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第101話「クロの過去」

「神崎海斗です、よろしくお願いします」

 クロの呼びかけに対して、俺は自己紹介をして頭を下げた。

 それに対してクロは、笑顔を返してくれる。


「いや、タメ語でいいよ。僕も高校二年生だからね」

「じゃあ、お言葉に甘えて……改めて宜しく、黒柳君」


 流石に初対面でアダ名呼びするのはためらわれた為、俺は苗字を君呼びした。


「うん、改めて黒柳龍だよ。よろしく、神崎君」

 黒柳君も俺と同じように自己紹介をしてくれた。

 

 こうして話してみると、黒柳君は凄く話しやすい。

 それもそのはずだ。


 彼は前髪で目を隠している俺を見ても、嫌な視線を向けてこないのだ。

 だから、話しやすい。

 

「クロも……遠慮してる……。ありのままに……話せばいい……」

 そんな俺達のやり取りを黙ってみていたアリスさんが、口を挟んできた。


 まぁ俺も、口調的に黒柳君が気を使ってくれてるんだろうなとは思っていた。

 だから、俺もアリスさんに賛同するように頷いた。


「う~ん、とはいっても、自分の事を僕って言ってるだけで、後はいつも通りだよ?」

「ううん……そんなはずない……。君の口調は……荒いって聞いてるよ……?」 


「…………一体誰が? あ、いや、そんな口調で話す相手なんて一人しかいないんで、やっぱいいです」

 黒柳君は何か思うとこがあったのか、苦笑いしながら首を横に振った。


 俺は二人のやり取りがよくわからず、首を傾げる。

 すると、アリスさんが俺に話しかけてきた。


「クロの相棒……兼、婚約者の従妹がね……クロの口調が荒い事を教えてくれたの……」

「え!? 黒柳君って婚約者居るの!?」


 俺は黒柳君に相棒がいるって事より、婚約者がいるって事に反応した。


「あぁ……絶対そういう流れになると思ったよ……。違うよ? お付き合いはさせてもらってるけど、婚約者にはなってないからね?」

 黒柳君は恥ずかしそうに左手で頭を抑えながら、右手を横に振っていた。


 なんだろう、こうやって話してみると、普通の高校生って感じだ。

 到底、大手企業を相手に出来るような人間には見えない。


「彼女は居るんだ……」

 ただ俺はそっちの方が気になり、羨ましがるように呟いてしまった。


「あぁ、まぁね。でも、君は羨ましがらなくてもいいんじゃないかな?」

「え、どういう事?」

 黒柳君の言ってる意味がわからなかった俺が尋ねると、黒柳君は意味深な笑みを返してきた。

 一体どういう事だろうか?


「クロ……。その話はいいから……頼んでた事……お願いできる……?」

 俺と黒柳君が話してると、若干機嫌が悪くなっている様に見えるアリスさんが、黒柳君に何かを頼んだ。


 黒柳君はそんなアリスさんを見て一瞬苦笑いするも、コクっと頷いた。


「わかりました。とは言え、本当にあんな話で良いんですか?」

「うん……お願い……」


「そうですか……。正直、不幸自慢みたいで気が退()けますが……アリスさんには借りがありますからね。それじゃあ――」


 俺が言えることじゃないけど、どうして黒柳君は歳が同じのアリスさんには敬語で話してるのか俺は気になっていたが、黒柳君が何やら前置きをして話始めようとしていたので、聞く体勢をとった。


 そこからは――黒柳君の過去について、彼は話してくれた。


 その話は幼い時に母親を亡くし、その事がキッカケで父親が酒に溺れてしまい、黒柳君と妹に暴力を振るうようになったって話から始まった。


 そしてその父親も、酒が原因で黒柳君が中三の時に亡くなってしまい、その時に父親が借金を抱えていた事が発覚したらしい。

 父親が借金を抱えていた事実を知り困っていた時、紫之宮財閥の次女に声を掛けられ、条件を飲めば就職するまで借金を待ってくれると言われたそうだ。

 

 その条件とは、全ての関りのある人間と縁を切り、紫之宮さんの元に行くという事。


 要は彼は、大切にしていた妹や、好きだった幼馴染と縁を切る様に言われたのだ。

 そして妹の幸せを願う彼は幼馴染の家族に妹を預け、コッソリと行方をくらませたらしい。


 それからは、一人孤独に打ちひしがれたりもしたみたいだ。


 結局は同級生のおかげで立ち直る事も出来たらしく、借金を返す為にバイト三昧(ざんまい)の日々を送りながらも、楽しく過ごせていたらしい。

 ただそれだけでは終わらず、自分を探して妹や幼馴染が転校してきたらしく、一悶着(ひともんちゃく)もあったそうだ。


 脳の病気が発覚したのは、その頃らしい。

 

