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第99話「地獄を見ることになるよ?」

「カイは……金髪ギャルの事……どう思ってるの……?」

 アリスさんのプライベートジェット機に乗ってすぐ、俺の隣に座っているアリスさんがそんな事を尋ねてきた。


 ……プライベートジェット機を持ってるとか、本当この人金持ちすぎるだろ。

 

 俺は改めてアリスさんが大金持ちだという事を思い知るが、今はアリスさんの質問に答えるべきだ。

 

 とはいえ、雲母の事か……。

 正直俺としても、あいつにどんな感情を持っているのかわからない。

 最初は怖い奴と思い、それから桃井の件を()て最低な奴だと思った。


 でも、実際は色々と事情を抱えており、自分がした事に対しても真摯(しんし)に向き合って(つぐな)おうとする奴だった。


 何より、俺に対して好意を向けてくれている。

 しかもそれだけじゃなく、俺に好かれる為に俺好みに染まろうとまでしてくれてる。


 はっきり言って、雲母は良い女だと思う。

 今時彼女みたいな女の子なんてそうそう居ないだろう。

 

 だけどアリスさんが聞きたい事は、そんな事じゃないと思う。

 きっと、俺が雲母の事を好きなのかどうかを聞きたいんだろう。


 俺は雲母の事を大切に思っている。

 守りたい、幸せにしたいと。


 でもそれは、俺があいつの事を友達だと思っていて、あいつが俺を必要としてくれているからだ。

 だから多分女の子として好きって事ではないと思うが、だからと言って雲母の事が気になっていないという訳ではない。


 だから、わからないんだ。


 咲姫の事も少し気になってて、その上雲母の事も気になり始めてるって、本当に俺は何処までクズなんだ……。


 流石にそんな事は口が裂けても言えないため、最初の結論だけをアリスさんに答える。

「俺自身、あいつの事をどう思ってるのかわからないんですよ」


 俺がそう答えると、アリスさんがジーっと俺の顔を見上げてくる。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「気になってるのなら……付き合う事を……お勧めする……」

「え? どうしてですか?」

 アリスさんの突然の言葉に驚いた俺は、思わず尋ね返した。


「あの子が一番……カイを幸せにできるから……」

「えと、どうしてそう思うのですか?」


「三大財閥の一人娘……って事だけじゃなく……家事も出来るし……カイの為に頑張れる子だから……。何より……あの子は心が強いから……カイの支えになれる……」


 俺はアリスさんの言葉に考え込む。


 アリスさんの言ってる事は全て共感できた。

 お金持ちってのはただの生まれでしかないが、雲母の料理は凄く美味しいし、俺の為に色々と頑張ってくれてるのは知っている。


 それだけじゃなく、雲母は自分のした過ちに向かっているだけじゃなく、それを償う為に過酷な事まで受け入れていた。

 だからアリスさんも雲母の事を、心が強いと言っているのだろう。


 そんな彼女と付き合えば、アリスさんの言う通り俺は支え続けてもらえる気がする。


 だけど、それで付き合うのはなんだか違うと思った。


「確かにアリスさんの言う通り、彼女と付き合えば俺は幸せかもしれません。ですが、曖昧(あいまい)な気持ちであいつと付き合うのは良くないと思います。それはあいつに対しても失礼だと思うので」

 俺がアリスさんの目を見て答えると、アリスさんはコクンっと頷いた。


「選ぶのはカイだから……カイの好きにすればいい……。ただ……あの子が今回上手くやったら……もう昔の事を引きずるのは……やめてあげて……」

 昔の事っていうのは、雲母が咲姫にした事だろう。


 今回雲母が上手く歩み寄って咲姫の心を変えれたなら、もう二人の中に有った問題は解決する。

 だからアリスさんは外部の俺にも、もう気にするなと言いたいみたいだ。


「もちろん、俺が口出しする事じゃないですから、これ以上雲母に何かを言ったりはしません。ですが、どうしてあなたがそんな事を言うのですか?」


「カイは……金髪ギャルが桃井の子にした事を……金髪ギャルの責任って思ってるでしょ……? 確かにそれは間違いないんだけど……あの子がああなったのは……アリアのせいだから……。そしてはそれは……止めなかったアリスのせいでもある……。それであの子が幸せを失うのなら……それはやっぱり可哀想だから……」


「だから、雲母に償えるチャンスを与えたのですか? 咲姫が雲母に出した条件は、普通なら満たす事が出来ない。なぜなら、自分を酷い目に合わせた人間を友達に思う事はほぼ無いからです。あるとすれば、自分を助けてくれたり支えてくれた人間位でしょう。だからあなたは、わざと咲姫の心を折った。心が折れた咲姫を支える事によって、雲母があいつに歩み寄れる様に。だけどただ咲姫の心を折っても、咲姫には桜ちゃんがいる。だから雲母があいつを支える立場になれるように、わざと桜ちゃんまで咲姫の傍から引き離したんですね?」

