第102話「ごめん、桃井」
「ねぇ桃井」
プイッ。
「ねぇってば」
プイッ。
「ちょっと……こっち向いてよ」
プイプイ。
「……あのさ、いつまで拗ねてるの?」
私が呼びかけたり桃井の視界に入る様に移動するたびに、顔を背けて拗ねる桃井に対して私は呆れた声を出した。
いやね?
確かに桃井が拗ねてるのは私のせいだよ?
でも、こんな子供っぽく拗ねられても困るんだよね……。
まぁどうして桃井がこんなに拗ねてるのかって事なんだけど――私が桃井の作った料理を、おいしくないって言ったからなの。
確かに桃井の料理は、最初に作った毒料理に比べて大分進歩したの。
だって、食べられるくらいにはなったんだから。
でもね、そこで甘やかすのは良くないと思ったの。
正直な意見を言わないと、この子は料理が上手にならないと。
それで美味しくなかったから美味しくないって言ったらね?
御覧の有様よ……。
もう本当、この子小学生なんじゃないの?
桜の方がもうちょっと大人だと思うよ?
……いや、あの子も大概子供だけど……それでも、今の桃井程子供じゃないと思う。
私はいつから子育てをするお母さんになったのよ……?
桃井の子供っぽさによって当初の予定からかなりずれた事になっている私は、頭を抱えて嘆いた。
「西条さんは……」
「え?」
私が頭を抱えてると、桃井が声を掛けてきた。
「海君のあの姿を見た時、どう思ったの……?」
桃井の顔を見ると、桃井はゲッソリとした表情で私の事を見ていた。
そういえば、ここ数日桃井の顔をちゃんと見た事が無かった。
この子って、私から微妙に顔を背けながら話をするのよね。
それなのに今は私の目を見つめているという事は、それだけ彼女が本気で聞きたいと思ってるからなんだと思う。
まぁそれもそっか。
だって、海斗の事についてなんだもの。
「正直言えば、驚いたね」
ここで嘘をつく事に意味は無いから、私は正直に思った事を桃井に伝える。
「やっぱそうだよね……だってあれは、海君じゃないもん……」
私の答えを聞いて、桃井はまたあの時にアリスを怒らせた言葉を呟いた。
その言葉が海斗を否定してるって事に、この子は気付いていないみたい。
今の桃井は、まるで今までおっかけていたアイドルが結婚すると聞いた時に、現実を受け入れられないファンの子みたい。
正直、自分の好きな相手が理想から外れた行動をとった時、否定したくなる気持ちもわかるの。
でもね、だからと言って現実から目を逸らすのは駄目だと思う。
「あのさ、いい加減にしなよ?」
「え……?」
私が桃井に怒った声で話しかけると、桃井が戸惑いながら私の顔を見てきた。
そんな桃井に対して、私は説教する事にする。
「いつまで理想に囚われるわけ? あの時暴力を振るってたのは、海斗なの。それ以外の誰でもない」
「違う! 海君はあんなことしない!」
「ううん、あれは海斗よ」
「違うもん!」
桃井は子供がイヤイヤとするみたいに、顔を横に振って私の言葉を否定した。
本当に、この子は子供と同じだ。
まるで子供がそのまま大人になったかのような子。
よく今まで学校で冷徹に振る舞えたものね。
でも、子供みたいな性格だからと言って、現実から目を背けてもいいって事にはならない。
「はぁ……ごめん、桃井」
私はそう前置きすると――
パンッ!
っと、桃井の頬を本気で叩いた。
「あんたが現実から眼を背ける限り、海斗も桜も帰ってこない。一度自分のしてる事をよく考えてみたら?」
暴力に頼るのは良くないってわかってるけど、それでも今の桃井はぶたれたりしないと目を覚まさない気がした。
私に頬を叩かれた桃井は、俯いてしまって何も言ってこなかった。
今彼女が何を考えているのか――それは、私にはわからない。
でも、今はこれ以上話をするつもりはなかった。
とりあえず、きちんと彼女が考える時間を与えようと思う。
それでまだ甘い事を言うのなら、とことん彼女が目を覚ますまで付き合おう。
私はそう決めると洗い物だけさっさと済ませて、桃井をリビングに残して部屋に戻るのだった――。
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