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第93話「アリスの前では泣き言を言っていい」

「失礼します……」

 人生で滅多に食べる事がないくらい豪華な晩飯を食べた俺は、アリスさんに呼ばれているとの事で彼女の部屋を訪れた。


 正直言えば、憂鬱(ゆううつ)でしかない。

 また過ちをおかしてしまった俺は、彼女に顔向けできないのだ。

 あんな事をしでかしたからこそ、アリスさんの指示で俺は朝から走らされ続けたのだろう。

 そのせいで今は歩くのもしんどい。

 

 しかしアリスさんに呼ばれているとなれば、無視する訳にもいかない。

 だから俺は彼女の部屋を訪れた。


「ん……こっち……」

 俺が部屋を訪れると、アリスさんはベッドの上へと移動して座り、ポンポンッと自分の座る横を叩いた。

 隣に座れと言っているのだろう。

 

 俺はアリスさんの言う通りに彼女の横に座った。 

 流石あの平等院財閥のご令嬢が使っているベッドといえるだろう。

 アリスさんのベッドは、体が深く沈むくらい柔らかいだけでなく、フワフワで座り心地がとても良かった。


 だけど、今の俺はそれどころじゃない。

 昨日の事を負い目に感じているからか、凄く居心地が悪かった。

 

 そんな俺の表情を見ていたアリスさんは、何故か俺の後ろに回ってきた。


 そして――ソッと俺の体を後ろから抱きしめてきた。


「アリスさん……?」

 元気が出ない俺は、いつものように驚いたりはしなかった。

 ただそれでも、彼女の突然の行動に戸惑ってはいた。


「カイは……色々抱え込みすぎ……」

「抱え込みですか……?」

「うん……。もっと……不満や不安を吐き出していいんだよ……」


 アリスさんは優しい声でそう言うと、前に膝枕をしてくれた時みたいに俺の頭を撫で始めた。

 完全に子ども扱いだなと思いながらも、今の俺には何故か心に染みた。

 だから、アリスさんにされるがままに受け入れてしまう。


「……わからないんですよ……」

「わからない……?」

「はい……もう何もわからないんです……。それに、何だか自分が自分でなくなっていく感覚がするんです」

 俺はそんな風に、今まで抱えていた不安を吐き出してしまった。


 桐山を見殺しにした事を思い出してから、何だか感覚が変わっていた。

 それをより自覚したのが、アリアが泣き崩れる姿を見た時だ。


 そして――桜ちゃんが桐山に襲われているのを目にした時、俺の理性は完全に飛んでいた。

 何だか本当に、自分が自分でなくなっていってるようだったんだ。


「大丈夫大丈夫……。カイはカイだから……」

 俺が不安を吐き出している最中も、アリスさんは優しく頭を撫で続けてくれていた。

 そんな事をされた俺は、何だか胸が苦しくなり、目頭が熱くなってきた。


「今回カイが自分を忘れたのは……大切な妹が襲われてたから……。誰だって大切な人が襲われてたら……自分を忘れるくらい怒るもの……。だから大丈夫だよ……。カイがおかしくなってるわけじゃないから……」

「でも……そのせいで、桜ちゃんを怖がらせてしまいました……」

「ううん……。ちびっこ天使はカイに感謝はしていたけど……怖がっては無かったよ……」

「そうなんですか?」


「うん……危険な目に遭ってる所を助けてもらって……感謝しない訳がない……。寧ろ自分の為に怒ってくれてるって……思うよ……? それに……カイはもっと……自信をもっていい……」

「自信ですか……?」

「そう……。カイは……もう引きこもってた時とは……違う……。今はもう……カイを慕っている子達が……数人いる……。それも……皆が羨ましがる子ばかり……」

 皆が羨ましがる子か……。

 そう言われて思い当たるのは、雲母に桜ちゃん。


 それに……咲姫か……?


