第105話「私の人生、踏んだり蹴ったりだ……」
「うぅ……怖い……」
私は月明かりだけを頼りに、山の中を歩いていた。
スマホのライトを使わないのは、こんな山の中でライトを使っちゃうと、危険な動物や大量の虫を呼び寄せかねないから。
満月が雲で隠れた時は、歩くのを止めて立ち止まった。
そうして山の中を進んでいくんだけど――今はもう、その事に後悔し始めていた。
やっぱり、山に入ったのは失敗だったかな……?
でも、もしかしたら桃井が居るかもしれないし……。
私はそう思い直して山の中を歩き回るけど――桃井は見つからなかった。
「やっぱりいない……ここじゃないのかな……?」
……海斗……どうしたらいいの?
桃井、見つからないよ……。
真っ暗な山の中という、今にもお化けが出てきそうな雰囲気に、私は凄く心細くなってきた。
フクロウの鳴く声が、この雰囲気をより不気味にする。
この山に桃井は居ないんだと思った私は、一秒でも早くこの山から出たくなり、帰路につこうとした。
だけど、ここで最悪な事に気付く。
「……帰り道、どっちだっけ……?」
桃井を見つけることに夢中になってた私は、道自体はよく確認していなかった。
本来なら来た道を帰るだけなのに、そのせいで一度道から意識を完全に離してしまった今、どっちから来たのかわからなくなってしまったの。
暗闇のせいで、少し離れた場所はここからだと見えない。
そして、周りは何処を見渡しても全て同じようにしか見えない木だった。
私は虫などが集まる事を気にせず、すぐにスマホを取り出して位置情報を確認する。
だけど――頼りのスマホも、山の中では意味が無かった。
どうしよう……完全に遭難しちゃった……。
無闇に歩くと、より山の中に入ってしまいそうだし……でも、このまま山の中で朝が来るのを待つなんて、私には無理だった。
「海斗ぉ……」
山の中で遭難してしまったという事実が、私の事を追いつめる。
そのせいで無意識に私は、今一番会いたい人の名前を呟いてしまった。
本当、私の人生って踏んだり蹴ったりだ。
中学の途中までは何不自由なく生きてきたのに、アリアによっていきなり人生を壊された。
そしてその事を根に持った私は、人としての道を踏み外してしまった。
やっと前向きに頑張れる様になって、自分のした事を償おうとした途端に遭難……。
私って、よっぽどついてない女だったんだね。
……ううん、違う。
私が間抜けだったんだ。
ちゃんと桃井の事を考えて接していたら、桃井が逃げ出す事にはならなかった。
ましてや桃井が居る確信も無いのに、大した準備もなく山に入るなんて……本当、間抜けすぎるよ……。
これが海斗だったら、きっと桃井の事をすぐに見つけ出したんだろうね。
本当、自分の駄目さが嫌になってくる。
「――ひっく……ひっく……」
「ひっ――!」
私が一人落ち込んでると、変な声が聞こえてきた。
まるで、お化けが泣いてるかのような声。
も、もうやだ……本当にお化けが出るなんて……。
お化けなんかに会いたくない私は、すぐにこの場を離れようとする。
だけど――そのお化けから、気になる言葉が聞こえてきた。
「ぐすっ……海君……海君……助けてぇ……」
「え……?」
お化けが呼んだその名前は、ここ数日耳にしていた名前だ。
もしかして――。
「桃井……?」
私は探していた人物の名を、暗闇に向かって投げかける。
「だ、だれ!?」
私が名前を呼ぶと、すぐにその子は反応してくれた。
その返事を聞いた瞬間、私はその子に向かって駆け出す。
そして姿を見つけると、そのままその子に抱き着いた。
「桃井!」
「え……?」
私に急に抱き着かれた桃井は、戸惑いの声をあげた。
桃井のそんな態度におかまいなしに、私は強く桃井の事を抱きしめる。
「よかった……よかった……」
「な、なんで……? なんでいるの……?」
「あんたを探してたからに決まってるじゃない! 無事で本当によかった……」
私がそう言うと、桃井は何も言ってこなかった。
だけど、黙って私にしがみついてきた。
私が見つけた桃井は、泣いていた。
だから私と同じ様に、桃井も一人っきりで心細かったんだと思う。
少しの間、私の事を嫌っていたはずの桃井は黙って私にしがみつづけ、私も桃井の事をギュッと抱きしめ続けるのだった――。
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最近、話が短くてごめんなさい( ;∀;)
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