第104話「私に出来る事」
「い、いない……どうしよう……?」
桃井を探しに家を飛び出した私は、どれだけ探しても桃井の事を見付けられなかった。
もうあれから二時間もたってる。
海斗に連絡してみる?
……だめ、今は海斗も大変なのに、変な心配はかけられない。
それにアリスから連絡があったけど、海斗もアリスも今はアメリカに行ってる。
何か連絡したところで、あの二人が今出来ることはない。
ただ、心配をかけてしまうだけ。
落ち着いて、今私が出来ることを考えてみよう。
まず、桃井がお祖母ちゃんの家に戻ってないか確認してみる?
ううん、多分確認するだけ無駄。
あの従妹が居る限り、桃井は戻らないと思う。
もし今回の事で戻るんだったら、そもそもアリスの別荘になんかついてこずに、さっさと戻ってたはずだもん。
だから、桃井はお祖母ちゃんの家には戻っていないと思う。
流石に家族の人には桃井が居なくなったことを伝えた方が良いと思うけど、桃井を私が預かる時、アリスが海斗のお父さんに連絡を入れてくれた。
私自身が連絡したわけじゃないから、そもそも連絡先を知らないの。
だから桃井の家族に連絡を入れるのは、諦めよう。
それよりも、桃井を探す手を考えないと……。
………………これ、しかないよね……。
本当は使いたくない手だけど、桃井の無事が優先だもん。
そう思った私は、スマホを取り出してある番号に電話をかけた。
「もしもし、お父さん? こんな夜遅くにごめんなさい、雲母です。はい、私の立場はわかっております。ですが、どうしてもお願いしたいことがあるので――」
私は少しの間お父さんとやり取りをして電話を切ると、すぐにもう一つの連絡先に電話をかける。
その電話は、すぐに繋がった。
「もしも――」
「ちょっと雲母!? あなた今何時だと思ってるのよ!?」
電話口から聞こえたあまりにも大きな声に、私はスマホを耳から遠ざけた。
少しの間ギャーギャーと言う声が聞こえてきたけど、どうやら落ち着いたようなので耳にスマホを近寄らせる。
「久しぶり、アリア」
私は、多分この世で一番仲良く出来ない相手の名を呼ぶ。
「あなたには常識ってものが無いの!?」
アリアは相当おかんむりなのか、またギャーギャ―と言い始めた。
まぁ確かに私が電話をした時間は0時だから非常識だけど……まさか、こいつに常識を説かれるなんて……。
「ごめんごめん、それでさ、お願いがあるんだけど」
「はぁ!? なんで私があなたのお願いを聞かないといけないのよ!」
この様子だと、お願いを聞いてくれそうにないね……。
まぁ、わかってた事だけど……。
私は一度深呼吸をする。
そして、誠心誠意お願いをした。
「お願い……どうしても力を貸してほしいの……」
「……」
私がお願いすると、アリアは沈黙で返してきた。
しかし、すぐに言葉が返ってくる。
「あなたには、借りがあるからね……今回ので借りを返した事にするから。それで、一体どうしたのよ?」
正直可能性は低いと思ってたけど、前に私がアリアとの勝負に勝った時、勝負自体を無かった事にしたのを借りだという事で、その借りを返す為にアリアは協力してくれると言ってくれた。
「ありがとう……!」
私は心からアリアにお礼を言う。
「い、いいわよ、そんなお礼なんて! それよりも、さっさと何があったのか教えなさいよ!」
「うん、実はね――」
私は桃井が居なくなって、行方不明になっている事をアリアに伝えた。
アリア自身は桃井に会った事がないから、特徴だけ簡潔に教える。
「――とは言っても、岡山県って結構大きいわよ? それに山も多いし……ある程度的を絞らないと、見つからないと思うわ」
状況を完全に理解したアリアは、そう助言してきてくれた。
「うん、それはわかってる。でも数時間たってるとはいえ、歩いて行ける距離は知れてるから、アリアはさっき教えた桃井の特徴通りの子がタクシーに乗らなかったかを調べて欲しいの。電車とかバスはもう止まってる時間だから、それでの移動はないと思う。それに実はさっき、お父さんに自衛隊と警察を動かしてもらう様に頼んだの」
「なんだ、手が早いじゃない。オーケー、私は平等院の家の者に岡山県のタクシー会社全てに連絡をとらせるわ。それと、岡山県には事業拡大の為に平等院の者が視察に行って今も居るはずだから、捜索に向かわせるわ。私は東京だから岡山県に向かっても時間がかかるから向かわないけど――こっちでやれるだけの事はやっておく。それと警察が既に動いてるのなら、GPSの方は良いのね?」
「うん、大丈夫。あ、でも、何か他に位置を特定できるものはない? アリアってシステム会社も持ってたでしょ?」
「いや、それなら私よりカイに頼みなさいよ」
「え、知らないの? 海斗は今、アリスに連れられてアメリカに行ってるわよ?」
てっきりアリスの双子の妹であるアリアは、アリスの行動について聞かされている物だと思っていたから、私は驚いて口を滑らせてしまった。
「はぁあああああああ!? ど、どういう事!? なんでお姉ちゃんとカイが!?」
スマホからは、アリアの取り乱した様な声が聞こえてきた。
余程、アリスが海斗と一緒に居る事がショックだったみたい。
「あ、ごめん……時間が惜しいから、もう切るね。手配の方、よろしく」
これ以上はめんどくさくなると思った私は、さっさと電話を切る。
「ちょっ、まっ――」
アリアの呼び止める声が聞こえたけど、私は無視した。
これでもう私が出来る事は終えた。
後は、ひたすら走って桃井の事を探すしかない。
でも――あの子は一体、何処に行ったの……?
私がそう思った時、雲に隠れていた満月が出てきたみたいで、その光によって照らされた一つの山が目に入った。
そこは、海斗が暴れた場所だ。
桃井を探して走り回っているうちに、こんな所にまで来ていたなんて……。
「もしかして……」
もしかしたら桃井も私と同じ様に、この山に辿り着いたのかもしれないと思った私は、意を決して暗い山の中に入るのだった――。
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