第98話「子供っぽくて可愛いモテ女」
「だから、なんで勝手に調味料入れるの!?」
あの桃井の毒料理を見て以来彼女に料理を教えてあげようと思った私は、早速桃井と一緒に料理をしてたの。
本人は『海君に教えてもらうもん』とか、私が凄く羨ましい事を言ってたけど、私はそれを無視した。
だってほっとくとこの子、私と暮らしてるうちに毒料理を量産しそうなんだもん……。
そんな事になるのだけは避けたいし、何よりこれは私の償いでもあるの。
女の子にとって料理ってのは武器なの。
それが致命的に欠けてる桃井に教えるって事は、償いになると思った。
……ごめんなさい。
はい、その気持ちは嘘じゃないけど、少しだけヤキモチが入っております。
だってだって、最近私全然海斗と一緒に居られないんだもん!
なのに桃井は家で一杯居られるだけでなく、料理まで一緒に出来るなんて酷くない!?
私なんて一番最初にアタックをしかけたってだけじゃなく、告白みたいな事もしてるのに最近全然傍に居られないんだよ!?
別に振られたわけじゃないのに!
……知らない、振られた記憶なんて私にはないもん。
遠回しに断られてたとしても、それは振られたとは言わないから!
はっきり言わない限り私は絶対認めない!
ま、まぁそれはそれとして……この子、どうしよう……?
私の目の前には、さっき私が叱った事によって頬をプクーっと膨らませて拗ねている桃井が居た。
まって、やっぱこの子桃井じゃない!
知らないうちに桜と中身入れ替わってるって!
私はあまりにも子供っぽい桃井を目の前にして、一人ツッコミを入れてしまう。
というか、狡くない?
桃井って顔がめっちゃ可愛いのに、こんな子供っぽくて可愛い姿まで見せられたら、男なんて一発で落ちるじゃん!
私勝ち目ないじゃん!
正直学校での桃井なら海斗の趣味には入らないだろうなぁって思ってたけど、これは凄くまずいと思うの。
だって海斗ってこういう子が好きそうだから……。
わ、私も桃井みたいにしてみよっか?
そう思った私は、自分が桃井や桜みたいな態度をとっている姿を思い浮かべてみる。
――うぅ、吐き気がしてきた……。
想像してみたのはいいけど、似合わなさ過ぎて気分が悪くなったの。
こんな姿見せたら、きっと海斗にひかれるよね。
うん、やめとこう。
それにこんな事しなくても、私には私の魅力があるの!
なければ作ってみせる!
そう思った私は、思考を切り替えて桃井に声を掛ける。
「なんで、そんなに調味料を入れたがるの?」
子供っぽい桃井を相手にしてるせいなのか、私は優しい口調で話しかけてしまった。
すると桃井は私の方をチラッとだけ見て、口を開いた。
「だって……いっぱい入れた方が、味がついておいしそうだもん……」
拗ねた様にして言う桃井に対して、やっぱり可愛いと思ってしまう。
だけど、その内容は激しく同意しがたい。
ねぇ、この子って確か全国模試上位常連だったよね?
もしかして勉強しか出来なくて、実際は残念な子なの?
調味料をいっぱい入れれば美味しくなると思ってる事をアホと思ってしまった私は、この後桃井が納得するまで何回も繰り返し料理について教えるのだった――。
2
「海君……」
私は寝る為に自分の部屋に戻ると、フカフカのベッドに寝転がって自分のスマホを見ていた。
スマホを見ていたのは、海君が返信をしてくれてないかどうか確認するため。
だけどメッセージを送ったのは私自身のアカウントじゃなく、花姫のアカウントでなの。
だって、海君にあんな事を言ってしまった今、私のアカウントでメッセージを送るとどんな返事が来るかわからなかったから。
それが凄く怖いの。
でも、連絡は取りあいたい。
そう思った私は花姫のアカウントに頼ったんだけど……海君が連れて行かれた次の日にメッセージを送っても、未だに海君から返信が来ないの。
それが――凄く辛い。
海君があの平等院さんって女の子と一緒にいると思うと、凄く胸が締め付けられて苦しいの。
海君に会いたい。
そんな思いが、凄く胸の内側からこみ上げてくる。
少し前までなら、嫌な事があれば桜に癒してもらって忘れられた。
でも、その桜まであの平等院さんに連れて行かれたの。
なんであの人は私の大切な物を奪っていったの……?
二人とも返してよぉ……。
私は目頭が熱くなって枕が湿ってきたけど、そんな事構わずに顔を枕に押し付けた。
寝る前までなら、西条さんが居るからどうにか無理矢理にでも気を紛らわせることが出来る。
嫌な事があれば他の事に気を紛らわせることは、昔からしていた事だからそう難しくないの。
だけど、私を酷い目に合わせた上に、海君まで盗ろうとしている人に頼らなければいけないのが凄く嫌。
かといってお祖母ちゃん達の家には凛ちゃんが居るから、怖くて帰れない。
普段から暮らしてる家に戻ろうにも、海君の誕生日プレゼントに奮発しちゃったから、お金が足りない……。
だからどんだけ嫌いだとしても、西条さんに頼るしかないの。
彼女は凄く優しくしてくれてるけど、私は騙されない。
だってあの人は、最低な人だから。
私は絶対に西条さんに気を許さないと思いながら、海君のアカウントを開いた。
そのアカウントを見るだけで、今までの事を思い出して涙が出てくる。
「海君……会いたいよぉ……」
私は目からこぼれる涙を拭く事をせず、ただひたすら海君のアカウントを見続けるのだった――。
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