第100話「二人の出会いはここから」
「つきましたー!」
「ついたー!」
「やっと……ついた……」
カミラちゃんと桜ちゃんが両手を広げて可愛らしくプライベートジェット機から降りた後、ゲンナリとした様子で白兎が降りていった。
「なぁ白兎、飛行機弱かったのか?」
白兎がグッタリし始めたのは飛行機に乗ってからだったから、それが原因かと思って聞いてみると、白兎は首を横に振った。
「ううん、そんな事はないんだけど……多分、ここ数日寝不足なせいで、酔ってしまったみたいなんだ」
いつもの明るく人懐っこい笑顔ではないけど、それでも白兎は笑顔で答えてくれた。
体調が悪くても笑顔を絶やさない。
そんな白兎の事を素直に凄いと思った。
どうりでこいつは女子に人気があるわけだよな。
それに男なのに、カミラちゃんにまで懐かれてるし。
髪型を猫耳に似せているだけとはいえ、そんな猫耳少女に懐かれるとか狡い。
オタクの性なのか、猫耳って事で俺はカミラちゃんの事を気に入っていた。
桜ちゃんとも仲が良いし、二人セットで居ると凄く可愛い。
だから俺としては仲良くしたいのだが、カミラちゃんが男嫌いのせいで凄く警戒されている。
……いや、それどころか、この前のアリスさんの部屋での一件で、多分凄く嫌われている。
なのに白兎はそんなカミラちゃんに懐かれているなんて、狡いと思った。
そう思った俺は、白兎になんとなしにその事を言ってみる。
「でもいいよな、白兎は。あんなに可愛い、猫耳少女のカミラちゃんに懐かれてるんだから」
「今、なんて?」
俺が白兎の事を羨ましいと思ってることを伝えると、歩きだそうとしていた白兎がクルリと俺の方を笑顔で見てきた。
なんだかその笑顔には違和感があり、引きつっているかのようだった。
そして若干、白兎から圧の様なものまで感じてしまう。
俺はそんな白兎に少しだけたじろぎながらも、同じ事を口にする。
「あ、いや、カミラちゃんに懐かれていいなって……」
「ハハハ、神崎君、グーパンしてもいいかな?」
「え!?」
笑顔のまま額に青筋を浮かべ、握りこぶしを自分の顔の前に作る白兎に対して、俺は驚いた。
こんな白兎見たことがない。
どうやら俺は、また知らないうちに地雷を踏んでしまったようだ。
「今のは……カイが悪い……」
「えぇ……」
俺達のやり取りを見ていたらしい、アリスさんまで俺の事を批難してきた。
俺、そんな責められるような事を言ったか……?
なんで責められてるのかわからなかった俺が首を傾げると、アリスさんは溜め息をついた。
そして、白兎の方に向き直る。
「白兎の子……。悪いけど……あのちびっ子二人は任せた……」
「まさかのここで丸投げ!? なんで君は僕にそんなに容赦がないの!?」
いきなりカミラちゃんと桜ちゃんの面倒を任された白兎は、何が嫌なのか凄く抗議をし始めた。
「何か問題……? 猫耳爆弾は……君に懐いてるのに……?」
「寧ろ、そこが悩みの種なんだけどね!?」
桜ちゃんとカミラちゃんがはしゃいでいて話を聞いていないのをいいことに、白兎はカミラちゃんに懐かれてるのが問題だと言い出した。
何を贅沢なことを……。
俺は贅沢な悩みを持つ白兎に対して、『モテる男はモテることに悩むのか……』っと、世の理不尽さを嘆いた。
「ねぇ神崎君、君の視線から感じる事を、僕はそのまま君に返したい思いなんだけど?」
俺が白兎に対して向けた視線をどうとったのか、白兎の火の粉が俺の方に飛んできた。
どうやら白兎の心は飛行機に酔った影響か、情緒不安定のようだ。
「あの子達がいると……出来ない話もあるから……任せた……」
俺が白兎に言葉を返す前に、アリスさんがそう言って白兎の肩をポンっと叩いた。
「僕、もう泣きそうなんですけど……?」
「猫耳爆弾……白兎の子って実はね――」
「わ! わぁわぁ! わかりました! 任せてください!」
アリスさんがカミラちゃんに何かを言おうとすると、白兎が慌ててアリスさんの事を止め、すぐにカミラちゃんと桜ちゃんの元に向かった。
多分、先程の俺達が別行動することを伝えてるのだろうけど、桜ちゃんが一瞬寂しそうな表情で俺の事を見てきた。
でもあの子は良い子だから、我が儘を言わずに白兎達と歩いていく。
「アリスさん」
「何……?」
「俺――桜ちゃん達の方に行ったら駄目ですか?」
桜ちゃんに寂しそうな表情を向けられた俺は、ついアリスさんにそんなことを言ってしまった。
