第97話「アメリカに行ってまで会うべき相手」
「それで、何処にいくんですか?」
今日も一日中走らされると思っていた俺に対して、朝早くにアリスさんが出掛けると言ってきた。
そして、今はリムジンに乗って何処かに向かっているのだ。
ちなみに桜ちゃんや白兎、それにカミラちゃんも一緒だ。
「アメリカ……」
俺の質問に対して、アリスさんはいつもの様子で返してきた。
ただ、その答えはおかしい。
「……はい?」
俺は聞き間違いをしたのかと思い、首をかしげてアリスさんの方を見る。
するとアリスさんは、もう一度同じ言葉を口にした。
「だから……アメリカに行く……」
「いや、いきなりすぎませんか!? 俺何も準備してないですよ!?」
「大丈夫……。荷物は全て……送ってるから……」
「いやいやいやいや! 何が大丈夫なんですか!? それって俺の着替えとかもって事ですよね!?」
「もちろん……。カイは走るのに忙しかったから……代わりに準備しておいた……」
「誰が!?」
俺の着替えに関して誰が準備したのかと聞くと、アリスさんはニコッと微笑んで答えてくれなかった。
下着とかもあるというのに、一体誰が準備したのか。
俺はそれが凄く気になったが、アリスさんの笑顔から答えを聞くのが怖くなってきた。
ただ、多分下着とかは新調してくれてると思う。
なんせ俺がここに来てからそれほど日にちも立っていないし、ここでの下着や服は全てメイドさんが新調してくれたからだ。
だがしかし、俺の考えは甘かったようだ。
「もちろん……カイの家にあったのを……とってきた……」
俺が一人納得しようとしていると、まるで俺の心の中が読めるかの様に、アリスさんがそんな事を言ってきた。
「こんな時に限ってなんでわざわざとってきてるんですか!? てか、どうやって入ったんです!?」
「カイの反応が……面白そうだったから……。鍵は……ちびっ子天使が……あけてくれた……」
アリスさんが楽しそうに笑いながらどうやって家に入ったかを教えてくれたため、俺が桜ちゃんの方を見ると、何故か桜ちゃんは頬を赤くして顔を背けた。
え、なんでこの子今、頬を赤くして顔を背けたの!?
もしかして俺の下着とか準備したの桜ちゃん!?
流石に妹に下着を準備されたとなると、恥ずかしい物がある。
洗濯だって、俺や父さんのはわざわざ別で洗ってるくらいだ。
「良い反応……」
ダラダラと冷や汗を掻く俺に対して、アリスさんが可愛らしい笑顔を向けてきた。
俺はそんなアリスさんに対してガックリと来てしまう。
「アリスさん、俺で遊ばないで下さい……」
「まぁ……気分転換……」
気分転換って、普通良い方にだよね?
俺、思いっ切り悪い方に気分転換してしまったんだけど?
ただ、今も尚俺の横で楽しそうに笑っているアリスさんを見ると、なんだかそんな事を言うのは憚られた。
「それで、なんでアメリカに行くんですか?」
アリスさんに文句を言う気が失せた俺は、最初ら辺に気になっていた事を質問する。
「クロに……会いに行くから……」
「え? クロって、アメリカ人だったんですか?」
俺はてっきり日本人かと思っていたが、アメリカに居るという事はそうなのかもしれない。
元々話では紫之宮財閥に付いた男としか聞いていなかったため、勝手に日本人だと思っていた。
「ううん……クロは日本人……」
だがしかし、俺の疑問をアリスさんはあっさり否定した。
「あ、そうなんですね。だとしたら、留学ですか?」
日本人だとすれば、それ以外はあまり考えられない。
だけど、アリスさんは今回も首を横に振った。
「違う……。クロは……手術の為に……アメリカに行った……」
「手術……?」
「そう……。クロは……脳に病気をもっていて……手術しなければ……死ぬところだった……。その手術も……普通なら成功率が低く……失敗すれば死ぬものだったけど……。紫之宮会長が……世界最高レベルの医者を……手配して……成功したらしい……」
紫之宮社長ではなく、紫之宮会長が手配したのか。
確か紫之宮会長は、名前を会社に残しているだけで、実質もう引退している人だったな。
ただ引退しているとはいっても、現役時代に見せた経営手腕から、今も尚大きな発言力を持つと噂されている。
噂は定かではないが、クロは、そんな男までが力を貸す程の人間という事か……。
「でも、どうして俺とクロを合わせようとしているんですか? どちらかというとライバル関係になろうとしてるんだから、会わせたくないものかと思っていましたが?」
「それは違う……。アリスの望む未来は……三人で手を取り合う必要がある……。ただ……クロの影響力が強すぎるから……カイに頑張ってもらう……必要があるって事……。アリス的には……切磋琢磨できる……関係が理想……」
アリスさんは澄んだ瞳で俺を見据えて、自分の考えを教えてくれた。
その目から、嘘を言っていないのはわかる。
「それで俺とクロを会わせる事で、お互いに意識させたいって事ですか?」
「それもあるけど……少し違う……。今のカイには……必要な物が足りないから……クロに会わせる事にした……」
「足りない物……?」
「そう……。それを満たすのが……。白兎の子と……クロ……」
アリスさんはそう言うと、白兎の方を見た。
白兎は今、カミラちゃんの相手をしていてこっちの話は聞いていないみたいだ。
「白兎もですか?」
「うん……。まぁ……いずれわかる……」
「教えてはくれないんですか?」
「これは……教えてなるものじゃ……ないから……。それにカイは……まだ自分がした事を……気にしてるでしょ……?」
アリスさんは俺の方に視線を戻すと、俺が誤魔化していた部分をついてきた。
確かにアリスさんの言う通り、俺はどうしてもこの前の出来事が頭から離れない。
それを思い返す度に、暗い気持ちになってしまう。
だけど、アリスさんに慰めてもらって以来は、皆に心配かけない様に隠していたんだがな……。
「顔とかには出さない様に気を付けてたんですが、わかりますか?」
俺は隠してもアリスさんには通じないと思い、正直に白状した。
「見ればわかる……。我慢できるのは立派だけど……溜め過ぎは良くない……。アリスが全て引き受けてあげたいけど……カイが言えない事も有ると思うから……」
一瞬、アリスさんが残念そうな表情をした様に見えた。
彼女は俺の事をよく考えてくれてる事がわかる。
いや、俺だけじゃない。
あの夜、俺が気絶した後の事やアリスさんが取った行動の意味などを桜ちゃんから聞いていたが、この人は咲姫や雲母の事も考えて動いてくれている。
俺と年齢が同じで、体も俺に比べて結構小さいのに、一体どれだけ器が大きいのか。
やはりこの人は、俺なんかとは格が違うと思った。
まぁそれはそれとして、今凄い事言われなかったか?
なんか『全て引き受けてあげたい』って言われると、ちょっと勘違いしそうになるよな?
俺がそう思ってアリスさんを見ると、アリスさんは無表情でカミラちゃん達に話しかけていた。
一体、アリスさんは俺の事をどう思ってるのだろう?
俺はその事が気になり始めるのだった――。
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