「あいつらは俺の何処を慕ってくれてるんでしょうね……? 俺はこんなにもクズ野郎なのに……」

「自分の魅力は……自分じゃわからないんだろうね……。カイは素敵だよ……? あの子達は皆その事をわかってる……」


「よくわかりません……。それに好意を向けてくれる事に対して、素直に向き合うのも怖いんですよ……。前に春花……アリスさんには中学時代に話したんですけど、覚えていませんよね。俺って中学時代に仲が良かった子と両思いだと思ってて、告白した事があるんですよ。でも、結果は見事に振られてしまいましてね。それだけじゃなく、相手の子を泣かせてしまったんですよ。正直告白をして泣かれるなんて思ってなくて、凄くショックを受けたんです。挙句の果てに俺の告白が嫌だった相手は、俺と縁を切る為にその一週間後に黙って転校して行っちゃったんです。もう俺は、そんな勘違いをしたくないんです」

 

 俺は笑い話をするかのように明るく振る舞って、俺が一番気にしていた部分を打ち明けた。

 笑い話の様な話し方をしたのは、まだその事に正面から向き合えず、冗談風でしか言えなかったのだ。


「覚えてるよ……。カイはね……一つ大きな勘違いをしてる……」

「大きな勘違い……?」

「そう……。そもそも……常識的に考えて……カイが思ってる内容には無理がある……」

「どういうことですか?」


 アリスさんの言ってる意味が分からなかった俺は、素直に尋ねてみる。

 彼女は少しの間だけ考えると、ゆっくりと口を開いた。


「多分……振られたのがショック過ぎて……まともに判断できなかったんだろうね……。でも、ごめん……。その答えは……自分で見つけないと駄目……。ここでアリスが教えるのは……あの子達が可哀想だから……」


「あの子達って、咲姫達の事ですか……? ……すみません、ちょっと繋がりが見えないのですが……」

「うん……。教えてあげたいけど……それも、カイが自分で気づかないと駄目……。後……好意をちゃんと受け止めないのは……相手を傷つけてるって事も理解しないと……駄目……。すぐに答えを出す必要はないけど……ちゃんと向き合ってあげないと……駄目だからね……?」


「え、えっと……どういうことなんでしょうか……? 正直全くわからないのですが……」


 アリスさんの言葉に脈略が無いと言うか、俺の疑問が解消されないまま話が進められているせいで、俺は全く理解出来なかった。

 俺が振り返ってアリスさんの顔を見ると、アリスさんは優しい笑顔を浮かべて俺の事を見ていた。


「君は……あの子達の前では……カッコイイ人間でいないと駄目……。でも……アリスの前では……泣き言を言っていい……」

「また話が変わりましたね……。でも……ありがとうございます……」


 俺はこの時、アリスさんに優しく抱きしめられて頭を撫でられたことによって、気持ちが軽くなっていた事も有るが、彼女が話をコロコロ変えているのが、俺の思考を頻繁に切り替えていく事によって、悪い事を思い出させない様にしている事に、気付く事はなかった。


 正直、アリスさんと居ると凄く気持ちが安らぐ。

 普段他の子達が色々と元気が良すぎるせいか、口数が少なくて大人しい雰囲気のアリスさんといると、心が落ち着くのだろう。

 俺がこの雰囲気に安らぎを感じていると、やっぱり俺にだけ容赦がない神のいたずらが起きた。


「お姉さまぁ、一緒に寝たいですぅ……」

 そんな少し甘い声で、寝ぼけ気味にアリスさんの部屋に入ってきたのは、銀髪猫耳少女――カミラちゃんだった。


「「「あ」」」


 カミラちゃんが急に部屋に入ってきた事によって、俺達三人は顔を見合わせて固まった。


 ただ、固まったのは一瞬だけだ。

 次の瞬間には、一体どこから取り出したのか凄く問いただしたいのだが、カミラちゃんが『やっぱこの男も薙ぎ払うです!』っと、薙刀型の木刀を手に持って俺に襲い掛かってくるのだった――。

いつも『ボチオタ』を読んでいただきありがとうございます(^^♪

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