 自分の命が長くないと(さと)った彼は、自分が居なくても大切な人達が幸せになれる様に、調整をし始めたそうだ。


 まずは自分の抱えている借金を、紫之宮財閥の長女――紫之宮(あい)さんとの取引でチャラにしたらしい。


 そして大切な人達――黒柳君を救ってくれた同級生には、幼馴染の女の子と仲良くする様に仕向け、当時もう好きになっていた紫之宮さんには、自分が信頼する相手と仲良くなるように仕向けたらしい。

 

 後者の話は、躊躇(ためら)いがあったり話が若干(じゃっかん)飛んだりもした事から、話したくない内容、もしくは話せない内容があったのだろう。

 

 しかし、それは結局自分が逃げていただけだったらしい。

 周りの思いから眼を背け、自分が楽になるようにと。


 その間違いに気付かせてくれたのは、周りの人達だったらしい。

 

 過ちに気付いた彼は、自分がした事に対しての清算を(おこな)っていき、今では紫之宮財閥の次女とお付き合いをしているとの事だ。

 彼が手術を受けられたのは、過ちを清算している際に、紫之宮会長の温情を受けられたかららしい。


 その頃アリスさんとも知り合ったとの事だが、それは偶然だったそうだ。


 過ちを清算していた黒柳君は、紫之宮財閥に匹敵する存在だった平等院財閥の人間である、アリアに取引を持ち込んだらしい。

 そしてその場に、アリスさんもついて来ていたそうだ。


 アリアの事を知っている俺の考えとしては、アリアは黒柳君を警戒してアリスさんを連れて行っていたのだろう。

 取引の際にアリスさんが関与して、黒柳君がアリスさんの凄さに気付いたのか、アリスさんの少ない行動から凄さに気付いたのかは、彼が取引内容を()えて(はぶ)いたせいでわからない。


 まぁ、取引内容なんてそうそう他言(たごん)出来るものじゃないから、別にそれを責める気はない。

 恐らく彼が省いている内容も、紫之宮財閥に不利になる事なのだろう。


 だから彼は口にしない。

 これは俺が信用されていないというよりも、彼が慎重な人間だからだろう。


 もし信用されていないのなら、そもそも彼の過去についても教えてくれないはずだ。

 とは言え、俺の事を完全に信用しているというわけでもなさそうだ。


 なんせ話してる最中、黒柳君は俺の一挙手一投足いっきょしゅいっとうそくを観察しているのだから。 

 アリスさんが連れて来た人間だから信用できるはずだけど、一応自分の目でも確かめているという所だろうか。


 ただ黒柳君の凄い所は、観察しているという事を相手にわからない様にしている所だろう。

 ベッドに座っている彼と、椅子に座っている俺にはうまい具合に距離がある。


 その距離間を使って、彼は俺の目に目線を合わしているにも関わらず、俺の全身を見ているのだ。


 じゃあ、彼は相手に観察している事を悟られない様にしているのに、どうして俺は気付くことが出来たかという事についてだが、(あらかじ)めアリスさんからその事を聞かされていたからだ。


『クロは常に相手を観察している。目を見て話してると思っても、自分の身体を動かしてみて彼の目が動かなかったら、全身を見られて観察されてると思う様に』っと。


 実際、アリスさんに言われた通り俺が微妙に頭を動かしても、彼の視線がつられることはなかった。


 例えば、相手が人差し指を立て、その人差し指の先に自分の視線を集中させていれば、人差し指が動くだけで目は動くだろ?

 でも、相手の全身を見ている状態で、相手が体の前で人差し指を動かしても、目がつられることはないはずだ。


 つまり、アリスさんの言う通り黒柳君は、一つの部分に視線を集中しているんじゃなく、全身を見えるように視野を広げている為、部分的に動いてもつられないのだ。


「ねぇカイ、アリスが言いたい事はわかる?」

 黒柳君が話し終えると、凛とした雰囲気に変わったアリスさんが俺に話しかけてきた。

 アリスさんの変貌(へんぼう)に、若干(じゃっかん)黒柳君は驚いている。


「えっと、黒柳君はこんなにも辛い過去を抱えているから、自分だけが辛い目にあってると思うなって事ですよね?」

 黒柳君の持つ過去は、俺の持つ過去よりも重たい。

 だから過去の事を引きずる俺に、もう過去から立ち直った黒柳君を見せて、自分の小ささに気付けと言いたいんだと思った。


 だけど、アリスさんはゆっくりと首を横に振った。


「違うよ。確かに、カイは過去を引きずるウジウジとした情けない男だけど――」


「よ、容赦ないですね……」

 アリスさんの(とげ)が含まれた言葉でグサリと胸を刺された俺は、まだアリスさんが話してるにも関わらず、落ち込んでしまう。


 そんな俺に対して、アリスさんは優しく頭を撫でてきた。


「でもね、過去なんて誰でも引きずるものなの。アリスだって未だに過去を引きずってるしね? だからここでそれを責める気は無いよ」 

 そんな風に優しい言葉をかけてくれるアリスさんに対して、俺は『さっき思いっ切り責められてましたけどね?』っと思った。

 しかしこの雰囲気でそんな事を言えるはずが無く、俺は黙ってアリスさんの続きの言葉を聞く。


「アリスが言いたいのはね、クロの様な男だって過ちは犯すという事なの。前にクロの凄さは教えたよね? さっきクロが話してた過ちってね、中々に酷い事だったの。だって、信頼してくれた人達全員を裏切ったんだから」