 

 俺が確信をもって聞くと、アリスさんは優しく笑った。

 そして雰囲気が凛としたものに変わる。


「うん、ほぼ(・・)正解」

「ほぼですか?」

「そう。アリスが今回した事はカイの言った事でほとんどあってるけど、もう一つ理由があるの」

「その理由とは?」


 俺が不思議に思って尋ねると、アリスさんは不思議な事を口走った。


「運命って凄いよね。もう(まじ)わらないと思っていても、結局交わることになるんだから」


「どういうことですか……?」

「今回アリスがあの子の心を折ったのはね、このままいけばあの子の心が壊れる可能性があると思ったから」

「咲姫の心が?」


「うん。ねぇカイ、人を甘やかすって事はね、甘やかされた方は甘やかした方に依存する危険があるの。それを自覚してるのなら、線引きをするだけで良いから問題ない。でも君は、自覚がないから線引きをせずにあの子を甘やかし続けた。それに隠れている危険について考えた事がないでしょ?」


「まず、どうして俺が咲姫を甘やかした事になってるんでしょうか?」

 いや、薄々自覚はある。

 結構家では咲姫の我が儘を聞いていたし、段々あいつの甘え度が酷くなっていたから。

 いくら姉弟とは言え、距離感が近くなり過ぎていたのは事実だ。

  

 だけど、咲姫のあの性格が外で出る事は滅多になかった。

 なのにその事をアリスさんが知っている事が疑問だったのだ。


 いや、他にも気になる事がある。

 何故アリスさんは雲母がした事や、雲母と咲姫の約束を知っているのだろうか?


 当事者の雲母が話すとは思えないから、後知ってるのは如月先生か桜ちゃんだけだ。

 

 とは言え、あのポンコツ教師とこのアリスさんに繋がりがあるとは思えない。

 まず人としての格が違いすぎるし、他にも接点が見えないからだ。


 となると、桜ちゃんが話したのか? 


 俺はそう思って、カミラちゃんと二人でじゃれ合ってる桜ちゃんの方に視線を移す。

 ちなみに、白兎は何故かカミラちゃんの横でグッタリとしていた。


 桜ちゃんは小学生みたいな見た目をしてるのに、しっかりと気遣いが出来る子だ。

 決してあの時の事を第三者に漏らすとは思えない。


 だから、アリスさんには俺が考えも及ばないほどの情報網があるのだろう。

 それしか考えられない。


「――そんなの、二人の様子を見てればすぐにわかる」

 俺が先程した質問に対して、アリスさんは(あき)れた表情をしながらそう返してきた。


 アリスさんのこの表情は初めて見る。

 いつも無表情か笑顔しか見せてくれないから、他の表情を見た事がないのだ。


 どうやらこんな表情をさせてしまうくらい、俺はアリスさんに呆れられてしまったようだ。


「そんなにですか?」

「うん」

 俺が流石に見ただけではわからないだろと思いながら聞き返すと、アリスさんは即答して頷いた。

 完全に俺が咲姫を甘やかしていたと思われているみたいだ。


「と、とりあえず話を進めましょう。それで、危険ってなんですか?」


「想像してみればわかるよね? 心の()り所を誰かに盗られたら、その人はどうなる? 依存度によるけど、深く傷つくに違いないよね? そしてあの桃井の子の様子を見る限り、そんな事になれば心が壊れてもおかしくないと思った。だから、成長させる必要があると思ったの」


「なるほど……つまり、家族に依存する桃井を成長させたかったのですね?」


「カイ、一度頬を本気で叩こうか?」


「何故!?」

 俺がアリスさんに、桃井が家族に依存しなくて済むようにしている事を確認すると、何故かアリスさんが怒り出した。

 

 おかしい……俺は真面目に話をしていただけなのに。

 

「はぁ……カイのその考え方には本当に呆れる……」

「いや、俺おかしい事を言ってないですよね?」

 俺がそう聞くと、アリスさんが白い目でジーっと俺の顔を見てきた。


 どうしよう、こんなアリスさんも初めて見る。

 俺、そんなにおかしい事を言ってるのか?


「一つ教えてあげるけど、君が知らないとこでも運命は動いてるんだから、そんな気持ちでいれば二学期に地獄を見ることになるよ?」

 アリスさんは俺にそれだけ告げると、プイっと窓の外に視線を移してしまった。


 どうやら、完全に(あき)れられてしまったようだ。


 しかし、二学期に地獄を見るってどういう事だ?


 俺はアリスさんの言った言葉がどういう事を示しているのかわからずに、アメリカに着くまでの間、ジェット機の中で考え続けるのだった――。

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