プロローグ
可愛らしいタッチで描かれた二頭身のキャラクター。剣を片手に持ち、口を真一文字に結んでいる。当然、だからといって凛々しそうには見えない。その上には、これまた優しい書体で大きめに、
『ほこりたかき ゆうしゃの はなし』
そう書かれていた。
この絵本の内容は読むまでもなく想像に難くないし、実際に大方の人の想像通りなのだ。それでも僕はこの絵本が物心ついた時から大好きで、その想像通りの内容を何度も読んできた。今では一言一句間違えずに諳じる自信さえある。
……それなのに僕はまるで魔法にでも掛かったかのように、また表紙を捲るのだ。
『むかしむかし やさしくて ゆうかんな 一人のゆうしゃがいました。
ゆうしゃは やさしい人が いっぱいの 小さな村で 育ちました。
そして ゆうしゃには やさしく たのもしい 仲間がいました。
ゆうしゃは そんな仲間たちと いつも楽しく くらしていました。
ゆうしゃは この村が 大好きで この村の人も 大好きでした。
だからゆうしゃは この村のみんなのために なんでもしたいと 思っていました。……
……勇者の願いなんて、たったそれだけだった。今思えばそれはなんて皮肉なことだろう。
まだ一頁も読み進めない内に、自然と視線が止まった。僕は本から顔を上げ、そしてほんの少しだけ微笑んだ。
勇者の冒険は、そんな願いから始まったのだ。
絵本と違って、誇り高くなど決してない冒険のページは、斯くて捲られていく。