第95話「二人だけの共同生活スタート」
海斗が大暴れした夜に戻り――
「ねぇ、もう泣きやみなよ……」
私はアリスの別荘につくと、ここまで手を引いて連れてきた桃井に声をかけた。
この子は山でアリスに泣かされて以来、ずっと泣き続けている。
学校一モテて、そして学校一冷たい女のこんな姿誰が思い浮かべれるのかな。
少なくとも私には無理。
……と言って、桃井が泣き崩れる姿を見たのは二度目だけどね。
一度目の事は、もう二度と忘れる事は無いと思う。
それだけあの時の光景は、私の脳に焼き付いているから。
……それもあるんだろうね。
桃井の泣いてる姿を見てると、あの桃井を嵌めた時の事を思い出して辛いの。
だから、桃井に早く泣き止んでほしいと思ってるのかもしれない。
「だってぇ……」
桃井はここに来て初めて口を開いた。
今まで山から移動している最中私が話しかけても、一言も返してこなかったのに。
彼女が何を言うのか――それが気になった私は、桃井の言葉に耳を澄ます。
すると桃井は、私が耳を疑う発言をした。
「だってぇ……海君が寝取られたぁ……!」
「ぶっ――! は!? 今なんて!?」
ねぇ!
今この子なんて言った!?
今のって私の聞き間違い!?
桃井が人生で一度も口にしそうにない言葉が聞こえてきた私は、思わず泣いている桃井に聞き返してしまった。
「あの金髪の子に海君が寝取られたのぉ……! うわぁあああああん!」
桃井はそう言うと、また泣き始めた。
「いやいやいやいや! なんで!? なんでそうなるの!? 全然寝取られてないよね!? というかあんた、そんな言葉知ってたの!?」
混乱した私は一辺に桃井に質問を投げかけてしまった。
だって、仕方ないじゃん!
どこからどうなったら海斗が寝取られたって事になるのか気になるし、そもそも桃井が『寝取られ』って言葉を知ってたのが驚きなんだもん!
「だってだって、金髪の子に海君が連れて行かれたぁ~!」
「なんでそれで寝取られに繋がるのよ!」
「……前に海君の部屋にあの子が居て、海君に膝枕してたもん……! 絶対海君の事狙ってるよぉ!」
「へぇ……?」
桃井から海斗が膝枕をアリスにしてもらってたという事を聞いた私は、腹の底から込み上げてきた感情にのまれる。
そう、アリスの奴、私が知らない間に海斗に膝枕してたんだ。
うん、アリスなら大丈夫だと思って海斗の事任せたのに、あの子海斗を独り占めしたって訳ね。
とはいっても、今更そんな事言っても遅いし、桃井を一人にする訳にもいかない。
とりあえず桃井が復活してから問い詰める事にしよう。
――海斗をね。
まぁ今は海斗だけじゃなく、桜や白兎が居るから、流石にアリスが海斗を抱き込もうとしたりはしないと思う。
だから、今はとにかく桃井の事を考えなくちゃ。
「とりあえずそれはあんたの被害妄想だけど、今はとにかく家に入ろ? ね?」
私がそういうと、桃井はコクンっと頷いた。
てかこの子、よく何も文句を言わずについてきたよね?
私が招く家だから、絶対嫌がると思ってたんだけど……それだけ桃井は落ち込んでるのかもしれない。
まぁ元々一筋縄に行くなんて思ってないから、問題ないの。
とにかく私は一生懸命頑張るだけだから。
2
「何これ……?」
家の中に入ると、海斗の誕生日パーティーの為に準備していた飾りがあり、桃井が戸惑ってた。
「あ、えと、これはね?」
ここで海斗の誕生日会の準備をしていたという事を桃井に伝えると、それは彼女と海斗の二人っきりの時間を邪魔する予定だったと宣言する物だったから、私はこの説明をどうしようか悩む。
でも、こんなパーティーをする良い理由なんてそうそう思いつかなかった。
すると、私よりも早く桃井が口を開いた。
「お金持ちって変わってると思ってたけど……ここまで変わってるのね……」
桃井はどんな捉え方をしたのか、ドン引きしていた。
「いや違うから! これお金持ちがみんなしてるわけじゃないから!」
「そうなの……?」
私が否定すると、桃井が不思議そうに首を傾げて私の事を見た。
なんでこんな事に対して不思議そうにしてるのよ。
というか普通に見たら、パーティー会場ってわかるでしょうが……。
私はそんな事を言いそうになるけど、今傷心状態の桃井には流石に言えなかった。
だから、言葉をなんとかのみこむ。
その代わりに別の話題を振った。
「とりあえずご飯にしない? 私が作るから、何かリクエストがあったら言ってよ」
私が笑顔でそういうと、桃井は戸惑ったような表情をする。
少しだけ回復したからか、今までの事を思い出して私と二人っきりなのが気まずいのかもしれない。
まぁ回復したと言っても、やっと話せるようになったくらいで、今も尚落ち込んでるのには変わりないみたいだけど……。
これから大変そうね……。
でも、だからこそ償いが出来るんだと思う。
どれだけ大変だろうと、私は桃井の為に頑張る。
それが――私の罰で、海斗との約束でもあるから。
ここから、私達二人だけの共同生活がスタートするのだった――。
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