第2話「学校一のモテ女にストーカーされるんですが……」
俺が学校で苦手とする生徒は二人居る。
一人目は――西条雲母という女子だ。
彼女とは一年生の時から同じクラスなのだが、話した事など数えるほどしかない。
しかも全て、何かしらの仕事を押し付けられただけという。
そんな彼女は、クラス内の女子をまとめる存在だった。
つまり、女子のリーダーなのだ。
なぜ、俺が彼女の事が苦手かだって?
そんなの察してくれ。
女子をまとめる役目を果たす奴なんて、大抵怖い性格をしているに決まっている。
しかも、彼女は金髪だ。
服装などにうるさくない学校ではあるが――流石に金髪は彼女一人だ。
彼女には近づかないようにするのが、身の為だろう。
それにあいつは、他の生徒と考え方が違う。
俺の知る限り、あいつは最も危険な人間だ。
俺がそう思う理由は複数あるのだが、その一つとして、あいつは周りの生徒を見下している。
他の生徒が気づいてるかどうかはわからないが、人の目を気にして生きてきた俺にはわかる。
あいつは自分の周りに居る人間を友達だと思っていない。
ただ、自分の言う事を聞く下僕だと思っているのだ。
なぜ皆彼女の言う事を聞くかって?
明らかとなっている理由は二つ。
まず一つ、彼女が桃井に次ぐ美少女だからだ。
そして、お洒落にもしっかり気を遣っている。
その容姿が周りを惹きつけるのだ。
そんな彼女に頼まれた男子は、大抵断らない。
変な期待でもしているのだろう。
……俺が断らない理由は、そんな下心からの理由じゃないぞ?
ただ単に怖いだけだ!
……あれ?
もっと情けない気が……。
まぁ、そんな事は置いといて、二つ目の理由だ。
それは、彼女が超がつくほどの大金持ちだからだった。
西条財閥という日本屈指の大手財閥が、彼女の実家だ。
そんな彼女は、周りに色々な施しをしてやっている。
例えば服を買ってやったり、遊ぶ時にかかる費用を全て負担してやったりしているのだ。
だからみんな、甘い蜜を吸おうと彼女に媚びる。
一年生の時だけではなく、二年生になってもそんな奴と同じクラスだというのが凄く嫌だった。
俺は出来るだけ目を付けられない様に、日々を頑張って過ごしている。
そして、二人目は――桃井咲姫だ。
『は?』って、思ったか?
なんで、学校一のモテ女の事を苦手としているのかって?
……高スペックが目立って忘れているかもしれないが、彼女の性格は冷徹だ。
校門で告白した男子も、素っ気なく振られた後、意識から忘れ去られていただろ?
あれが彼女だ。
実は、一年生の時一度だけ話しかけられたことがある。
その内容は――
『邪魔』
――の、二文字だった。
……俺、初対面だよ?
この時の俺が、どんな気持ちだったかわかるか?
ムカついた?
悔しかった?
違う、そんなものじゃない。
『怖い――』だ!
なんで初対面の女子に、背後からいきなりそんな事を言われなければならないんだ!
そして、あの時の冷徹な目!
今思い出しても寒気がしてくる!
そう言った理由から、俺は彼女の事が苦手だった。
全く……なんで、こんな奴らがこの学園に居るんだよ……。
この学校は生徒数が多いのと、敷地がデカいだけが取り柄の公立校だぞ?
西条さん、お前お金持ち専用の私立校にでも行っとけよ。
お前みたいなお嬢様が来るような学校じゃないだろ、ここは?
……見た目は全然お嬢様じゃないけどな。
そして桃井、お前の学力でこの学園に進学しているってどういう事?
全国模試ですら上位に入るお前なら、もっと頭の良い学校に行けただろ。
……俺が桃井の全国模試の結果を知っているからって、別に調べたりとか、ストーカーとかじゃないからな?
学校で有名な話ってだけだ。
……まぁ、俺が誰かから教えてもらったとかじゃなく、他の生徒達の会話から聞こえてきただけなんだがな……。
悪かったな、ボッチで!
なんでこの学校は無駄にスペックが高い奴らが居るんだよ……。
この学校にはこの二人を始めとした、スペックが高い奴らが他にもゴロゴロと居た。
……まぁそれはさておき、どうして急にこんな話をしだしたかって?
その元凶は廊下に居た。
俺はチラッと、その元凶を見る。
見てる……明らかに俺の方を見てる……。
そう――数日前から、俺はある人間にずっと見られていたのだ。
誰に見られているかって?
ここまでの話の流れでわかるだろ?
西条さんは教室で、友達数人と固まって話をしている。
つまり、廊下に居るのは西条さんじゃない。
じゃあ、誰だ?
先ほど、西条さんと並んで俺が苦手にしている人物の名前をあげたよな?
そう――桃井咲姫だ。
なんで見られてるのかって?
俺が聞きたい!
自意識過剰だろって思ってるかもしれないが、残念ながらこれは俺の思い込みではない。
確かに今の状況ならクラスメイトが大勢クラスに居るため、俺を見ているとは限らない。
だが、ある時は廊下ですれ違う時。
ある時は、一人で昼食を食べている時。
挙句の果てに、俺の下校の時まで、ジッとこちらを見てくるのだ。
しかも、その姿を隠そうとしない。
だから、はっきりと俺にもわかるのだ。
誰か、あいつをどこかに連れて行ってくれ……。
桃井の取り巻きはどうした?
なぜ今居ない?
どうせファンクラブもあるのだろ?
お前ら、ちゃんと活動しろよ。
ていうか、誰一人桃井の行動に疑問を持たないわけ?
ここ数日のあいつの行動、どう考えてもストーカーだよね?
あいつがやることは、なんだって正義なの?
はぁ……なんで俺がこんなに桃井に見られないといけないんだよ……。
誰か、あいつを連れて行ってくれぇ……。
俺は適当な誰かに祈りながら、桃井の視線から隠れる様に机へと突っ伏すのだった――。