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勇者は感傷的であることを気にしている

何故か僕が前に出ると、先ほどまでの笑い声がしんと消えた。そのことに僕は少しの緊張を覚える。ブレインはこの状態で軽口を叩いたんだから、たいしたものだ。


「ユーシャ、お前は昔は、本当に弱っちいやつじゃったのう。じゃが、お前は挫けんやつでもあった。お前の地道な努力が、今のお前をつくったんじゃ」


そう、僕は、それこそ腕っぷしすら女子のメイズやヒイラに負けるくらい、弱かった。魔法の勉強も得意ではなかったし、かといて戦術や戦略を立てるのが上手いわけでもない。

もちろん、今では旅に出れるくらいには成長した、はずだ。多分。けれどそれは、僕の努力だけが成したのではない。そう思い、口を開く。


「村長や皆が、僕が強くなることを助けてくれたからだよ。修行に付き合ってくれたり、魔法や勉強を教えてくれたり、料理なんかも僕一人じゃ多分できなかった」

「ふぉふぉ、そう言われると鼻が高いのう。……そう、お前は、お前たちは立派に育った。右手に印を刻む者として。魔王を倒す者として」


ふと、村長の顔が陰る。


「じゃが、たまに、今でも思うのじゃ。わしはお前たちを勇者とその仲間として育ててきた。出来る限りの努力はしたつもりじゃ。……しかし、これで本当によかったのか」

「村長?」

「お前は優しい、あまりにもいい子たちじゃ。本音を言えば、この村から出したくはない。どんな危険があるかもわからぬ、わしらの知識も力も及ばぬ場所に、行ってほしくなどないのじゃ」


村長はそこで言葉を詰まらせる。僕は静かに微笑んだ。


「……魔王は世界を征服するため、魔物を生み出し、人を残らず喰らいつくす。だからこそ、それを止めるべく勇者たちはこれを駆逐せねばならない。……ありきたりな話に振り回されるものですね、僕たちも」


それは昔から伝わる書物。その冒頭の一節であり、原初の勇者が後世に残した遺志。僕たちはそれを無視するわけにもいかず、その言葉を信じるしかない。原初の勇者はもはや信仰の対象ですらあった。何故なら彼がいなければ、僕たち人間はとっくの昔に滅んでいたはずだからだ。


「僕たちがやるべきことは、産まれた瞬間から決まっていました。それがまったく重荷でなかったと言えば、嘘かもしれない。……けれど、それでも僕は、僕たちはこの使命を誇りに思います。……大切な人を守ること以上の願いなんて、あるわけがない」


姿勢を正す。村長を真っ直ぐ見据える。村長のその瞳の奥に、今まで出会ったすべての人がいるかのように。


「……村長、皆、僕たちの願いを叶える力を育ててくれて、ありがとうございました」


頭を下げた。頭上から村長の嗚咽まじりの声がする。


「……無力でお前たちに使命を押し付けるわしらを、許さなくともいい。だからお願いじゃ」


帰ってこい。その言葉は言葉になっていなかったが、それでも僕たちには伝わった。




セレモニーは終わった。村長の言葉が終わると、村の皆にかこまれてもみくちゃにされた。メイズの顔が涙にぐちゃぐちゃになっていた。面白かったので指摘すると、メイズは僕を指差し、「お互い様でしょ」と言った。僕の目から流れているのは熱気による汗に違いなかったから、きっとメイズは目が悪いんだと思う。

お昼を告げる鐘が鳴った。そろそろ出発しなければいけない。けれど、鐘の音など聞こえなかったという風に、村の人は話を続けた。けれど誰も、ヒイラすら、その話を中断させそうとはしなかった。みかねたシュダンさんが僕たちから村の人を引き離した。


「皆、本音のところあんたたちを引き留めたいのさ」


シュダンがその時に、こそっと教えてくれた。僕の目の汗はなかなか止まらないようだった。

僕たちは門へと足を進めた。皆が見送ってくれていることは、振り返らなくてもわかった。


「おい、上をみろ」


タンクに声をかけられ、視線を上へ向ける。

門には「あなたの帰りを待っている」ーーそう書かれていた。


「ねえ、ユーシャ」


隣からメイズに声をかけられる。汗だらけの顔を見せるのははばかられて、顔を向けずに返す。なんだか声が裏返る気がしたから、手短に。


「なに?」

「……楽しかったよね、ここの生活」

「うん、そうだね」

「皆、優しかったよね」

「うん」

「私、幸せだったなあ」

「……僕もだよ」


限界だった。これだから嫌なのだ。僕はきっと、ほんの少しだけ、感傷的だから、だからこういう別れが苦手なのだ。メイズとの会話に耐えきれなくなり、僕は歩調を速める。

ああ、でも、今日くらいいいかな。言い訳がましく涙を汗と偽らなくても。せめて、あと三歩、この門を通るまでは。






好きな絵本があった。題名は『ほこりたかき ゆうしゃの はなし』。

涙でぐしゃぐしゃな僕は、きっと誇り高くはないんだろうけど、それでも皆を守れるかな。絵本の勇者のように。

そしていつか必ず帰ってこよう。この村に。

プロローグは置いておくとして、前二つに比べ短くなってしまったのが反省点。他の方がどれくらいの文字数で書いてらっしゃるのかが気になります。

尚、次の話は村人サイドの予定ですので、また短くなると思います。統一できないのをどうにかしたいです。

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