するとアリスさんは俺の方に笑顔を向けたと思うと、何故かスマホを取り出して操作を始めた。
「……何をしてるんですか?」
アリスさんの行動の意図が読めなかった俺がそう訪ねると、アリスさんは笑顔でこんなことをいってきた。
「KAIは……妹好きの……極度なシスコン野郎だった……って、ネットに書いてる……」
「いやいやいやいや! 待ってくださいよ! そんな事されたらKAIの株だだ下がりじゃないですか!?」
「でも、事実……」
「いや、事実でも書いて良い事と悪い事がありますよね!?」
「事実は……否定しないんだ……」
「……否定できませんからね……」
「はぁ………………」
俺が妹好きを認めると、アリスさんが深く溜め息をついた。
どうしよう、今日一日だけで、俺の株はだだ下がりな気がする……。
だけど――溜め息をついたアリスさんは、笑顔で俺の顔を見上げてきた。
「でも……妹を大切にするカイは……好きだよ……?」
アリスさんも妹のアリアを大切にしてるから、俺のその考えに共感してくれているのだろう。
正直、憧れの人にそう言われると嬉しかった。
「ありがとうございます」
だから俺は笑顔でお礼を言った。
俺がお礼を言うと、アリスさんはコクっと頷いて歩きだそうとする。
しかし、俺はもう1つ気になる事があったため、アリスさんを呼び止めた。
「あの、なんだか白兎に負担をかけているみたいですけど、どうして関係ないあいつにそんな事を……?」
俺がその事を訪ねると、アリスさんは笑顔でこう答えてくれた。
「今は確かに負担をかけてしまってるけど、あの子のこれからの将来は、アリスが保証する。だってあの子は、アリスの大切な二つの物に欠かせない存在だから」っと。
2
「この大きい病院に、クロが……?」
クロが入院している病院を見た俺は、病院の大きさから思わずそんな事を呟いてしまう。
アリスさんから聞いた話によると、世界で一番大きい病院らしい。
「行くよ……」
「あ、はい!」
病院の大きさに驚いている俺とは違って、病院の大きさに興味を示さないアリスさんは、先に病院の中に入ってしまった。
俺はすぐにアリスさんの後を追っていく。
そして受付を済ませてクロの病室を聞くと、そのまま俺達はクロの病室に向かった。
クロの本名は、黒柳龍というらしい。
一体どういう男なのか……。
ついにあのクロに会えるということで、俺の中には期待と不安が生まれ、緊張してきてしまう。
すると、アリスさんが俺の右手を握ってきた。
「そんなに……緊張しなくて……いいよ……?」
アリスさんは俺の顔を見上げながら、笑顔で優しくそう言ってきた。
「あ、はい……」
俺は急に女の子に手を握られたのにも関わらず、動揺するどころか不思議と安堵した。
本当に、アリスさんと居ると何故だか落ち着いてくる。
俺の表情から緊張が解けた事を察したのか、アリスさんは俺から手を離して、また歩き始めた。
そして、俺達はクロが居る部屋の前についた。
コンコンコン――。
クロの病室の前につくと、アリスさんがドアをノックした。
「はい」
ノックの音に反応して、中から若い男の声が返ってきた。
その声からわかるのは、クロは落ち着いた男なんじゃないかということ。
そんな印象を受ける声色だった。
「アリスだよ……」
「あぁ、入ってください」
男の声に従ってアリスさんは病室のドアを開けて、中に入っていく。
俺もそれに続いて病室のなかに入った。
「元気そうで……よかった……」
クロの姿を見たアリスさんは、安堵の声を出す。
「おかげさまで、この通り元気です。これもアリスさん達の協力を得られたおかげですね」
「もう……包帯はしてないんだね……?」
「はい、先日取れたばかりなんです」
クロはアリスさんに優しい笑顔を返した。
俺がクロに受けた第一印象は、『優しそうな男だな』といった感じだ。
優男という言葉が似合う、温和な顔付きをしている。
髪が短いのは元からなのか、頭の手術の為に切ったのかわからないが、まるでアイドルみたいな顔付きをしている。
多分、かなり女子からモテると思う。
言うなれば、男の敵という奴だ。
そんなクロはアリスさんと少し会話をした後、俺の方へと視線を向けてきた。
「それで――君が、神崎海斗君なんだね?」
――これが、後に俺の人生を大きく変える事となる男との出会いだった。
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