 アリスさんがそう言うと、黒柳君は一瞬『なんで内容までアリスさんが知ってるの?』って顔でアリスさんの方を見たけど、俺に対して頷いた。


 アリスさんの言う通り、黒柳君は信頼してくれた人達全員を裏切ったんだろう。


 信頼してくれていた人達を裏切った――それは、最低な行為だと思う。

 アリスさんはその事を()えて言い、何かを俺に伝えたいみたいだ。


「だけどね、さっきクロが言った通り、彼はそれを清算しきったの。だからアリスが言いたいのは、人は過ちを犯しても清算出来るって事なの。もちろん、清算出来ない罪はあるよ? 殺人や、人の人生を奪う事なんて絶対に許されないからね。でも君は、妹のおかげでそんな過ちは犯してない。だから、まだ清算する事が出来るの。今君がしないといけない事は、やった事を悔やんで落ち込むんじゃなく、どうやって過ちを清算するかって事なんだよ?」


 まるで子供に言い聞かせる様な優しい声で、アリスさんは俺にそう言ってきた。


「過去を清算……」

「そう、元々君はそれをしていくつもりだったんでしょ? だったら、今回の事で(くじ)けたら駄目」

 俺が自分の人生をこれから傍に居てくれる人達の為に使って、(つぐな)いをしていこうとしてた事は、アリスさんに伝えていない。

 でも、彼女にはバレていたみたいだ。


 本当にこの人は凄いと思いながらも、俺は簡単にその言葉を飲み込めずにいた。


 なんせ、桐山を見殺しにした事に対して自分の人生で償っていこうとしていたのに、更に過ちを犯してしまったのだ。

 そのせいで、どうやって償えばいいのかわからない。


 だから、アリスさんの言葉に頷けずにいた。


「神崎君が何をしでかしたのかは知らないけど……」

 俺が俯いていると、黒柳君のそんな声が聞こえてきた。

 黒柳君の声に反応して俺が彼の顔を見ると、彼は笑顔で話し始めた。


「もしどうやって清算すればいいかわからないのなら、これから考えていけばいいと思う。アリスさんだって、その事を考えていくべきって言ってるだけで、まだ行動に移すようには言ってないんだから。それと、自分一人で考えてもわからないんだったら、ちゃんと周りの人達と話すといいよ? 自分では気づけない事も、他の人なら気付けるかもしれないからね」

 

「クロの言う通り。もしそれでも答えが見つからないんだったら、アリスが死ぬまでこき使ってあげるから、もう悔やんで落ち込んだら駄目」


「黒柳君……アリスさん……」

 俺は二人の言葉に、ゆっくりと頷いた。

 彼らの言う通りだ。


 結局、やった事を悔やんでいてもなにもならない。

 それよりは、どうやったら過ちを清算出来るかを考えるべきだろう。


「二人とも、ありがとうございます。もう大丈夫です」

 俺が立ち直った事を宣言すると、二人は笑顔で答えてくれた。

 俺はそんな二人に、心の中でもう一度感謝した。


「――それじゃあ、出かけよっか。クロも行けるんだよね?」

 俺が二人にお礼を言ってすぐ、アリスさんが病院の外に行こうと言い出した。


「はい、あまり長時間は出られませんが、ちゃんと外出の許可を頂いています」

「うん、じゃあ行こう。折角アメリカに居るのに、病院の中で過ごして終わりだと可哀想だからね」


「ハハハ、そうですね。正直、一人で出掛けようとは思いませんでしたが、みんなと遊びに行くって事なら楽しみです」

「ありがとう、そう言ってくれると助かる。……一人男嫌いの子がいるから、薙刀(木刀)で頭を叩かれない様に気を付けてね?」


「え!?」

 

 急なアリスさんの警告に、黒柳君が凄く驚いていた。

 まぁ、普通驚くよな。


 というか結局合流するのなら、病室の外で待ってもらってればよかったんじゃ?


 そう思った俺がアリスさんに聞いてみると、アリスさんが首を横に振った。


「猫耳爆弾は、わけあって病院が苦手なの。だから、連れてこられなかった。近寄らせたり、連想させても駄目だから、遠ざけたってわけ」

「そうなんですか……。でも、黒柳君をあの子と合わせるのは危ないんじゃ?」


「それはわかってる。でも、あまり長くは猫耳爆弾から目を離したくないの。ここ最近、アリスがあの子をずっと傍に居させたのも、それが理由」

 アリスさんはそれだけ言うと、もうそれ以上は話すつもりがないのか、服を着替えようとしている黒柳君に気を使って病室から出て行った。


 俺は彼女の言った言葉が何を示しているのかわからず、首を傾げながら考え込むのだった――。

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