つ、疲れたぁ……」
カミラちゃんやアメリカ人に振りまわされた僕は、グッタリとベンチに倒れ込む。
人と話す事は苦になるどころか凄く好きだけど、いくら僕でもこれは耐えられない。
だって、僕日本人だもん!
アメリカ人じゃないもん!
日本語喋ってくれないとわからないよ!
……まぁ日本人でも、英語がペラペラな少女がすぐそこに居るんだけどね……。
僕は、少し離れた所で二種類のソフトクリームを交互に交換しながら食べている桜ちゃんを見る。
もちろん、交換相手はカミラちゃんだ。
二人は仲良くどっちのソフトクリームが美味しいか食べ比べをしている。
まぁ、アメリカではソフトクリームって言わないらしいけど。
あれって英語かと思ったら違うんだね。
アメリカに来るまでずっと英語かと思ってたよ。
……って、そんな事はどうでもいいね。
二人は種類が違うベリー系のソフトクリームにしたみたい。
片方はブルーベリーみたいな色をしていて、もう片方はストロベリーみたいな色をしている。
……うん、もうブルーベリーとストロベリーって事にしておこう。
英語で言われたって聞き取れないんだ。
ベリーが何ベリーかを考えるのさえ、今はしんどい。
だけど……和気藹々と可愛いロリ達がはしゃいでる姿を眺めていると、癒されるなぁ……。
もう心が色々と疲弊しまくっている僕は、まるで神崎君が言いそうな台詞を思い浮かべてしまう。
自分で言うのもなんだけど、余程重傷みたいだ。
しかも、意外にも僕はカミラちゃんだけでなく、桜ちゃんにも困らされていた。
この子、僕を盾代わりにしてアメリカ人と話すんだよ。
ちょいちょい何を言ってるのかは通訳してくれるんだけど、前後から理解できない言語を喋られていた僕は、もう英語の幻聴が聞こえてくるくらいには疲れた。
とはいえ、別に文句があるわけじゃないけど。
この子がこういう子だって事は、元々知ってたし。
寧ろ、どっかに走って逃げられないだけマシだ。
……でもね、やっぱり疲れる物は疲れるんだよ……。
僕は改めてグッタリとベンチに体重を預ける。
あぁ、もうこのまま寝ていたい……。
そう思って僕がベンチにもたれていると、カミラちゃんが笑顔でテクテクと近寄ってきた。
あ、嫌な予感がする……。
僕はカミラちゃんが笑顔で近寄ってきた事で、逆に冷や汗をかく。
そんな僕の様子に気付かずに、カミラちゃんは急にソフトクリームを僕の口元にまで差し出してきた。
「はい、お姉さま! 疲れた時は甘い物が一番です!」
カミラちゃんはニコニコ笑顔で僕にそう言ってきた。
……うん、何処からツッコんだらいいんだろう?
まず、僕が疲れている半分以上の理由はこの子なんだけどな……。
それにこれ、間接キスじゃん?
しかもソフトクリームって、ペットボトルとかで間接キスするよりも意識してしまうんだけど?
僕は舐められて融けかけているソフトクリームを見る。
……流石にこれはまずいよね?
だって、桜ちゃん顔を赤くして僕の方を見てるし。
桜ちゃんには僕が男だということを、海斗君が前に教えたらしいから、きっと恥ずかしいんだと思う。
これカミラちゃんだけでなく、桜ちゃんとも間接キスする事になるんだもん。
「あぁ、うん、ありがとう。でも今は甘い物はいいよ」
僕は笑顔でそう言って、断った。
カミラちゃんは残念そうな顔をして桜ちゃんの隣にまで戻って行ったけど、流石にこれは仕方がない。
ここで間接キスなんてしようものなら、二つの意味でまずいもん。
一つは、変なフラグが立ちかねないからだ。
本当、隙あらばフラグを立てようとするのはやめて欲しいね。
僕はそんな手には引っかからないよ?
後で酷い目に合う事になりそうなフラグばかりを立てようとする神様に、僕は勝ち誇ったように心で呟く。
そしてもう一つの理由は、ここで桜ちゃんと間接キスをしたと神崎君に知られれば、きっとめんどくさい事になりそうだったからだ。
彼はかなりのシスコンだからね。
きっと激怒してくるに違いない。
神崎君は根暗に見えるかもしれないけど、あれは猫を被ってるだけだからね?
じゃないと、西条さんみたいな子が彼に惹かれる訳ないじゃないか。
そんな彼と揉めるなんて面倒な事この上ない。
僕は平和に生きたいんだ。
もう下手なフラグを立てようとするのはやめてくれ……。
そんな事を神様に祈りながら、僕はカミラちゃんを見た。
すると、彼女のすぐ後ろに一台の車が停まった事に気付く。
なんでこんな中途半端な所で停まったんだ?
別に信号があるわけでもないし、近くにお店があるわけでもない。
ここにはベンチが数個あるだけだ。
僕のそんな疑問をよそに、顔をマスクとサングラスで隠した怪しい男が車の中から上半身を出して、カミラちゃんに両手を伸ばした。
まさか――!
「カミラちゃん、危ない!」
「え……?」
「ちっ!」
僕の呼びかけにカミラちゃんは反応したけど、キョトンっと僕のほうを見ただけだった。
桜ちゃんも同じように僕のほうを見ている。
だけど、怪しい男だけは焦った様に舌打ちをして、カミラちゃんの体を強引に掴んだ。
「な、なんですかあなた!」
『こら、大人しくしろ!』
体を掴まれたカミラちゃんは、男の両手から逃れようと大暴れをし始めた。
ただ、体勢が悪く思うように力が入らないようだ。
男のほうは何やら英語――いや、ドイツ語みたいな言葉でカミラちゃんに怒鳴った。
何を言ってるのかはわからないけど、大人しくさせようとしているみたいだ。
「させるか!」
僕もカミラちゃんの体を男の反対側から掴む。
「は、離してください!」
「そうだ、離せ!」
カミラちゃんは大暴れをしながら――僕は男の腕を殴って、解放を促す。
だけど、怪しい男は屈強な体つきをしていて放そうとしない。
「ていっ――!」
『なっ!』
そうして僕達が抵抗していると、桜ちゃんが可愛らしい掛け声とともに、手に持っていたソフトクリームを男の顔に投げた。
そのおかげで男は怯んで、カミラちゃんの体から手を離した。
僕はカミラちゃんが転ばないようにしっかり抱き留めると、すぐにカミラちゃんと桜ちゃんの腕を掴む。
「今のうちに逃げよう!」
そして僕達は走って逃げ、今はアリスさんが没収していてスマホを持っていない海斗君の代わりに、アリスさんに連絡をするのだった――。
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