6話「悪魔っぽい奴」
体の自由が効かない!
くそっ、なんだアイツ、行き成り過ぎる!
自分の意思に関係無しに走り続け、ついに城門までたどり着いたらしい、やっと止まった。
道とか知らないのにどうなってるんだコレ。
城門はボロボロだった。木製の大きな両開きの扉は下半分が粉々になっていた。
そしてその木屑の上を歩いてくる何か。
体は黒色、後ろには羽、額には角。いかにも悪魔ですって感じの人間では無い者。
「ほう?もう英雄を召喚していたか」
その人間では無い者が喋った。どうやら言葉は理解出来るらしい。
それより・・・、こいつと戦うのか・・・。
あの城門、普通の人間が壊せるレベルじゃない。
そして今気付いた。唯一の希望、ステッキの使い方を聞かされてない事に。
どっかボタン押すの?電池式?
っていうか体動かないんですけど?!
「動かないのか?ではこちらから動かせて貰う!」
違う!動けねーんだっつーの!
そして私の体は無慈悲にもこの悪魔っぽい奴の右ストレートにより壁まで吹き飛んで行き、大きな音と土煙を上げて壁に衝突した。
痛い・・・と思ったがそうでもない?
痛くない、衝撃は凄かったが痛くない。
そして起き上がる、私の意思とは関係なしに。
「手加減をしたとはいえ無傷か」
そう言いつつ近づいてくる。
ダメだ完全に舐められている。人間の力なんて余裕なのだろう。このまま嬲り殺しか?何もしないまま殴られ続けるのか?そんなの嫌だ・・・。
私は・・・。この世界に何しに来た?絵流に会う為だろ!こんな所でサンドバックにされる為じゃないだろ!
相手は殴るモーションに入っている。
痛くない、殴られても痛くないんだ。でも違う!それだけじゃ勝てない!
こいつを倒して、絵流に会う!
そう強く思った、時右手に握っていたステッキが輝き始めた。
ステッキが輝いた事で相手に一瞬躊躇いが生じた。
そしてその隙に藍は相手の背後に回り込み、相手の腰に抱きつく形で抱え、自身の両手を相手のへその辺りでクラッチし体をブリッジする勢いで悪魔を石畳に沈めた。
ジャーマン・スープレックスである。
そして悪魔っぽい奴は額の角が折れ、頭が完全に石畳の下の土まで埋まっていた。
「とっさに繰り出してしまった・・・」
気付けば体が勝手に動きやってしまっていた。反省はしてない。後悔もない。
あえて言うなら、ステッキはもう輝きを失っていた。
「ステッキのお陰で動けたのか?」
右手に持っているステッキをブンブン振り回しても光ることはなく。何故動けるようになったのか真因は闇の中だった。
そして悪魔っぽい奴は動く様子は無い。倒したのだろうか?
「誰か・・・確かめてくれないかな・・・」
特に疲れた理由でも無く、痛い所も無い。が、精神的な疲労は凄まじかった。
藍のつぶやきは風に流され、兵士が城の中から出てくるまで一人佇んでいた。
そしてそれを唯々黒い鳥が城の上から眺めていた。